鳥籠の皇太子妃が望むもの

柚木

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彼奴の部屋を後にして、自身の執務室へ向かう。
軍義中止にして、向かった部屋に半日いたとは。
色に溺れたと噂されたら困るが、妻であるティナとの仲を外に示すにはいい機会だ。
それにティナに溺れる分には問題はないからな。
部屋に辿り着き、中に入れば昨日、中途半端な形で終わっていた仕事の資料が床に落ちている。
誰かがこの部屋を訪れたのだろう。それにしても、この資料を拾わないで部屋から姿を消すのだから、侍女や文官、武官ではないだろう。
落ちている資料を拾っていると、ノックもなしに入室してくる一組の男女がいる。
カツカツとなるヒール音に眉を顰めため息が漏れる。


「ねぇ、ケイレブ様。本当に姉様とあの無表情男は上手くいきましたの?」

「ブリアナ、無表情男とは…兄上のことですか?」

「そうよ。あの男と来たら、姉様の気持ちに気付いているのか気付いないのか、本当にわからないわ」


この声、本当に彼奴の妹なのかと疑いたくなるほどに煩い。
執務に取り掛かろうとしていたはずなのに、何故コイツらは、俺の執務室にいる。
しかも、ティナの妹であるブリアナは本人を目の前にしながらも言いたいことを言う。
ティナのような謹み深さは、これには備わらなかったようだ。
前皇太子殿下と前皇帝陛下が、この姿をみたら嘆くだろうか。
あの方々から、「可愛い」といながら、猫可愛がるかもしれないな。
弟も弟で、ブリアナが口を開けば嬉しそうな顔する。重症だな。


「ケイレブ、そいつを摘まみ出せ」

「まあ、何て傲慢な方なのかしら。姉様をいままで放っておいて、やっと心を通わせようなんて虫がいいとしか言えないわ」

「おい」

「言わせてもらいますけど、あの時の私は幼すぎたわ。確かに、あの大火で私の身体は醜くなり何処にも嫁ぐことが出来なくなった。でも、いまはこんな私のことを愛してくれる方がそばにいてくれる。これが、何よりも幸せよ。でも、あなたは姉様に何をしてあげたの?地位を与えただけではなくて。皇太子妃なんて肩書きを姉様に与えただけでしょ?女としての幸福を与えてあげたの?」


よく話す女だな、と感心しているケイレブが擁護しはじめる。
俺がこの数年どんな気持ちでいたのか。彼奴には理解できないだろう。理解されても困るが。
この国は平和にみえて、平和ではない。やっと、ここ数年で安定した生活が送れるようになった。そのことは、ケイレブ自身もわかっていることだ。
俺が皇太子になれば、ティナが正当な血筋と言う奴らも多い。勝手に担ぎ上げられ、争いを嫌うティナが皇位に着いても望むものは得られない。
だったら、安定した世で王配としてともに国を支えて欲しい。


「兄上、彼女が言うことにも一理あります。クリスティーナ様を愛していると、以前おっしゃっていましたが、それをきちんと伝えましたか?」


弟の言葉に通り、まだ直接的には伝えていない。
側にいろとは伝えたが愛しているなどという言葉は、あまりにも恥ずかしくて伝えることが出来ない。


「兄上のことです。どうせ、言葉足らずで伝えられなかったのでしょう」

「うるさい」


声が低くなるのがわかる。
そろそろ、溜まっている仕事をしたいのだが、とも言えずに拾い上げた書類を片手に椅子に座る。


「図星ですわね。姉様に愛の言葉ひとつも囁けずに、大切にしているとは、どの口が言っているのですか。きちんと姉様の心を捉えてくれなければ、母様にすべて奪われましてよ。あの方は、私たちを駒としか思っていないのですから。死んだ兄上ですら、自分を輝かせるための駒としか思っていなかった方です」


ブリアナの言葉に感心して、書類から目を離し視線を合わせる。
先程までの挑発的な態度といいが、視線が交わっただけで怯えられた。
後退りをしそうになっているが、ケイレブに支えられている。


「ティナと違い、観察眼だけはあるようだな」

「うるさいですわ」


気丈に振る舞っているようだ。
一国の姫君のとる態度としては及第点かもしれない。
だが、この女はこの国でしか生きられない。あの大火で負った傷を、他国に晒せば侮っていると思われる。
そして、ティナよりも母のことを理解している。あの大火後に、あの女はブリアナの元に通ったことはない。
皇帝陛下の妃になった時点で、自身の地位に変わりはなくなった。ただ、自身を輝かせることもない子供になど興味がないのだ。
ティナのように、この国で地位を持たないブリアナに目を掛ける必要もないと思ったのだろう。それに、あの女の中でブリアナは傷者としてか映らなかったのだ。

少々褒めてやれば、口の悪さも改善されるかと思ったが、そのようなこともなかった。
言いたいことを聞いたのだから、部屋から追い出そうと命令しようとすれば、また突然扉が開く。
オロオロと部屋の様子を伺っているが、扉を閉めてそのまま入室して欲しい。


「あのディック様。先程は、乱れてしまい申し訳ありません」


先程まで共にいた愛しい女。
ただ、いまこの状況では頭を抱えたくなるほどの姿でやって来た。
開けた上着を誰か直してやらなかったのかと、叱咤したくなりたい。それに、ここまで来るのに何人にその姿を見せたのかと問いただしたい衝動に駆られそうになった。
本人は着こなしについては、何も気にしていないようだが、見た者たちを切り刻みたい。
自信を落ち着かせるために、深呼吸をしてから弟を睨む。
ティナを見るなと、警告の意味も込めて。
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