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【三章】技術大国プラセリア
16.バトルロイヤル①
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俺が選手控え室へと来てからおおよそ一時間。俺は正体がバレないよう外套のフードを目深に被りながら、部屋の隅で膝を抱えていた。
幸い他の出場者も精神統一していたのか緊張していたのか、どちらかはわからないが皆殆ど会話はなく、俺のことを気にしている余裕はなかったようだ。
控え室にモニターなどがなかったので様子はわからなかったが、会場では激戦が繰り広げていたようで、音や振動は控え室にも届いていた。
「Dグループの選考が終了しました。Eグループの皆様は準備をお願いします」
コンコンと扉が叩かれ、いよいよ出番が告げられる。
(ああ、やっと出番か……これでやっとこの空間から解放されるぞ)
この時には、戦うことよりも正体がバレるのを恐れながら待っていることの方にプレッシャーを感じていた。
それがもう終わるんだと思うと、心が晴れやかになる。
Eグループは全員で十人。それぞれが違う開始位置へと誘導される。
そして、開始の合図がかかる。
「よしいくぞ……! 頼むぞサイクロプス。人形接続!」
人形接続……契約紋を持つ者がこの起動式を唱えると、手にしている全長十センチほどのプラモデルが、一瞬にして百倍近くの大きさへと変わり、巨大兵器『魔動人形』が現れる。
その力は言わずもがな、腕のひと振りで大概の魔物は容易く駆逐することが可能である。
今回の戦いはそれが十体……ちょっとした戦争のような気分だった。
「さすがに十体もいると会場が狭く見えるな……」
円形の会場の円周上に等間隔に魔動人形が並ぶ。
一対一であれば十分すぎる広さなのだが、さすがにこれだけの機体が並ぶと手狭に思える。
「あ、そうだ……スマホを接続しないとな」
俺が唯一この異世界に持ち込めた物はこのスマホ一つだけだ。
だが本来の使い方はできずに、謎のアプリが不定期に追加されていく。
自分のステータスを見たり、アイテムボックスとしても利用できたりと、今や手放せない便利アイテムと化している。
その中の便利な機能の一つとして、スマホを魔動人形に接続することで様々な補助機能が使えるようなる。
「よし……っと。ステータスを確認している時間は……なさそうだな」
俺はスマホを接続すると、前を向く。
眼前には俺が今乗っている魔動人形『サイクロプス』のメインカメラが捉えている映像が映し出されている。
ちょうど対面の魔動人形が今にも飛び出しそうな雰囲気で待ち構えていたのだ。
スマホの画面を確認していて突然始まってしまったら一瞬で決着が着きかねない。
俺は気持ちを切り替え、メインモニターを凝視しながら、いつ始まってもいいようにスフィアに手を添える。
俺の乗る機体『サイクロプス』。
某国民的ロールプレイングゲームのイメージから、今回の塗装は青を基調としている。
武装はリンが開発したものの中から、使えそうなものをピックアップして装備している。
「さて、プラセリアの人形技師相手にどこまで通用するかな……?」
ビーーッ!
開始を告げる音が鳴り響く。
その音と同時に俺を除く九体の魔動人形が一斉に動き出した。
俺はというと、余計なことを考えていたせいで初動が遅れてしまった。というより、参加自体が初めてなので、戦い方のセオリーがわからないというのもある。
行動に迷い棒立ちになっているサイクロプス目掛けて、両脇にいた二機が剣を構えながら一斉に迫る。弱い者から消していくつもりだろう。
「ハハッ! ど素人が!」
「まずは一つ!」
なにやら勝ち誇ったような台詞を吐いているが、勝ったつもりなのだろうか。
確かに出遅れたが、焦りは感じていなかった。なぜなら迫り来る二機からは全くと言っていいほどプレッシャーを感じないのだ。
というか――――
「動きが遅すぎる」
今まで格上相手としか戦ったことがないからか、ずいぶんと動きが遅く感じる。
(一般等級だとこれぐらいが普通なのか……? これならっ!)
