殿下、真実の愛を見つけられたのはお互い様ですわ!吸血鬼の私は番いを見つけましたので全力で堕としにかかりますから悪しからず

蓮恭

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28. 国王だって大変なのだぞ


 数日後の王城では市井で暮らす出入り業者やら使用人の噂から始まり、王太子ユベールの元婚約であるアドリエンヌが、伯爵令息であるアレックスと婚約を結んだと話題となっていた。

 王太子の婚約者ともなればアドリエンヌは国内でも知られた存在であったし、センセーショナルな婚約破棄の話題は貴族だけでなく庶民にも知れ渡っていたのだ。

 そしてあの愚かな王太子の耳に入るのも時間の問題であった。

「父上!アドリエンヌが伯爵令息と婚約を結んだなどという馬鹿げた噂をお聞きになりましたか?何故あの女が他の男と婚約を結んで、私がネリーとの婚約を認めていただけないのですか?ネリーは健気にもずっと私との婚約を待ち侘びてくれているのです。母上だって、私たちが早く婚約できるよう望まれています。もういい加減認めていただいても良いのではないですか?」
「陛下、ユベールが可哀想だとはお思いにならないのですか?愛するネリーと未だ結ばれずにいるのです。ネリーの母親は私の従姉妹ですから、私の立場もありますのよ。何が気に入らないのです?」

 王太子と王妃は国王へ訴えたが、国王はなかなか頷かなかった。

「お前たちは何も知らないからそのような事が言えるのだ。」

 ただ、そう言っただけで目を伏せた国王に王太子と王妃は尚も噛み付いた。

「父上、何も知らないとは何のことですか!とにかく、ネリーとの婚約を認めてください!」
「陛下!ユベールもネリーも可哀想ですよ。あの高飛車なアドリエンヌより、必ずネリーの方がよい王太子妃になりますわ。王太子妃教育だって、ネリーはもうすでに取り組んでいるのですから。」

 国王は以前この愚か者の王子にネリーとの婚約は許さないと言った。
 それなのに王妃はネリーに王太子妃教育を施していると言う。

「もう、勝手にするが良い。しかし王太子よ、必ずシャトレ侯爵とアドリエンヌ嬢に誠心誠意の謝罪をするんだ。それが無事終わればお前たちの婚約を認めよう。」

 国王は結局王妃と王太子の激しい直訴に負けた。

 とにかくあの侯爵やアドリエンヌだって、以前の様子からすれば王太子本人が謝罪をすればそこまで怒ることもなかろうと思ったのだ。

「わ、私が謝罪を?」
「当然だ。お前のおかげで国王である儂はシャトレ侯爵とアドリエンヌ嬢に謝罪する羽目になったんだぞ。当事者である王太子が謝罪をしなくてどうする。とにかく、ただちにシャトレ侯爵家へ知らせをするように。」
「……分かりました。それで王太子の座もネリーも守れるならば。私は涙を飲んで謝罪いたします。」

 全く懲りてない愚か者の王太子に国王は一抹の不安を覚えたが、さすがにそこまで愚かではなかろうとその不安に気づかないふりをした。

「可哀想なユベール。あんな強欲商人の成り上がり貴族とその娘に謝罪をしなければならないなんて。本当に、陛下の小胆さには呆れますわ。」
「なんだと?王妃よ、其方は何も分からんくせに儂を侮辱するのか?」

 段々と国王と王妃の雲行きさえ怪しくなってきたところで、ユベールは王妃にひどく芝居じみた言葉をかけた。

「母上、そのように仰ってはいけません。父上は平和主義なのです。なるべく国内の貴族との軋轢を生じたくはないのでしょう。私も後々は国王となる身、父上のように貴族たちを上手くあしらってみせましょう。表向きの謝罪など簡単なことです。」
「まあ!ユベール!貴方は本当に優しい子ね。貴方こそ、この国の王に相応しいわ。」

 王妃は国王との婚約当時、この国で一番力と財力を持った貴族の娘であった。
 その時からこの王族は財政が厳しく、まさに経済的な理由から政略結婚で婚姻が結ばれたのである。

 だから今だに王妃は国王のことを蔑ろにすることがあった。
 国王としては、王妃や王太子にシャトレ侯爵家が吸血鬼であるということをさっさと婚姻を結ばせることで今だに王族を金銭的に支援している王妃の実家の支援分を、シャトレ侯爵家に移すことで王妃側の影響力を少なくする意図もあったのだ。

 それなのに、愚か者の王太子のせいで計画は頓挫した。
 結局ネリーが王太子妃になれば、また王妃側の影響力が大きくなる。

「また儂は軽んじられるお飾りの王となるのか。」

 国王はポツリと独りごちた。




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