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【三章】技術大国プラセリア
37.真相
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ガァァァンッ!
鉄製の扉が勢いよく開け放たれる。
それと同時に、大きな機械の塊が一直線にガオウを襲うが、ガオウはそれを片手で受け止め、放り投げた。
「ちぃっ! 化け物が……!」
鉄の塊はカティアの乗るバイクで、特攻を仕掛けたのだが、あまりにも簡単に防がれてしまった。
カティアはバイクで無理矢理警備を突破し、そのまま階段を駆け上がってきたのだ。
「随分威勢のいいネズミだな。……いや野良犬と言ったほうが正しいか?」
「――カーちゃん!?」
「リンっ! 無事か!?」
ここまで来るのに相応の無茶をしたのだろう。カティアの体は既にボロボロで、至るところから出血が見られる。
だがカティアはまだ止まるわけにはいかない。何故ならリンを救うという目的が達せられていないためだ。
追っ手の衛兵が到着するまで、まだいくばくかの時間がある。それまでに最大の障害であるガオウさえ排除できれぱ、まだ間に合う。
カティアはリンの無事を確認したあと、すぐさまガオウへと視線を戻し、素早く襲いかかる。
「オラァァァッ!!」
「――フン」
ガオウは襲われているにも関わらず、真っ直ぐ突っ込んでくるカティアへ向けて、面倒そうに腕を一振りする。だが、その攻撃は、態度とは裏腹に鋭く重いものだった。
「フッ!」
カティアは身をかがめ、体勢を低くすることでその攻撃を素早く回避するばかりか、そのまま逆立ちのような体勢をとり、ガオウの腕に脚を絡ませる。
「腕一本、もらったぜ!」
そのまま全体重をかけて腕をへし折ろうと試みたが、どれだけ体重をかけようとも、どれだけ力を込めようとも、ガオウの腕はびくともしなかった。
「くっ……! マジかよ……!」
間接技ならばダメージを与えられると踏んでいたが、全く効果がないことに、カティアは驚きを隠しきれない。
しかし手を止める猶予はない。すぐさま脚を解き、着地際に脇腹めがけて拳を放った。
「――っつ!」
攻撃はクリーンヒットした。だが、攻撃したはずのカティアが逆にダメージを受けていた。
拳を痛めていたのと、ガオウの筋肉の鎧の頑強さとが合わさり、カティアの拳から血が吹き出す。
「……動きはいいが、それだけだな」
そう言って、ガオウはダメージで怯んだカティアの腹部へとアッパーカットを叩き込んだ。
受けた衝撃は想像を絶し、カティアの体は易々と宙に舞った。受け身も取れずに転がっていき、結果としてカティアはただの一撃で十メートル近く吹き飛ばされてしまっていた。
「ゴホッ! ガハッ……!」
「生身で攻め込むとは愚かだな……ここまで来れたことは褒めてやるが、我が社を制圧する気なのであれば、魔動人形の百や二百は用意してくるべきだったな」
大きなダメージを受け、満身創痍の体で立ち上がろうとするカティアだったが、血に混じり、様々なものが体内から逆流し、吐き出してしまう。
「カーちゃん! やだ、死なないでっ!」
「リ……ン……」
リンの叫びも虚しく、すぐに動くことができないほど、カティアのダメージは深刻だった。
そして、カティアが動けないでいる間に、ついに衛兵が到着してしまった。
「ガオウ社長! も、申し訳ございません! 賊の侵入を許してしまいました!」
「使えん愚か者どもが。……まあよい、大した手間ではなかった。ひとまずはそこの野良犬を拘束しておけ」
「はっ!」
あっという間に衛兵に取り囲まれたカティアは、立ち上がれないように組み伏せられてしまう。
「カーちゃん! カーちゃんおきて! そのままじゃ死んじゃうよ!」
「安心しろ、今は殺しはしない。今は、な」
「おねがいします! リン、言うこときくからカーちゃんにひどいことしないで……!」