魔力を纏った剣がサイクロプスを襲うが、前方にスラスターを噴かすことで難なくすり抜けることができた。
「速い!?」
「ちいっ、ちょこまかと!」
さすがに機動力特化のシルバライザーには劣るが、このサイクロプスも足回りは悪くないな。
剣では捉えきれないと判断したのか、二機とも剣を収め、今度はハンドガンを取り出して射撃戦へと切り替えた。
「――豆鉄砲程度ならっ!」
大型の重火器ならともかく、ハンドガン程度の射撃武装などは問題にならないだろうと判断し、一機に狙いを定めサイクロプスを突っ込ませる。
「直進!? 勝負を捨てたのか!?」
「くらいやがれっ!」
ハンドガンから魔力が圧縮された魔力弾が連続で放たれる。俺はただ真っ直ぐに突っ込んでいるだけなので、そのことごとくが直撃する。
しかし魔力弾はサイクロプスの装甲に弾かれ、霧散してしまう。
よし、今回は塗装を五重にしたのだが、想像通り重ねた分エーテルコーティングの効果も重複されているようだ。
「ば……馬鹿な!? 直撃しているはずだ!」
「機動力に特化させた魔動人形じゃないのか……!?」
勘違いしているようだが、残念ながら機動力特化型でも防御力特化型でもない。
このサイクロプスの真骨頂は、接近戦だ。
「どっせーーい!」
自作した腕パーツ、そのギミックの一つ。
パンチの瞬間、腕部に搭載された小型のスラスターを噴かすことで、拳速を高め破壊力を増した一撃。
至近距離まで間合を詰め、このギミックを使ってアッパーカットを喰らわしてやった。
「ぐおっ!?」
ガシャーンと、鉄と鉄とがぶつかり合う音が響き、相手の機体は宙へと打ち上げられる。
「とどめだっ!」
右肩部に装着されたリン作の武装、『とびでる君』を撃つ。
この武装は、簡単に言うとセットされた槍が魔力を纏いながら勢いよく飛び出すだけの武装だ。
とはいえ弾速と射程距離は銃に劣る。しかも槍の穂先が魔力を纏っていられる時間もごく僅かしかない。
正直欠点だらけであったが、そこは使い方一つでどうにでもなる。
標的は空中で身動きがとれない……さらにはこの至近距離ならどうなるか、その結果はわかりきっていた。
「――なにぃっ!?」
魔力を纏った穂先は容易に装甲を貫いた。しかし不運なことに貫いたのは肩の装甲だった。
一撃で戦闘不能にするにはコアのある胸部を破壊するのが最も有効な手段なのだが、初めて使う武装だったので弾道の予測ができなかったことで急所を外してしまった。
――だが、まだ終わりじゃない。
「まだまだっ!」
「――っ!? 引き寄せ――!?」
俺は、射出された槍に付いていたワイヤーを勢いよく引き寄せた。
貫通した槍が纏っていた魔力はすでに霧散している。穂先には返しがついているので強く引っ張っても抜けることはない。
その結果、無防備な体勢のままこちらへと敵機を引き寄せることに成功する。
「あばよっ!」
そのまま先程と同じように腕部のスラスターを噴かしながら拳を振るう。
ガシャーーーーンッ!!
拳は敵機の胸部に命中。引き寄せ時の勢いも相まって今度は相当なダメージを与えられたようだ。
受け身もとれずそのまま反対側の会場の端まで吹き飛び、勢いよく壁面へ叩きつけられる。
吹き飛ばされた魔動人形は、そのまま粒子となって消えていく。
この会場内では魔動人形が戦闘不能になると粒子化して霧散するのだ。だが乗り手が死ぬことはない。魔動人形も消滅せずに控え室へと飛ばされる仕組みになっている。
「っしゃあ! 一機撃破だぜ!」
うーん……気持ちいい!
