アストラ金貨物語

友永ゆう

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第四章

水路の中で

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 一団は水路横にある僅かな足場を道なりに進んでいく。
古代の水路というだけで、変に入り組んだり迷宮のようになっている訳ではなく、所々緩やかに曲がりくねっているだけで魔物が溢れて襲い掛かってくるなどは今のところはなかった。

「古代の水路か。この辺りには古代の遺跡なんかが埋まっているのかもな」

「そうですね。この地域は過去にいくつかの王国が興り、そして滅んでいったという歴史があります。土に埋もれて不確かになった遺跡もあるのでしょう」
アイシャが教えてくれた。

「それにしても、任務の間だけとはいえ、貴方とこうして共に歩む時が来るなんて。思ってもみませんでしたわ」

ラウルはアイシャの様子を見ることはなかったが、心なしか言葉が弾んでいるようだった。
辺りは水の流れる音、天井から落ちる雫が撥ねる音、一団の足音以外は特に何も聞こえなかった。

「・・・臭いわ・・・。」
ベルが呟く。

「そうか?まあ、臭いと言えば臭いな。だが、ゴブリンの巣穴よりははるかに問題ないと思うぞ」

「それとは違う臭さなのよ。何て言うのかしら・・・私の嫌いな臭いが漂ってくるの」

「ふーむ?」

井戸に入ってどれくらい経っただろうか。

「もうすぐ。いるわよ連中」
ベルがボソッと言った。

すると正面に奥が部屋になっているような入り口が見えた。奥はまだ見えないが、ここからでは闇に閉ざされている。

「よし、灯り前へ。皆、間隔を狭めて進むぞ」

アイシャが指示を出した。兵士たちは慣れた様子で機敏に配置につく。
ベルはラウルの背中に隠れて進む。
そして、彼らは水路の中に作られた広い円形の部屋に入った。部屋はかなり広く、端の方は入り口から松明の灯が辛うじて届く程度だ。水は足首の辺りまで来ていて、まだ緩やかに流れている。足場になるような所はないので、水に足を取られないように気を付けねばいけなかった。

「あ、アイシャ様!あれを!」
松明を持った兵士が前方を指し示す。

そこには、暗がりに紛れてはっきりとはみえないが、灯りに照らされて輝く、僅かに水面から盛り上がった場所に、赤い目を爛爛と輝かせた大きな蝙蝠の羽根を持った漆黒の肌の人型の何かが腰を掛けていた。

「もう見つかったか。まあ、見つかろうともここで死んでもらえばいいんだがな・・・」

アイシャが叫ぶ───
「貴様がボウィックの街で皆の金品を盗んでいた者か!」

「ああ、必要に迫られて仕方なくな」

「ただの魔物ではないようだ。何故金品を盗んで回る?お前たちには無用の物ばかりだろう」

「必要なものがあるのだよ・・・金貨の中にな。なあ、お前ら持っていないか?アストラ金貨を」

「アストラ・・・?何のことだかわからないな」

「ふん、まあいい。さ、お喋りはここまでだ。死んでもらうぞ」

奴が言い終わる前にベルが飛び出してライトの呪文を天井にかけた。
その光に目を奪われて、混乱したのか、天井から大量の蝙蝠・・・いや、それより大きな人型の、奴よりは小さいモンスターが空中で暴れ出した。

「いくぞ!ラウル!」
アイシャは正面の喋る魔物に襲い掛かる。
ラウルもそれに続く。
兵士たちはそれぞれ飛び回っている巨大蝙蝠(そう呼ばせてもらう)と対峙している。

アイシャの鋭い攻撃は魔物を捉えた・・・かに見えた。当たる寸前に大きな羽根を羽ばたかせひらりと躱した。

「・・・私の剣を躱すなんて」

ラウルは火焔魔鎧を発動し、燃える剣で斬り付けた。

「おお・・・っあぶねえ・・・」

魔物は息を目いっぱい吸い込んだ。そして一気に吹き付けてきた。

「アイシャ!盾を構えろ!」

アイシャはラウルの指示で盾を構え、ラウルは剣を立てて顔正面に来るブレスを防いだ。

「ちっ俺の毒霧が!躱された!それに・・・」

アイシャは鋭く踏み込み、凡そ届かない距離から剣を振るった。
すると剣圧が魔物を捉え、羽根が大きく斬り割かれる。
そのため、バランスを崩して魔物は水面に身体を打ち付けた。

「ぐあっ両方強い!!このままでは・・・」

(アイシャの魔法剣か!?すげえ)

「我が空烈斬は距離など関係ない!さあ、お前から羽根を奪ったぞ」

「くそくそくそおおおおおおおおおおお!!!やっと見つけたのにみつけたのによお!!」

「ラウル!アイツ持ってるのよ!!」

ベルが叫ぶ。そうと分かれば絶対に奪わなければ。
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