37 / 51
37話
能面のまま、進む
しおりを挟む⸻
──黙って歩いていた。
幻装はまだ身に纏っている。
だが、その力に張りはなかった。
拳に集う気配も薄く、ただ“形”として残っているだけ。
アヤトの足取りは鈍い。
動ける。進める。戦える。
けれど──疲れていた。
身体ではない。心が、だ。
ここまで、屠りに屠り尽くしてきた。
異形だけではない。
かすかに理を持ち、言葉を交わせそうな“知性体”すらも──
例外なく、その拳の前に沈めた。
かつては人間だったのだろう。
あるいは、そういう“形”だったのかもしれない。
だが、それが何だというのだ。
対話も、猶予も、迷いも──
今のアヤトには、すべて無意味だった。
拳を向け、叩き落とす。
破片となって潰れ、沈む。
アヤトは、それをただ見ていた。
表情は動かず。声も出さず。
──まるで、能面のように。
怒りも、悲しみも、思い出せない。
もしかすると、まだどこかに残っているのかもしれない。
だが、それを掘り返す余力など、とっくに底をついていた。
幻の拳は、まだその腕にある。
だがもはや“戦い”のためではない。
ただ、進むための──形式。
異形の気配は消えていた。
街の広範囲域を、一帯また一帯と屠り、何も残さなかった。
この先に、戦いはない。そう思えるほどに。
「……もうすぐ、島だな」
声に熱はなかった。
だが、その一言だけが、まだ“人間らしさ”を残していた。
目的地は近い。
地図に名を残すだけの島。
かつて“師匠”が祀られていたという──忘れられた祠の地。
アヤトは、能面のまま歩みを止める。
岸辺に立ち、静かに水面を見つめた。
渡し舟も、橋も、もう存在していない。
風はなく、波もない。
ただ──静寂だけが、そこにあった。
アヤトは、幻を練った。
指先に集めた淡い力が、音もなく形を成していく。
杭。板。舷。
無駄を削ぎ落とした線が、ひとつの舟を描いてゆく。
──幻にて、舟を組む。
刃にも鎧にもなるその力を、今はただ“運ぶため”に使うだけ。
舟は淡く、薄く、それでいて確かに浮かんでいた。
揺れず、軋まず、最初からそこにあったかのように。
アヤトは幻装を解き、その舟に乗り込む。
拳も、力も、今はもう──不要だった。
片手をかざす。
舟が音もなく、水面を滑り出す。
向かうは、島。
祠のある、その地へ。
風も波も、気にしなかった。
幻の舟は、ただ淡々と進み続けた。
アヤトの心の奥に、微かな熱が残っていた。
舟は、ただ進む。
何も語らず、何も残さず──
アヤトを、あの島へと運んでいた。
0
あなたにおすすめの小説
転生先はご近所さん?
フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが…
そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。
でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
チート魔力を持ったせいで世界を束ねる管理者に目を付けられたが、巻き込まれたくないので金稼ぎします
桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。
交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。
そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。
その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。
だが、それが不幸の始まりだった。
世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。
彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。
さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。
金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。
面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。
本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。
※小説家になろう・カクヨムでも更新中
※表紙:あニキさん
※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ
※月、水、金、更新予定!
蒼き樹海の案内人
蒼月よる
ファンタジー
辺境の森で育った少年ユーリには、不思議な目がある。魔素の流れが光の粒として見えるのだ。
蒼の樹海——人を喰らう巨大な森に足を踏み入れた彼は、遺跡屋の青年カイと出会い、冒険者として歩み始める。樹海の奥に眠る遺跡、港街の裏に潜む陰謀、灰に覆われた滅びの国、そして首都に隠された世界の秘密。
仲間と共に世界を巡るうちに、ユーリは気づいていく。この世界の「魔法」も「神」も、すべてが何かの残骸なのではないか——と。
冒険・バトル・素材経済・食文化を軸に、ファンタジーの裏に潜むSF的真実へと辿り着く、全4巻の冒険ファンタジー。
この作品は以下の箇所にAI(Claude Code)を利用しています。
・世界観・設定の管理補助
・プロット段階の壁打ち
・作者による執筆後の校正
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
壊獄の浄祓師
はといるか
ファンタジー
人の悪面から生まれ落ちた穢れしモノ「穢者」
それらに対抗する力、浄力を操り穢者を排除すべく戦う「浄祓師」。
普通の高校生活を送っていた坂宮幽斗はとある事件によって浄穢の戦いに巻き込まれてしまう。
守るべきものの為に幽斗は浄祓師として戦いに身を投じていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる