ゲーム好きな僕を開放してくれよ!

はるのすけ

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ゲーム好きな僕を開放してくれよ!

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「お姉ちゃんたのみあんだけど、俺をIPバンしてくんないまじで。そしたら嫌な俺ももう二度とここにこなくなるし、俺自身もネトゲから解放されるし。引退がないからさ。やめるすべがないんだよ!俺も嫌な自分を出して自己嫌悪にならないで済む、全てがよくなるじゃねえか!だからIPバンして俺を消してくれ・・・」
 あぐらをかいてゲーム機の前に座っている芸介は今にも泣きだしそうな声でそう言った。
「はぁ?できることなら協力するけど、IPバンってなに?」
 いつも家事をやっているおちょ子がお料理の雑誌を読みながら言う。
「自分がネットするのに必要な免許証みたいなもんだよ、それを消してくれ!」
「よく分からないからお父さんに聞いたほうが早いと思う・・・」
ーーー
 そして晩御飯が出来上がる頃、芸介はうつろな目でゲームの起動画面を見ていた。Now loadingの文字が画面に浮かび上がり白円のゲージがおよそ半分に達したとき、ブチィッと音がなって画面が真っ暗になった。おちょ子がコンセントに足を引っかけて転んでいた。そして野菜の乗った皿を床にぶちまけた。
「きゃああ!」と甲高い叫び声があがる。
 芸介は目を見張って瞠目したがすぐに我に返ってもしかしたらデータが消えているかもしれないという期待と絶望の念でいっぱいになった。
「どうしてくれるんだ!データが消えたかもしれないじゃないか!」
「あら、ネトゲから解放されてよかったじゃない」
「ふざけんな!ランキング10位以内だったんだぞ!」
「それより私の心配はしてくれないのかしらね、サラダが飛び散っちゃった。今晩はサラダ無しだわ」
芸介は舌打ちをしてコンセントを挿しなおした。
[残念ながらあなたのデータは消えてしまいました]
と画面に浮かび上がった。
「ああああっ!」
芸介は感情が高ぶってうまく思考できなくなった。
(これで少しは家事手伝ってくれるかしら・・)
 芸介とおちょ子は二人暮らしで遠方で研究所を経営している父がいる。おちょ子は18歳で中学を卒業してから高校にいかずに家事をしていた。芸介は16歳で高校生だがゲームにのめりこむにつれていつしか不登校になってしまった。
 芸介のデータが消えてから最初のうちはインターネットをやったり学校の教科書を眺めていたが、いつしかまた初めから例のゲームを初めからやり直していた。おちょ子は深いため息をついて
「またそんなことやってるの?」
と聞いた。
「悪いかよ」
と太々しく聞き直してきた。
「悪いって、・・・あんた自分でそのゲームやめたいって言ってたじゃない」
「そうだけどさ・・・」
「そうだわ、お父さんに電話してみましょう」
「うん」

「お父さん、おちょ子だけど、」
「おちょ子、聞いてくれ!オンラインゲーム会社と提携してゲームデータのバックアップを取るソフトを開発したぞ。」
「え?すごくない」
「すごいだろ!わはは」
「もしかするとゲームデータが無くなって嘆いてる芸介のお役にたてるかもね」
「芸介のデータも残ってるぞ」
「え!」
「IDとパスワード言ってくれたら復元してやるよ」
「じゃあ芸介に変わるね!」

「芸介!データ復元できるって!」
「まじで。」
ゲームをやっている芸介はとたんにそわそわし始めた。電話を変わるとなめらかにパスワードを言っていく。芸介が犬だったらブンブンと尾を振っていることだろう。そして無事芸介のゲームデータが戻ってきた。とても嬉しそうにしていたのだがすぐに表情が曇ってきた。
「フレンドが一人もいなくなってる・・・」
ネットの世界とはあっけないものだ。ふとした拍子に手違いであっても友達は減るし、ある日突然音信が途絶えることもある。芸介は絶望した。ランキングも下がっていたし結局ネットでできた友達は栄光にすがりつく働きバチのようだった。
「おれ、まじめに働くよ。」
「それがいいね」
ついに心を入れ替えた芸介はスーパーでアルバイトをし始めた。レジ打ちと陳列の方法をすぐ覚えてとどこおりなく頑張っているようだった。そしてアルバイトを始めてから2週間後くらいのことだった。
「姉ちゃんきいてくれ、バイトの先輩がネトゲしてた頃の僕の友達だったよ。」
「ええ、すごい偶然だね!運命と言えるかもしれない。」
「まあ男だけどね、とっても嬉しいよ。」
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