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24. 一緒にうどん屋しよう
しおりを挟む海の匂いのする風が顔に当たって気持ち良い。
「ソフィア、お前は讃岐うどんをこの国だけでなく他の国にも知って欲しいと思わないか?例えば、『うどん屋』を他の国にも作りたいとは思わないか?」
「他の国に?」
前世ではたくさんの讃岐うどん屋があって、色々なうどん屋を巡る人もいた。
うどん屋同士が競うように美味しいうどんを作っていたから、より美味しいうどん屋が多かった記憶がある。
「確かに色々なところで讃岐うどんを知ってもらえれば、より美味しいうどんを作ろうとする人も増えて、もっと皆が美味しいうどんが食べられるかも知れませんね。」
それはきっと、前世の讃岐うどんをこの世界に持ち込んだ私にとってはとても嬉しいことだろう。
「そうだな……。」
そうだな、と言ったきりいつもならよく喋るロルフ船長は押し黙った。
「ソフィア、俺と……この国を出ないか?」
「国を、出る?」
ロルフ船長はどこかに行ってしまうつもりなんだろうか?何故そんなことを言うのか。
「もうすぐ、俺たちはこの国を出る。元々俺たちはここに長居するつもりはなかったんだが、たまたま俺がソフィアに出会っちまったから離れがたくなっているだけだ。予定より長く居すぎた……。」
「ここを出て、どんな国に行くんですか?そしてまたしばらくしたら次の国へ行くんですか?」
本当にこの優しくて時々強引なロルフ船長が居なくなるんだと思ったらグッと胸が苦しくなった。
「次の国は決めてるが、その次は決めてない。お前の返事次第ではもしかしたら永住するかも知れねぇし、またしばらくしたらどこかに移動するかも知れねぇ。」
「……私次第?」
「そうだ。俺はお前のしたいようにすれば良いと思ってるから……もし着いてきてくれるならそこで永住してうどん屋するなり、またしばらくして他所でうどん屋するなり。とにかくソフィアのしたいようにしてやりてぇんだ。」
大人の色気みたいなものを常に振り撒いて私をドキドキさせるロルフ船長は、今日は特に私を翻弄して。
いつもよりもっと胸がドキドキと大きく高鳴って、痛みのようなものも感じるから、思わず私は胸に手をやって押さえた。
「俺もお前とならうどん屋一緒にしてもいいと思ってるしな。」
なんでそんなこと言えるんですか。
「船は?」
「船はまあ乗組員に任せちまってもいいし。まあうどんの材料のザディヌとスキプジャクくらいは俺が取りに行くか。」
私とうどん屋を一緒にしたいとか、誰も言ってくれなかったのに……。
この人は簡単なことのように言う。
「漁師の仕事が好きなんじゃないんですか?」
「……それが、実は俺は生粋の漁師じゃねぇんだ。」
「え?」
困ったように眉を下げたロルフ船長は、アッシュブロンドの髪をかきあげてグリーンの瞳で私をじっと見つめた。
「理由があって、俺たちは街でも噂になってる義賊みてぇなことをしてきた。だけど、もうそれよりもソフィアと一緒にうどん屋する方がいいかもなって思えたんだ。」
「義賊……。『名もなき義賊』?」
「まあ、そう名乗ったことはねぇけど。勝手に誰かが名付けたんだろ。商船や一般の船は狙わないが、悪徳貴族の船だけを狙って、アガリの半分は孤児や路上生活者に返してた。」
店でもよく聞いていた噂の『名もなき義賊』がロルフ船長たちだったの?
じゃあこの船が……。
「何故そんな海賊みたいな真似を?」
「俺や乗組員らは皆孤児だ。幼い仲間が何人死んでも、奴隷商人に売られて居なくなっても、誰も気付かない。最近ではアラゴンの街でも孤児や路上生活者が行方不明になってる。けど、それに気づく奴はいない。奴隷売買に関わってるのは腐った貴族、禁輸品に手を出すのも貴族だからな。」
「その復讐?」
海と空と溶け込むような自然の色をしたグリーンの瞳は波を反射してキラキラと輝いていた。
「まあ、復讐だな。でももし……ソフィアが俺と来てくれるなら、俺はお前とうどん屋やって幸せな家庭ってやつを築くのも悪くないかなと思ったんだ。」
孤児だったというロルフ船長たちは、私の知らない苦労や辛い思いをたくさんしてきたんだろう。
それで貴族たちに復讐をしようと海賊まがいのことをしてきたんだ。
でもきっと復讐をしても気持ちは晴れなかったんだね。だから、私とうどん屋を営んで幸せな家庭を築きたいと言ってくれている。
自分たちが幸せになることで、復讐を終わらせようとしてるんだ。
いつも飄々としてて、強引で、自分勝手にも思えるような態度もするけど。
それでもこの人は優しい人だ。
海賊というやり方は間違っていても、孤児の集まりでやれることは限られていたんだろう。
それでも生きていくために、仲間を守るためにそうしてきたんだろう。
この人に幸せになってもらいたい。
いつも私を翻弄することを言ってドキドキさせて、いつの間にか生活の合間に船長のことを考えてしまうことも多かった。
アントン騎士団長さんの告白よりもっと、この人との日常はドキドキさせられて、きっとこれが私の初恋なんだろう。
「初めてなんです。」
「……へ?何が……?」
突然の私の言葉に訳が分からず戸惑う船長は、いつもは大人びて野生的なのに、突然少年のようなあどけない顔に見えて、私は笑ってしまった。
「ふふっ……。ロルフ船長が初めての恋なんです。私の。初恋は実らないって言いますけど、あんまり船長がグイグイ来るから逃げられなくなっちゃいました。」
「グイグイ……。まあ俺より若くて見目もいい奴らがお前の傍にはウジャウジャいたからな。俺だって大人気なく焦ってたんだよ!」
心なしか頬を赤くした姿はとても新鮮で。
「うどん屋、一緒にしてくれますか?」
「……いいのか?」
「ダメなんですか?」
「いや、ダメじゃない。」
そう言って船長は私をギュッと抱きしめたから、いつかの日に抱きしめられた時に香った爽やかで大人っぽい香水の香りがした。
そしてそのまま口付けをしそうな雰囲気になったところで、周りに視線を感じて見回したら……。
「「おめでとうございます!船長!」」
すっかり存在を忘れていたけど、乗組員の方たちが物陰から覗いていて、私は顔が熱くて恥ずかしくて。
「ごめんなさいっ!!」
何故か謝って顔を覆ってしゃがみ込んだ。
「お前らのせいでソフィアが泣いたらどうすんだ!?せっかく俺のもんになってくれたって言うのによ!お前らのせいで俺が捨てられたら一生恨むからな!」
頭の上でいつも以上に大きな声で声を出しているロルフ船長も、実は照れていたのかも知れない。
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