考えていた戦術がハマるとやっぱ嬉しいな。
この腕パーツも想定どおり機能してくれているし、言うことなしだ。
「こうなったらもっと色々作ってみたいな……それこそ一から――――ん?」
戦闘中なのにやけに静かだと思い、各モニターへと目をやると、残る対戦相手全員がこちらを注視していた。
「――あら? 目立ちすぎたかな……?」
幸い他の出場者も精神統一していたのか緊張していたのか、どちらかはわからないが皆殆ど会話はなく、俺のことを気にしている余裕はなかったようだ。
控え室にモニターなどがなかったので様子はわからなかったが、会場では激戦が繰り広げていたようで、音や振動は控え室にも届いていた。
「Dグループの選考が終了しました。Eグループの皆様は準備をお願いします」
コンコンと扉が叩かれ、いよいよ出番が告げられる。
(ああ、やっと出番か……これでやっとこの空間から解放されるぞ)
この時には、戦うことよりも正体がバレるのを恐れながら待っていることの方にプレッシャーを感じていた。
それがもう終わるんだと思うと、心が晴れやかになる。
Eグループは全員で十人。それぞれが違う開始位置へと誘導される。
そして、開始の合図がかかる。
「よしいくぞ……! 頼むぞサイクロプス。人形接続!」
人形接続……契約紋を持つ者がこの起動式を唱えると、手にしている全長十センチほどのプラモデルが、一瞬にして百倍近くの大きさへと変わり、巨大兵器『魔動人形』が現れる。
その力は言わずもがな、腕のひと振りで大概の魔物は容易く駆逐することが可能である。
今回の戦いはそれが十体……ちょっとした戦争のような気分だった。
「さすがに十体もいると会場が狭く見えるな……」
円形の会場の円周上に等間隔に魔動人形が並ぶ。
一対一であれば十分すぎる広さなのだが、さすがにこれだけの機体が並ぶと手狭に思える。
「あ、そうだ……スマホを接続しないとな」
俺が唯一この異世界に持ち込めた物はこのスマホ一つだけだ。
だが本来の使い方はできずに、謎のアプリが不定期に追加されていく。
自分のステータスを見たり、アイテムボックスとしても利用できたりと、今や手放せない便利アイテムと化している。
その中の便利な機能の一つとして、スマホを魔動人形に接続することで様々な補助機能が使えるようなる。
「よし……っと。ステータスを確認している時間は……なさそうだな」
俺はスマホを接続すると、前を向く。
眼前には俺が今乗っている魔動人形『サイクロプス』のメインカメラが捉えている映像が映し出されている。
ちょうど対面の魔動人形が今にも飛び出しそうな雰囲気で待ち構えていたのだ。
スマホの画面を確認していて突然始まってしまったら一瞬で決着が着きかねない。
俺は気持ちを切り替え、メインモニターを凝視しながら、いつ始まってもいいようにスフィアに手を添える。
俺の乗る機体『サイクロプス』。
某国民的ロールプレイングゲームのイメージから、今回の塗装は青を基調としている。
武装はリンが開発したものの中から、使えそうなものをピックアップして装備している。
「さて、プラセリアの人形技師相手にどこまで通用するかな……?」
ビーーッ!
開始を告げる音が鳴り響く。
その音と同時に俺を除く九体の魔動人形が一斉に動き出した。
俺はというと、余計なことを考えていたせいで初動が遅れてしまった。というより、参加自体が初めてなので、戦い方のセオリーがわからないというのもある。
行動に迷い棒立ちになっているサイクロプス目掛けて、両脇にいた二機が剣を構えながら一斉に迫る。弱い者から消していくつもりだろう。
「ハハッ! ど素人が!」
「まずは一つ!」
なにやら勝ち誇ったような台詞を吐いているが、勝ったつもりなのだろうか。
確かに出遅れたが、焦りは感じていなかった。なぜなら迫り来る二機からは全くと言っていいほどプレッシャーを感じないのだ。
というか――――
「動きが遅すぎる」
今まで格上相手としか戦ったことがないからか、ずいぶんと動きが遅く感じる。
(一般等級だとこれぐらいが普通なのか……? これならっ!)