「フム……いいだろう。ならさっきの続きを始めようか。いや、その前に……貴様の両親の事が聞きたいのだったな? 約束は守ろう。我輩は嘘はつかぬ」
「えっ……」
カティアに手を出さないと約束したことで、ひとまず安心したリンだったが、続くガオウの言葉に混乱を隠しきれないでいた。
だが、ガオウはそんなリンの状態などお構いなしに語り始める。
「貴様の両親、ニャルディアル夫妻は天才だった。この我輩が認めるほどにな。その研究の最高傑作が、今貴様が座っている『イマジナリークラフター』だ。こいつは素晴らしい。使いこなせれば世界すら支配できるポテンシャルを秘めていると感じた。これの存在を知った我輩は、この世紀の発明を我が物にしようと、早速ニャルディアル夫妻を呼び出したのだ」
ガオウは淡々と話し続ける。まるで周りなど見えていないかのように、相づちを待つことすらない。その様子は独白に近い。
「だが奴らはこの世紀の発明を手放さなかった。金をいくら積んでも、これだけは渡せないと譲らなかったのだ。……まあそうだろう。これだけのものを独占していたいと思うのは普通だからな。だから夫妻を投獄し、無理矢理奪ったのだ」
「とう……ごく?」
「しかし、厄介なことに装置にはロックがかけられていてな。解除方法を尋ねてもまったく口を割らなかったのだ。いやはや、これにはさすがの我輩も参ってしまったよ。結局死ぬまで口を割らないとは思わなんだ」
「え……? 死……?」
リンは両親が生きていると信じていた。長らく帰ってきていないのは、やむを得ない事情があるのだと、そう思っていた。
しかし両親の最期を知るガオウの口から、『死』という最悪の結末が伝えられたのだ。いつか、いつかはと健気に待ち続けていたリンの心を壊すには、十分な破壊力を秘めていた。
「ありとあらゆる拷問を試していたのだが、途中で耐えきれなかったのか自決してしまってな。おかげで、不本意ながらこの素晴らしき装置を長年眠らせておく羽目になった」
「あ……あぁ――」
あまりにも残酷な現実を突き付けられ、リンの瞳からは光が失われていた。
「やめろ……やめろォォォッ!!」
カティアは最後の力を振り絞り、ガオウへと咆哮する。
長年欲していた情報を、ガオウの口から直接聞けたのは僥倖だった、そしてニャルディアル夫妻が死亡していた可能性も、カティアは覚悟していたので耐えられた。
だが、実の娘であるリンは、両親がいつか帰ってくるとずっと信じ続けていたのだ。カティアは、今回のコンペティションがうまくいって、仮に情報を得られたとしても、リンが大人になるまで黙っていようと思っていた。
こんな形で、こんなにも残酷な真実を突き付けるなど、決して許すわけにはいかなかった。
「おいっ、おとなしくしろ!」
「――ぐっ!」
もしカティアが万全な状態であれば、拘束から抜け出すこともできたであろう。
しかし、カティアの体力は既に限界に近く、抵抗虚しく衛兵に髪を掴まれ、床へと押し付けられてしまう。
「フン……よく吠える犬っころだな。しかし、こうなった原因は貴様にあるのだぞ?」
「な……にぃ……?」
「貴様が外部の人間の協力を取り付け、コンペティションで目立ち過ぎたのが原因だ。キャッツシーカーを娘が引き継いでいたのは把握していたが……別段成果も挙げられていなかったようなので放置していたのだ。まさかイマジナリークラフターがもう一台存在していて、しかもそれを使えるのがこの娘だけだとは思わなんだ」
「誰かの視線を感じていたのは、気のせいじゃなかった……! くそっ、全部……全部オレの責任じゃねぇか! オレが余計なことを考えなければ、こんなことには……!」
「安心しろ、この娘は生体部品として丁重に扱ってやる。だが一度起動させられれば、装置の解析も進むだろうし……複製が可能になったら廃棄するだろうがな。フハハハハッ!」
「――っ!!」
カティアは自分の行いを後悔した。余計なことをしなければ、真実を知ろうとしなければ、少なくともこんな最悪の結末になることはなかった。
