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第三章
護り手の儀式②
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大きな太鼓のドーンという音が何度も竜翼山の麓に響き渡る。
年に一度の護り手の儀式がルパ一族の村で行われるのだ。かつてはその儀式を外部の者に見せることを拒んでいた彼らだったが、時代の流れとともにそういった伝統は薄れていき、今では見物人も外から訪れ、会場となる小さな村は賑わっていた。
後から知ったことだったが、護り手の儀式は一族中の男限定・年齢不問で参加可能だという。
ただし、子孫を残すことができる者という決まりがある。
儀式は一段高い舞台の上で行われる。参加の男たちはその舞台で1対1の戦いを行うトーナメント方式のようだった。参加者が降参するか、気絶、死亡した場合、勝ちとなる。
ラウルは長老の口添えで、出戻りの男テラエルという名前で大勢に紛れて参加することができた。
先ずは神への祈り、そして伝統の衣装に着飾った女たちによる神にささげる踊りが行われ、日が真上に上った頃に護り手の儀式が開始されたのだった。
万が一にも勝ち抜けば、一族で大きな権力を握れる。皆一様に欲に塗れ高揚した表情で戦いに臨んでいる。
(よし、俺もいくぞ。必ず勝つ!)
最初の相手は大金槌を振るう男だった。大振りの攻撃は力強さがあったが、当たるわけがない。
軽くいなして、剣の柄で打撃を与え気を失わせた。
「勝者テラエル!」
(まずは一つ)
闘いを見ていると、かなり手練れも混ざっている。恐らく元・護り手だったりするのだろう。
(なかなか強いのがいる。殺さずにどうにか倒せればいいが・・・)
テラエルは順当に勝ち進んでいた。驚いたのは、レガンドの実力だった。
(ヤバいくらい他と桁違いだぞ・・・。何だこいつは。ヤブラムと同じかそれ以上に見える。これが護り手・・・)
レガンドは相手を傷つけることも厭わずに倒す。それがわかっているのか、力のないものはすぐに降参をしていく。しかし、勝ち抜きを狙おうという者は果敢に立ち向かい、酷いケガを負い、倒されていた。
ラウルもまた勝ち抜いていたが、さすがに途中で強い相手にぶつかり傷つけずに倒す事はできない状況に陥り、やむなく本気で戦うことになった。この相手は何年か前の護り手だったようで、ラウルと同じ大剣の使い手だった。しかし本気を出せば倒せなくもない。どうにか打ち倒して、観客の声援に応える。
(勝てたか・・・。まだ傷を受けるほどの相手は出てこないが、この儀式、田舎のトーナメントだからってぜんぜん馬鹿にできるレベルじゃないんじゃないか?)
夕暮れ頃にはあれだけいた参加者も16人に絞られていた。どれもこれも元・護り手やそれらを破って勝ち残った新鋭だったり、油断など決してできない面子だった。もちろん()は勝ち残っている。
勝ち残った勇士たちを赤く照らし出すように、舞台に松明が焚かれる。そして今まで神に捧げ物をしていた台座に、他の伝統衣装よりより華美に飾られた衣装を身にまとった女が連れてこられた。
化粧をされていてまるで別人のようになっていたが、正しくそれはルパルナだった。
様々な装飾品に飾られて、女性らしい化粧を施された彼女はとても美しかった・・・・。
4日ぶりに彼女の姿を見て、ラウルの心はこれ以上なく昂り、その様を表に現すかのように松明の炎が燃える。
美しいルパルナに、女は溜息を、男たちが気勢を上げる。
レガンドのために用意された結婚の儀式だが、レガンド以外の男が勝ち抜けば間違いなくルパルナはその男のものとなるだろう。
───絶対に負けられない!
最愛の女、そしてその腹には自分の子がいるのだ。誰にも渡しはしない!
ラウルは知らぬうちに全身に力が入っていた。
16人の闘いは、次々と行われた。
打ち鳴らされる太鼓、人々の歓声、金属がぶつかり擦れあう音、血と煤の混じりあう臭い・・・
異様な雰囲気の中、闘いは続く。
ラウルはいつしか手を抜いて戦うことをやめていた。全力で目の前の相手を叩きつぶす。
たとえ命を奪ってでも勝つ。そんな意識が支配していた。
そして見事残り4人の中に勝ち残ったのだった。
今度の相手は双剣の若手。年の頃はラウルより少し若いか。
ここまで勝ち残るのは実力は本物だろう。
闘いが始まる・・・
双剣はヤブラムとの戦闘で経験していた。奴よりは剣筋も甘い鋭さもない。しかし、若さに任せた果断な打ち込みは、ラウルの薄皮を幾度も斬る。
(よし、問題なく身体は反応している。いけるぞ!)
ラウルは一撃に力を籠める。相手は大ケガをするだろうが、死にはしない・・・ハズ!
その攻撃は相手の攻撃を薙ぎ払って、強烈な一撃を与えた。相手は血を吐いて吹っ飛び、観客の波に飲まれて倒れたまま立ち上がってはこなかった。
(よし、決戦だ!)
ちらっとルパルナを見た。
彼女は今の一撃に目を見張っていた。そして、口元を抑えて肩を震わせている。
ラウルに気が付いたようだった。
いつも傍にいて、その剣筋や僅かなクセを知る彼女だからわかったのだろう。
(待っていろ。必ず勝つ!)