魔力を纏った剣がサイクロプスを襲うが、前方にスラスターを噴かすことで難なくすり抜けることができた。
「速い!?」
「ちいっ、ちょこまかと!」
さすがに機動力特化のシルバライザーには劣るが、このサイクロプスも足回りは悪くないな。
剣では捉えきれないと判断したのか、二機とも剣を収め、今度はハンドガンを取り出して射撃戦へと切り替えた。
「――豆鉄砲程度ならっ!」
大型の重火器ならともかく、ハンドガン程度の射撃武装などは問題にならないだろうと判断し、一機に狙いを定めサイクロプスを突っ込ませる。
「直進!? 勝負を捨てたのか!?」
「くらいやがれっ!」
ハンドガンから魔力が圧縮された魔力弾が連続で放たれる。俺はただ真っ直ぐに突っ込んでいるだけなので、そのことごとくが直撃する。
しかし魔力弾はサイクロプスの装甲に弾かれ、霧散してしまう。
よし、今回は塗装を五重にしたのだが、想像通り重ねた分エーテルコーティングの効果も重複されているようだ。
「ば……馬鹿な!? 直撃しているはずだ!」
「機動力に特化させた魔動人形じゃないのか……!?」
勘違いしているようだが、残念ながら機動力特化型でも防御力特化型でもない。
このサイクロプスの真骨頂は、接近戦だ。
「どっせーーい!」
自作した腕パーツ、そのギミックの一つ。
パンチの瞬間、腕部に搭載された小型のスラスターを噴かすことで、拳速を高め破壊力を増した一撃。
至近距離まで間合を詰め、このギミックを使ってアッパーカットを喰らわしてやった。
「ぐおっ!?」
ガシャーンと、鉄と鉄とがぶつかり合う音が響き、相手の機体は宙へと打ち上げられる。
「とどめだっ!」
右肩部に装着されたリン作の武装、『とびでる君』を撃つ。
この武装は、簡単に言うとセットされた槍が魔力を纏いながら勢いよく飛び出すだけの武装だ。
とはいえ弾速と射程距離は銃に劣る。しかも槍の穂先が魔力を纏っていられる時間もごく僅かしかない。
正直欠点だらけであったが、そこは使い方一つでどうにでもなる。
標的は空中で身動きがとれない……さらにはこの至近距離ならどうなるか、その結果はわかりきっていた。
「――なにぃっ!?」
魔力を纏った穂先は容易に装甲を貫いた。しかし不運なことに貫いたのは肩の装甲だった。
一撃で戦闘不能にするにはコアのある胸部を破壊するのが最も有効な手段なのだが、初めて使う武装だったので弾道の予測ができなかったことで急所を外してしまった。
――だが、まだ終わりじゃない。
「まだまだっ!」
「――っ!? 引き寄せ――!?」
俺は、射出された槍に付いていたワイヤーを勢いよく引き寄せた。
貫通した槍が纏っていた魔力はすでに霧散している。穂先には返しがついているので強く引っ張っても抜けることはない。
その結果、無防備な体勢のままこちらへと敵機を引き寄せることに成功する。
「あばよっ!」
そのまま先程と同じように腕部のスラスターを噴かしながら拳を振るう。
ガシャーーーーンッ!!
拳は敵機の胸部に命中。引き寄せ時の勢いも相まって今度は相当なダメージを与えられたようだ。
受け身もとれずそのまま反対側の会場の端まで吹き飛び、勢いよく壁面へ叩きつけられる。
吹き飛ばされた魔動人形は、そのまま粒子となって消えていく。
この会場内では魔動人形が戦闘不能になると粒子化して霧散するのだ。だが乗り手が死ぬことはない。魔動人形も消滅せずに控え室へと飛ばされる仕組みになっている。
「っしゃあ! 一機撃破だぜ!」
うーん……気持ちいい!
考えていた戦術がハマるとやっぱ嬉しいな。
この腕パーツも想定どおり機能してくれているし、言うことなしだ。
「こうなったらもっと色々作ってみたいな……それこそ一から――――ん?」
戦闘中なのにやけに静かだと思い、各モニターへと目をやると、残る対戦相手全員がこちらを注視していた。
「――あら? 目立ちすぎたかな……?」
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