「リン……リン……!」
もはやカティアに打つ手はない。
彼女は弱々しく、ただ一人の家族の名を呼ぶことしかできなかった。
鉄製の扉が勢いよく開け放たれる。
それと同時に、大きな機械の塊が一直線にガオウを襲うが、ガオウはそれを片手で受け止め、放り投げた。
「ちぃっ! 化け物が……!」
鉄の塊はカティアの乗るバイクで、特攻を仕掛けたのだが、あまりにも簡単に防がれてしまった。
カティアはバイクで無理矢理警備を突破し、そのまま階段を駆け上がってきたのだ。
「随分威勢のいいネズミだな。……いや野良犬と言ったほうが正しいか?」
「――カーちゃん!?」
「リンっ! 無事か!?」
ここまで来るのに相応の無茶をしたのだろう。カティアの体は既にボロボロで、至るところから出血が見られる。
だがカティアはまだ止まるわけにはいかない。何故ならリンを救うという目的が達せられていないためだ。
追っ手の衛兵が到着するまで、まだいくばくかの時間がある。それまでに最大の障害であるガオウさえ排除できれぱ、まだ間に合う。
カティアはリンの無事を確認したあと、すぐさまガオウへと視線を戻し、素早く襲いかかる。
「オラァァァッ!!」
「――フン」
ガオウは襲われているにも関わらず、真っ直ぐ突っ込んでくるカティアへ向けて、面倒そうに腕を一振りする。だが、その攻撃は、態度とは裏腹に鋭く重いものだった。
「フッ!」
カティアは身をかがめ、体勢を低くすることでその攻撃を素早く回避するばかりか、そのまま逆立ちのような体勢をとり、ガオウの腕に脚を絡ませる。
「腕一本、もらったぜ!」
そのまま全体重をかけて腕をへし折ろうと試みたが、どれだけ体重をかけようとも、どれだけ力を込めようとも、ガオウの腕はびくともしなかった。
「くっ……! マジかよ……!」
間接技ならばダメージを与えられると踏んでいたが、全く効果がないことに、カティアは驚きを隠しきれない。
しかし手を止める猶予はない。すぐさま脚を解き、着地際に脇腹めがけて拳を放った。
「――っつ!」
攻撃はクリーンヒットした。だが、攻撃したはずのカティアが逆にダメージを受けていた。
拳を痛めていたのと、ガオウの筋肉の鎧の頑強さとが合わさり、カティアの拳から血が吹き出す。
「……動きはいいが、それだけだな」
そう言って、ガオウはダメージで怯んだカティアの腹部へとアッパーカットを叩き込んだ。
受けた衝撃は想像を絶し、カティアの体は易々と宙に舞った。受け身も取れずに転がっていき、結果としてカティアはただの一撃で十メートル近く吹き飛ばされてしまっていた。
「ゴホッ! ガハッ……!」
「生身で攻め込むとは愚かだな……ここまで来れたことは褒めてやるが、我が社を制圧する気なのであれば、魔動人形の百や二百は用意してくるべきだったな」
大きなダメージを受け、満身創痍の体で立ち上がろうとするカティアだったが、血に混じり、様々なものが体内から逆流し、吐き出してしまう。
「カーちゃん! やだ、死なないでっ!」
「リ……ン……」
リンの叫びも虚しく、すぐに動くことができないほど、カティアのダメージは深刻だった。
そして、カティアが動けないでいる間に、ついに衛兵が到着してしまった。
「ガオウ社長! も、申し訳ございません! 賊の侵入を許してしまいました!」
「使えん愚か者どもが。……まあよい、大した手間ではなかった。ひとまずはそこの野良犬を拘束しておけ」
「はっ!」
あっという間に衛兵に取り囲まれたカティアは、立ち上がれないように組み伏せられてしまう。
「カーちゃん! カーちゃんおきて! そのままじゃ死んじゃうよ!」
「安心しろ、今は殺しはしない。今は、な」
「おねがいします! リン、言うこときくからカーちゃんにひどいことしないで……!」
「フム……いいだろう。ならさっきの続きを始めようか。いや、その前に……貴様の両親の事が聞きたいのだったな? 約束は守ろう。我輩は嘘はつかぬ」
「えっ……」