ラウルはルパルナに誓った。
年に一度の護り手の儀式がルパ一族の村で行われるのだ。かつてはその儀式を外部の者に見せることを拒んでいた彼らだったが、時代の流れとともにそういった伝統は薄れていき、今では見物人も外から訪れ、会場となる小さな村は賑わっていた。
後から知ったことだったが、護り手の儀式は一族中の男限定・年齢不問で参加可能だという。
ただし、子孫を残すことができる者という決まりがある。
儀式は一段高い舞台の上で行われる。参加の男たちはその舞台で1対1の戦いを行うトーナメント方式のようだった。参加者が降参するか、気絶、死亡した場合、勝ちとなる。
ラウルは長老の口添えで、出戻りの男テラエルという名前で大勢に紛れて参加することができた。
先ずは神への祈り、そして伝統の衣装に着飾った女たちによる神にささげる踊りが行われ、日が真上に上った頃に護り手の儀式が開始されたのだった。
万が一にも勝ち抜けば、一族で大きな権力を握れる。皆一様に欲に塗れ高揚した表情で戦いに臨んでいる。
(よし、俺もいくぞ。必ず勝つ!)
最初の相手は大金槌を振るう男だった。大振りの攻撃は力強さがあったが、当たるわけがない。
軽くいなして、剣の柄で打撃を与え気を失わせた。
「勝者テラエル!」
(まずは一つ)
闘いを見ていると、かなり手練れも混ざっている。恐らく元・護り手だったりするのだろう。
(なかなか強いのがいる。殺さずにどうにか倒せればいいが・・・)
テラエルは順当に勝ち進んでいた。驚いたのは、レガンドの実力だった。
(ヤバいくらい他と桁違いだぞ・・・。何だこいつは。ヤブラムと同じかそれ以上に見える。これが護り手・・・)
レガンドは相手を傷つけることも厭わずに倒す。それがわかっているのか、力のないものはすぐに降参をしていく。しかし、勝ち抜きを狙おうという者は果敢に立ち向かい、酷いケガを負い、倒されていた。
ラウルもまた勝ち抜いていたが、さすがに途中で強い相手にぶつかり傷つけずに倒す事はできない状況に陥り、やむなく本気で戦うことになった。この相手は何年か前の護り手だったようで、ラウルと同じ大剣の使い手だった。しかし本気を出せば倒せなくもない。どうにか打ち倒して、観客の声援に応える。
(勝てたか・・・。まだ傷を受けるほどの相手は出てこないが、この儀式、田舎のトーナメントだからってぜんぜん馬鹿にできるレベルじゃないんじゃないか?)
夕暮れ頃にはあれだけいた参加者も16人に絞られていた。どれもこれも元・護り手やそれらを破って勝ち残った新鋭だったり、油断など決してできない面子だった。もちろん()は勝ち残っている。
勝ち残った勇士たちを赤く照らし出すように、舞台に松明が焚かれる。そして今まで神に捧げ物をしていた台座に、他の伝統衣装よりより華美に飾られた衣装を身にまとった女が連れてこられた。
化粧をされていてまるで別人のようになっていたが、正しくそれはルパルナだった。
様々な装飾品に飾られて、女性らしい化粧を施された彼女はとても美しかった・・・・。
4日ぶりに彼女の姿を見て、ラウルの心はこれ以上なく昂り、その様を表に現すかのように松明の炎が燃える。
美しいルパルナに、女は溜息を、男たちが気勢を上げる。
レガンドのために用意された結婚の儀式だが、レガンド以外の男が勝ち抜けば間違いなくルパルナはその男のものとなるだろう。
───絶対に負けられない!
最愛の女、そしてその腹には自分の子がいるのだ。誰にも渡しはしない!
ラウルは知らぬうちに全身に力が入っていた。
16人の闘いは、次々と行われた。
打ち鳴らされる太鼓、人々の歓声、金属がぶつかり擦れあう音、血と煤の混じりあう臭い・・・
異様な雰囲気の中、闘いは続く。
ラウルはいつしか手を抜いて戦うことをやめていた。全力で目の前の相手を叩きつぶす。
たとえ命を奪ってでも勝つ。そんな意識が支配していた。
そして見事残り4人の中に勝ち残ったのだった。
今度の相手は双剣の若手。年の頃はラウルより少し若いか。
ここまで勝ち残るのは実力は本物だろう。
闘いが始まる・・・
双剣はヤブラムとの戦闘で経験していた。奴よりは剣筋も甘い鋭さもない。しかし、若さに任せた果断な打ち込みは、ラウルの薄皮を幾度も斬る。
(よし、問題なく身体は反応している。いけるぞ!)
ラウルは一撃に力を籠める。相手は大ケガをするだろうが、死にはしない・・・ハズ!
その攻撃は相手の攻撃を薙ぎ払って、強烈な一撃を与えた。相手は血を吐いて吹っ飛び、観客の波に飲まれて倒れたまま立ち上がってはこなかった。
(よし、決戦だ!)
ちらっとルパルナを見た。
彼女は今の一撃に目を見張っていた。そして、口元を抑えて肩を震わせている。
ラウルに気が付いたようだった。
いつも傍にいて、その剣筋や僅かなクセを知る彼女だからわかったのだろう。
(待っていろ。必ず勝つ!)
ラウルはルパルナに誓った。
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