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疑問

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「では、大分他よりも遅れてしまったが、授業始めるぞー」

 初登校から翌日の午後。
 やっと本格的な授業が始まろうとしていた。
 生徒たちは先程よりは緊張感が和らぎ、落ち着きつつあるが、やはり、私には一切視線を寄越さないよう必死になってる気がする。
 どうした、君たち。

 そして、今は校内の見学をしている。
 昨日の今日で早くも仲良くなった人もいるようで、一部はきゃっきゃと楽しみながら見学していた。

(もう、気が合う人を見付けるなんて……いつまであの関係が続くのかしら?)

 他人事ながらそう思った。
 だって、絶対とか永遠とかあり得ないものだもの。
 だから私はー……もふ。

 と、思考の海に囚われそうになったとき、顔面にもふもふが来た。
 私の中のさざ波が、もふもふにより穏やかになった。

「モノクロ……」

 今日は白と黒の模様を持つうさぎを連れてきた。
 まだ若いことも有り、好奇心が旺盛で色々な物を見て回るのが好きな子だ。

 気付けば、私が立ち止まっていたこともあり、少しグループと離れていた。
 私は一番後ろにいて、かつ、ニ歩分離れて付いていたので(だって、それ以上近付くと目の前の子が泣き出す勢いで震えるんだもの)、私が立ち止まって離れていることをまだ誰も気付いてない。

「このままいなくなっても気付かれ無さそうね」

 でも、それはこの子たちが望んでないから。

「行かなくちゃ」

 私は立ち止まった足を、また前へ進めた。


 ッドオオオン……。
 先程から鳴り響いていた音。
 それが今は爆音となって聞こえてきた。
 各学年の教室、音楽室、美術室、ダンスホール、化学室、図書室……と上の階から下へ降りながら校内を見て回っていた。

 図書室が特に私の中ではお気に入りで、上質で幾多の歴史が刻まれ記された本が集まる大きな空間は、時が止まったような不思議な雰囲気が詰まっていた。
 円柱に3階もの空間を使って収められた本たちが、読み手の主を静かに待っているようだった。
 この場所にあまり期待するものはなかったが、早々に好みの場所が見付かり、少しテンションが上がった。
 ウサギの次に好きだわ♪

 そして、今は外に出て校舎の裏側に来ていた。
 そこには闘技場のような造りの物があった。
 天井は無く、地面が広く広がっている所を中心に、周囲は壁で囲まれ厳重に造られている。
 その壁の先は、鑑賞者用の席がずらーっと10列分ほど並んであった。
 そんな闘技場の迫力ある建物だったが、今はそれよりも、目の前の出来事に注目を集めていた。

「風の精よ、我に楯突く者に刃を……ウィンドウカッター!」
「土の精よ、我に守りの術を……グラウンドシールド!」

 上級生の方々が、魔法について学んでるようだ。
 二人一組でペアを組み、魔法の打ち合いの特訓中であった。
 一生懸命お互いを刺激し合い、言葉を紡ぎ合っている。
 その姿に新入生は目をキラキラ輝かせ、ほぅ……と、恍惚な息を漏らしている。

「凄いよなー。皆も勉強を頑張って、努力を重ねていくと、先輩達のような憧れな魔法が使えるようになるからなー」

 と、ファンデル先生も目の前の光景にうんうんと満足そうに頷いて見守っている。

 私はこの目の前の光景に、疑問に感じることが幾つか浮かび上がってきた。
 先生の方へ近寄り、その疑問を質問してみた。

「ファンデル先生、何故皆様はわざわざ魔法を唱えていらっしゃるの?」

「ん? ……んー?」
 
 疑問が浮かぶので先生の返事は後にして、続いて全部質問する。

「何故、多くても2種類程度しか魔法を使わないのかしら? 制限でもかけて訓練してるの? 後はあんなに装飾付けている方もいらっしゃいますが、あれは校則違反ではないの? それと、手でわざわざ防御造るような構えをしたり、攻撃したりとあの動きは意味がありますの? 無駄に疲労が蓄積しそうなのですが……」

 んー、やっぱり見れば見るほど不思議な光景だ。
 やはり、名門校と言うこともあって、何かを考えて行っていることなのかしら?
 だとしたら納得いくが……面倒くさそうというのが抱いた本音だ。
 ふむ、と私はアゴの下に手を置き、観察を続ける。
 ファンデル先生は不思議なことに静かであるが、後一つだけ質問してみよう。

「何故、皆様こんなにも攻撃を抑えて小さい魔法しか使わないのですか?」

 うん、意味が分からない。
 それは、多少は威力を抑える必要があるだろうが、これは抑えすぎでしょ。
 訓練の意味あるのかな? と、やけに静かな担任へ首を向ける。
 何か答えてよー。

