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モブ女子視点のBL
お題「終電」「泊まってく?」
しおりを挟む今夜の飲み会における私の計画はこうだ。
席はずっと狙っている、営業部のエース鷲見くんの隣を常にキープ。わざと終電を逃すため、皆が帰り支度を始める頃は酔って寝たふりでやり過ごし、鷲見くん含め店から家が近い徒歩組が解散するまで居座る。
私は酔って歩けない感じで鷲見くんにしなだれかかり、絶対に鷲見くんから離れない。そうこうしている内に、幹事の西さんが上手いこと私を鷲見くんに押し付けてくれるはず――。
そんな算段を立てていたら、案の定だ。
無事終電時間も過ぎ、解散という頃になって、西さんは酔った私を支える鷲見くんに言った。
「神野さん、家遠いんだよ。もう終電の時間も過ぎちゃってるし、こんな酔ってるんじゃ危なくて、タクシーも一人で乗せられないだろ?」
西さんは鷲見くんの教育係に当たったこともある、大ベテランの先輩だ。鷲見くんが彼に頭があがらないことは既にリサーチ済みだ。
西さんはいい人だけど、悪く言えばお節介なところがあるから、常々鷲見くんに特定の彼女がいないことを気にして、合コンをセッティングしたり、お見合い話を持ってきたりと余計なお世話をやって、鷲見くんを困らせている。そんな彼が、まさに今据え膳状態になっている私を、鷲見くんにお持ち帰りさせないはずがないのだ。
「お前んち、こっからすぐだろ? 泊めてやれ」
「えぇ……? でも神野さんは女性ですし」
「でも、も何もない! いいな!」
西さんもかなり酔っているのかもしれない。口調がいつもよりきつく、有無を言わせない迫力がある。
「わかりましたよ……。えっと、じゃあ神野さんうち泊まってく? 歩いて十分くらいの距離だから」
「うん。ごめんね。ちょっと帰れそうになくて……鷲見くんのご迷惑じゃなかったら、よろしくお願いします」
しおらしく頭を下げた私は、心の中でガッツポーズをした。
(それにしても、意外とあっさりだったわね)
鷲見くんは、西さんが紹介する女は勿論のこと、かなりの数の女子社員から告白されてるはずだけど、皆撃沈した話ばかりで、過去の恋人の話すら流れてこない。よっぽどガードが堅いのかと思っていたが、こんな古典的な手に引っかかるなんて大したことないなあと思う。
「途中コンビニ寄ってもいい?」
「ああいいよ。俺も丁度切れてる物あったし」
本当は荷物の中に、スキンケア用品も替えの下着も入ってるけど、そんな準備万端の自分を知られる訳にはいかない。さりげなくコンビニに誘導して、適当にモノを買い揃える。
「はいこれ。酔い覚ましに」
「わっ、ありがとう!」
コンビニを出てすぐに鷲見くんから渡されたペットボトルの水と一緒に、ゴムの箱がちゃっかり袋の中に入っているのを確認した私は今夜の勝利を確信した。
それなのに、だ。
「――なんで松田がここにいるのよ!」
「なんでって、俺が鷲見と付き合ってるからだが?」
鷲見くんの部屋のドアを開けて、「おかえり」と出迎えたのは、同期のさえない社員筆頭の松田。
営業成績は中の下で、顔も至って普通の地味な塩顔。趣味はゲームだとかで暇さえあればスマホゲームばっかりやってる陰気な奴。
今日の飲み会も早々に切り上げて帰宅したはずの松田が、首からタオルをかけ、明らかに湯上りというパジャマ姿で立っている。
鷲見くんの家だと言うのに、まるで自分の家のようにくつろいでいる。
「嘘でしょ!? 鷲見くんが男と付き合ってるってのは百歩譲って認めるにしても、アンタだけは絶対にない!」
「はぁ? 失礼なやつだな。おい、鷲見。言ってやれ」
松田は意味ありげに口の端をあげて、鷲見くんの方を見る。
「えっと、松田さんとは趣味がすごくあって……俺が学生時代にハマってたネトゲの伝説のランカーが松田さんだったんだ。俺その時からすっげぇ憧れてて」
「いやー、俺もビックリしたよ。当時、俺の後をくっついて来てたひよっこゲーマーがお前だったとは……」
「俺当時はイジメられて不登校になってて、ゲームばっかりしてたんで友達とかもいなくて……。松田さんはその頃、ゲームのことだけじゃなくて、色んな事をチャットで相談に乗ってくれた恩人なんだ。俺そのお陰で学校にも行けるようになって、大学卒業してからも松田さん追っかけて今の会社に入ったってワケ」
「そ、そうなんだ……」
どうしよう。思ったよりヘビーな話が来たわ。
というか、鷲見くんも普通にオタクじゃん!
ネトゲって何! ランカーって何!
ヤバイ。二人の会話の意味がほとんど頭に入ってこない。
「あの、だから神野さん、安心して。俺たち絶対に神野さんに手出したりとかしないんで」
「……あ、はい」
鷲見くんからやましさの欠片もない目を向けられて、私は力なく頷いた。
それから私は勧められるままに風呂に入り、二人が当たり前に寝室に入っていくのを横目に、リビングに一人分敷かれた客用布団に潜り込んだ。
「……え、ちょっと待って。じゃあ、あのゴムって」
嫌な予感のした私は慌ててイヤホンを耳に突っ込むと、スマホでお気に入りの曲を爆音で流しながら無理矢理目をつぶった。
松田の勝ち誇ったニヤケ顔が脳裏に焼きついていたせいか、その日は夢見が悪かった。
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