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第9話 夕暮れの約束
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グレイン村に、穏やかな秋が訪れた。
麦の穂は金色に揺れ、空はどこまでも澄んでいる。
夕暮れが近づくころ、広場ではおじいさんたちがせっせとランタンを並べていた。
今日は、年に一度の収穫祭だ。
「桜ちゃん、その紐、こっちに通してくれんかのう」
「はい、こうですか?」
「おお、さすがじゃ。手先が器用で助かるわい」
手を動かすたび、オレンジ色の光がランタンの硝子に映り、桜の頬をやわらかく染める。
カイは少し離れたところで、木の柱を直していた。
斧を振るう背中が夕陽に照らされて、赤く光って見える。
――あの人の横顔って、いつも真剣で、少し寂しそう。
ふと、そんなことを思った瞬間、カイがこちらを振り向いた。
目が合って、桜は慌てて視線を落とす。
頬が熱くなるのを、ランタンの光のせいだと自分に言い聞かせた。
祭りが始まると、村中が笑い声に包まれた。
おじいさんたちが奏でる笛の音、焼き立てのパンの香り、木のカップに注がれた果実酒の甘い匂い。
桜はその真ん中で、誰かが渡してくれた小さな花冠を頭にのせて笑っていた。
「桜、ちょっと来い」
いつの間にか背後にいたカイが、低い声で言った。
桜が振り向くと、彼は手にひとつのランタンを持っている。
硝子の中では、小さな炎がゆらゆらと揺れていた。
「灯すの、手伝ってくれ」
ふたりで並んで、丘の上の石垣にランタンを置いた。
風がそっと頬をなで、カイの袖が桜の手の甲をかすめる。
その一瞬に、胸の奥が不思議にざわめいた。
「……きれいですね」
「そうだな。おまえがいてから、村が少し明るくなった」
唐突な言葉に、桜は目を瞬かせた。
カイは照れたように視線を逸らし、ぼそりと付け足す。
「……俺も、だ」
静寂。
焚き火の音と、遠くで笑うおじいさんたちの声だけが聞こえる。
――そんなこと言われたら、どうすればいいの。
胸の奥が温かく、でも少し切なくなって、桜は思わず笑ってしまった。
そっと伸ばした手が、カイの手に触れる。
固くて、温かい。
ふたりの指先がかすかに重なり、夜風の中で小さく震えた。
「……ありがとう、カイさん。わたし、この村が好きです」
「……そうか。なら、よかった」
ランタンの灯が風に揺れ、ふたりの影をひとつにした。
その光が、長い夜をやさしく包み込む。
桜の心の中にも、静かに、あたたかな火が灯っていた。
麦の穂は金色に揺れ、空はどこまでも澄んでいる。
夕暮れが近づくころ、広場ではおじいさんたちがせっせとランタンを並べていた。
今日は、年に一度の収穫祭だ。
「桜ちゃん、その紐、こっちに通してくれんかのう」
「はい、こうですか?」
「おお、さすがじゃ。手先が器用で助かるわい」
手を動かすたび、オレンジ色の光がランタンの硝子に映り、桜の頬をやわらかく染める。
カイは少し離れたところで、木の柱を直していた。
斧を振るう背中が夕陽に照らされて、赤く光って見える。
――あの人の横顔って、いつも真剣で、少し寂しそう。
ふと、そんなことを思った瞬間、カイがこちらを振り向いた。
目が合って、桜は慌てて視線を落とす。
頬が熱くなるのを、ランタンの光のせいだと自分に言い聞かせた。
祭りが始まると、村中が笑い声に包まれた。
おじいさんたちが奏でる笛の音、焼き立てのパンの香り、木のカップに注がれた果実酒の甘い匂い。
桜はその真ん中で、誰かが渡してくれた小さな花冠を頭にのせて笑っていた。
「桜、ちょっと来い」
いつの間にか背後にいたカイが、低い声で言った。
桜が振り向くと、彼は手にひとつのランタンを持っている。
硝子の中では、小さな炎がゆらゆらと揺れていた。
「灯すの、手伝ってくれ」
ふたりで並んで、丘の上の石垣にランタンを置いた。
風がそっと頬をなで、カイの袖が桜の手の甲をかすめる。
その一瞬に、胸の奥が不思議にざわめいた。
「……きれいですね」
「そうだな。おまえがいてから、村が少し明るくなった」
唐突な言葉に、桜は目を瞬かせた。
カイは照れたように視線を逸らし、ぼそりと付け足す。
「……俺も、だ」
静寂。
焚き火の音と、遠くで笑うおじいさんたちの声だけが聞こえる。
――そんなこと言われたら、どうすればいいの。
胸の奥が温かく、でも少し切なくなって、桜は思わず笑ってしまった。
そっと伸ばした手が、カイの手に触れる。
固くて、温かい。
ふたりの指先がかすかに重なり、夜風の中で小さく震えた。
「……ありがとう、カイさん。わたし、この村が好きです」
「……そうか。なら、よかった」
ランタンの灯が風に揺れ、ふたりの影をひとつにした。
その光が、長い夜をやさしく包み込む。
桜の心の中にも、静かに、あたたかな火が灯っていた。
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