カティアに手を出さないと約束したことで、ひとまず安心したリンだったが、続くガオウの言葉に混乱を隠しきれないでいた。
だが、ガオウはそんなリンの状態などお構いなしに語り始める。
「貴様の両親、ニャルディアル夫妻は天才だった。この我輩が認めるほどにな。その研究の最高傑作が、今貴様が座っている『イマジナリークラフター』だ。こいつは素晴らしい。使いこなせれば世界すら支配できるポテンシャルを秘めていると感じた。これの存在を知った我輩は、この世紀の発明を我が物にしようと、早速ニャルディアル夫妻を呼び出したのだ」
ガオウは淡々と話し続ける。まるで周りなど見えていないかのように、相づちを待つことすらない。その様子は独白に近い。
「だが奴らはこの世紀の発明を手放さなかった。金をいくら積んでも、これだけは渡せないと譲らなかったのだ。……まあそうだろう。これだけのものを独占していたいと思うのは普通だからな。だから夫妻を投獄し、無理矢理奪ったのだ」
「とう……ごく?」
「しかし、厄介なことに装置にはロックがかけられていてな。解除方法を尋ねてもまったく口を割らなかったのだ。いやはや、これにはさすがの我輩も参ってしまったよ。結局死ぬまで口を割らないとは思わなんだ」
「え……? 死……?」
リンは両親が生きていると信じていた。長らく帰ってきていないのは、やむを得ない事情があるのだと、そう思っていた。
しかし両親の最期を知るガオウの口から、『死』という最悪の結末が伝えられたのだ。いつか、いつかはと健気に待ち続けていたリンの心を壊すには、十分な破壊力を秘めていた。
「ありとあらゆる拷問を試していたのだが、途中で耐えきれなかったのか自決してしまってな。おかげで、不本意ながらこの素晴らしき装置を長年眠らせておく羽目になった」
「あ……あぁ――」
あまりにも残酷な現実を突き付けられ、リンの瞳からは光が失われていた。
「やめろ……やめろォォォッ!!」
カティアは最後の力を振り絞り、ガオウへと咆哮する。
長年欲していた情報を、ガオウの口から直接聞けたのは僥倖だった、そしてニャルディアル夫妻が死亡していた可能性も、カティアは覚悟していたので耐えられた。
だが、実の娘であるリンは、両親がいつか帰ってくるとずっと信じ続けていたのだ。カティアは、今回のコンペティションがうまくいって、仮に情報を得られたとしても、リンが大人になるまで黙っていようと思っていた。
こんな形で、こんなにも残酷な真実を突き付けるなど、決して許すわけにはいかなかった。
「おいっ、おとなしくしろ!」
「――ぐっ!」
もしカティアが万全な状態であれば、拘束から抜け出すこともできたであろう。
しかし、カティアの体力は既に限界に近く、抵抗虚しく衛兵に髪を掴まれ、床へと押し付けられてしまう。
「フン……よく吠える犬っころだな。しかし、こうなった原因は貴様にあるのだぞ?」
「な……にぃ……?」
「貴様が外部の人間の協力を取り付け、コンペティションで目立ち過ぎたのが原因だ。キャッツシーカーを娘が引き継いでいたのは把握していたが……別段成果も挙げられていなかったようなので放置していたのだ。まさかイマジナリークラフターがもう一台存在していて、しかもそれを使えるのがこの娘だけだとは思わなんだ」
「誰かの視線を感じていたのは、気のせいじゃなかった……! くそっ、全部……全部オレの責任じゃねぇか! オレが余計なことを考えなければ、こんなことには……!」
「安心しろ、この娘は生体部品として丁重に扱ってやる。だが一度起動させられれば、装置の解析も進むだろうし……複製が可能になったら廃棄するだろうがな。フハハハハッ!」
「――っ!!」
カティアは自分の行いを後悔した。余計なことをしなければ、真実を知ろうとしなければ、少なくともこんな最悪の結末になることはなかった。
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