「……? は? ……んん? ちょーっと、リンヴィーラくん、君は私に何を求めているんだ?」

 え? だから、そのまま疑問の解説を求めているのだが。
 こちらも意味が分からず、キョトンとしてしまう。
 モノクロも首をコテンと傾げている。
 私の真似が相変わらず好きねー、よしよし。

「は? いや、多くても2種類程度しかとか……まずはこの規模の魔力の把握が良く出来たとツッコめばいいのか? てか、そもそも、魔法は2種類ぐらいしか使えないだろう。幻獣とかじゃあるまいし。あ、そっか何かの情報とごっちゃになっちゃったのかな? うんうん、そいうことか!」

 ブツブツ深刻そうに眉間に皺を寄せて呟く。
 と、思ったら閃いたようにスッキリな表情で顔を上げた。

「リンヴィーラくん、後でちゃーんと勉強するから大丈夫だ。君は混乱しているだけだよ」

 ? 混乱? 何が? と、今度は私が固まってしまう。
 モノクロは暇になったらしく、耳や顔を洗い出しブフブフ鳴き出している。
 可愛い。

「で、装飾は……うん、これは単純に学んでないだけだな。親が身に付けさせて聞いたことあるはずだが、忘れたとかだろう。身体向上、回復、異常状態回復、魔力の向上……とか、サポートするために持つ物で、少なくとも親から回復系の装飾は持たせてくれたと思うが」

 そんな物はないし、教えて貰ってない。
 てか、そんな装飾無くても出来る物でしょ?

「ん? 何で不可解な顔をしているのか? え? 出来るって? いやいや、うん、これも君は混乱しているのだよ。ちゃんとこれからの勉強で整理しような」

 と、何だか暖かい眼差しで励まされた。
 え? 何でそんな顔して私を見るの? 励ます意味も分からない。

「んー? 何でさらに顔が渋くなったのかな? まぁ、後は動きだな。あれは見たことなかったのかな? 皆、魔法をコントロールするために何だかんだしていると思うが。リンヴィーラくんはまだ魔法には触れてないのかな?やはり、しっかり勉強で補ってこうな!」

 さらに輝かしい笑顔付きで励ましてきた。
 なんか、痛いし止めて。
 モノクロが私の胸に頭を擦りつけて癒してくれた。
 ありがたや。

「……で、最後だがあれは抑えてないぞ? 何でそう感じた? これは訓練だからな。ほぼ全力だぞ。リンヴィーラくんもそうだろう?」

 は? あれと同じくらい? とんでもない! 自分を傲ってるつもりはないつもりだけど……。
 それとも端から見たらそうでもないとか?

「いや、そんなことない」

 と、改めて自分の分析をしていると、先輩クラスを見ていた担任が、こちらへ手招きしていた。
 それに、ファンデル先生も気付き、私たち新入生を呼び掛け、その担任の元へ向かう。

「新入生の諸君、改めて入学おめでとう。俺は5学年担任のガラディス・グラウンだ。良ければ、ここに魔力計量器がある。やってみるか?」

 それを見て目を輝かす一同。
 私も珍しく皆と同じく興味を抱く。
 あんな透明で丸い玉で計れるんだ……。
 どうやって分かるんだろう?

「まず始めに水晶に手を置くんだ。すると自分の使える属性が分かる。色が浮かび上がって、2種類ある者は2種類色が出て来る。数値はこれも時期に習うが、人の限界値は1万だ。そして君達ぐらいの平均は200。それより下に表示されたとしても鍛えれば上がるから、そんな落ち込むことはない」

 生徒たちはその説明に従って計っていく。
 そして、番号順から私の番が来た。
 今の所、300代が多く、一番多いのが騎士名門の貴族の出だという男の子で520だった。
 クラスからも先生からも驚きの声が上がった。

「じゃあ、次どーぞー」

 ファンデル先生に促されて水晶に触れる。
 と、変な感じがした。
 ぐわんと歪んだ感じがした。
 水晶が熱くなったり、冷たくなったりと不安定に揺れ動く。

「! リンヴィーラくん! 手を一度、放してー……」

 と、言った瞬間、目が開けられないほどの強い光が発光し、砕けて弾ける音がした。
 それにより周囲の悲鳴が上がった。

 光が落ち着き、目をゆっくり開ける。

 そこには無惨な姿になった、透明な欠片が散らばっていた。


 はて……器物破損、になっちゃうのかしら?
 モノクロは私の足元で丸まっていた。
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