娼年赤ずきんは暗殺者

百駿歌翅(ナナシノネエム)

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第二章 とある少年の物語

羽虫の下剋上

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 剣に属性を付与する。
 言葉にすると簡単そうだが、実際はかなりの高等技術だ。

 魔力をもちいた戦闘技能というのは、自身の肉体を強化するのが一番簡単で、逆に体から魔力(厳密には自分の魔力)を離すほど難易度が上がる。
 具体例を挙げるならこぶしよりも剣、剣よりもやりやりよりも銃や弓矢……と、こういった順で習得者が減っていくのだ。

 さらに言えば、単純に武器を強化する技能と、魔術を併用して属性を付与する技能は完全に別物だ。
 そして、現実に引きずり出された幻想のチカラが上乗せされている分、ミトがやったような魔術剣は、ただ強化された剣より強力な武器となっていた。

 ミトの持つ光の剣は炎の刃を切り裂いて、魔女狩り人形ウィッカー・ウィッチへと届く。

 はからずも渾身の不意打ちとして成立したミトの攻撃。
 彼女にとってそれは、あまりにも予想外だった。

 なぜなら、彼女の知識において、剣に属性を付与して魔術的強化をほどこすのは、冒険者なら使えるだけでも金等級ゴールドランク以上に認定される――つまりそれは、全体で上位一割に入る強さだと認められることを意味する――ほど強力かつ困難な技だったからだ。
 彼女が学ばされた“常識”によれば、ミトのような幼い子供が属性付与を使えるなんて、まず有り得なかった。

 想定外の事態に計算が狂う。
 無感情に改造された脳がエラーをはじき出す。

 とりあえず、回避。一歩下がる――いや、それだけでは間に合わない。

 緊急と判断。強度が不安だが、魔力放出を実行――ギリギリだ。だが、これならば致命傷は避けられる。

 魔女狩り人形ウィッカー・ウィッチが魔力を放出し、体表に簡易的なバリアを形成する。その簡易バリアの完成と、ミトの剣が少女の顔を切り裂いたのはほぼ同時だった。

(浅い……!)

 攻撃が阻害され、致命傷にならなかった。
 手応えからそれを感じ取ったミトは即座に次の攻撃へと移る。

 しかし、無理をしてただ剣を振っただけの追撃は完全に見切られており、殺戮兵器の少女が体を横にずらすだけで軽くかわされた。

損傷修復サニターティム

 光る剣に切り裂かれた眼球を瞬時に回復しながら、さらにミトから距離を取る。
 視界を再確保した魔女狩り人形ウィッカー・ウィッチはミトに反撃を――その瞬間、聞こえてきたのは二度の銃声――反撃を繰り出す前に、彼女は再び魔力を放出。そうすることに、第三者の攻撃を防いだ。

 漂う硝煙の香り。発砲者の正体は、もちろんジャクリーンだ。
 彼女は千載一遇のチャンスを逃さず、まさにハイエナのように横から勝利をもぎ取ろうとしたのだ。

 だが、彼女の放った弾丸は命中したにもかかわらず、少女の柔肌に傷一つ付けることなく虚しく地面へと落ちていく。

 ミトの剣ではダメージを与えることができたのに、ジャクリーンの銃弾ではダメ……魔女殺しの兵器は、露骨に魔力格差を、その理不尽を見せつけてくれる。

 ――この程度の攻撃なら、炎の壁による防御は不要。
 そう判断した魔女狩り人形ウィッカー・ウィッチはミトの排除を優先した。

 魔女狩りの少女が、自分を無視するように振る舞う。
 まるで、取るに足らない羽虫のように。

 その様子を見ながらジャクリーンは――勝利を確信し、口元で牙をくように笑った。

 さらに続けて二発。さっきと合わせ、連続で四発。
 最初の牽制二発と合わせれば、合計で六発。リボルバーの装填数だ。

 最後の二発は、直前の弾たちと同じように魔女狩り人形ウィッカー・ウィッチの頭部を狙い……一つは普通に弾かれる。

 だが、もう一つ、最後の“特別な弾丸”は、魔力のバリアをものともせず少女の側頭部に命中し、そのまま貫通。
 そして、一輪の赤い花を咲かせた。
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