政略結婚の相手は、御曹司の元カレでした〜冷たいはずの彼が甘過ぎて困ってます〜

蓮恭

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44. 求め合い、貪り合う

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 マンションの鍵が開く音が、夜の静けさに溶けていく。

 ただいま、と言うには少しだけ重たい空気。
 それでも私は、あたたかい手を引かれるまま、何も言わずに玄関に足を踏み入れた。

 無言のまま靴を脱いだ礼司さんの背中から、言葉にならない熱が伝わってくる。
その動きの一つ一つに、張りつめた空気が滲んでいた。

 静かにドアが閉まる音がした後も、私はその場に立ち尽くしていた。ヒールを脱ぐタイミングすら、上手く掴めない。

「……静香」

 呼ばれただけで、胸が跳ねた。振り返るよりも先に、背中から抱き締められる。

 スーツの香りと、礼司さんの熱。柔らかく、でも絶対に離さないという意志を帯びた腕が、私を包み込む。

「……大丈夫だ。もう誰にも触れさせない」
 耳元で囁かれたその声は、低くて甘くて、ぞくりとするほど熱を帯びていた。

 思わず、力が抜けて彼にもたれる。怖くなんてない。むしろ今は、触れていてほしいとさえ思ってしまう。

(……こんなに、礼司さんのことを求めてる)

 背中を撫でる大きな手が、私の震えをなだめるように動いていた。

「……触れてもいいか?」

 優しく問われて、首を小さく縦に振る。

「礼司さんに……なら、いいです……」

 その瞬間、抱きしめる腕の力が強くなった。

 礼司さんの腕の中で、何かが静かに決壊していくのを感じた。安心と熱に包まれて、私はもう、何も言葉にできなかった。

 やがて礼司さんがそっと私の肩に口づけると、無言のまま手を引いて歩き出す。寝室へと向かうその一歩一歩が、やけに長く感じた。

 廊下の灯りだけが、柔らかく足元を照らしている。私はただ、その背中についていく。

 ドアが静かに閉まる音がして、次の瞬間――私の背中が壁に押し付けられていた。

 目を合わせたまま、唇が落ちてくる。
 優しさなんてものは、最初の数秒で溶けた。

 貪るようなキス。まるで、失ったものを取り戻すかのように、礼司さんは私を強く、深く、求めてきた。

「……静香、お前が他の男に触れられたと思うだけで、気が狂いそうだった」
 
 低く、熱の籠った声が耳に落ちる。

「全部、俺のものにしてやる。……今すぐに」

 唇、首筋、肩――求めるように触れる手が熱を帯びていて、私の身体は瞬く間に火照っていく。

(礼司さんに、抱かれたい……全部、彼に溶かされたい……)

 触れられるたびに、私の中の不安や痛みが消えていく気がした。もう、どこにも逃げられない。
 けれど――それでいい。私は、逃げたくなんてなかった。

 唇を重ねたまま、礼司さんの指先が私の背へと滑り込んだ。いつもなら丁寧に、確かめるように触れてくれるのに――今夜は違う。

 ドレスのジッパーが、容赦なく引き下ろされる。肌に冷たい空気が触れるより早く、礼司さんの手がその上をなぞってきた。

「……今夜は、待てそうにない」

 背中へと落ちる低くて震える声。焦燥と欲望に濡れたその声音に、私の身体が自然と熱を帯びていく。

 肩紐が落ち、下着が剥がされる。私は一枚ずつ、自分を捧げていくような気持ちになった。
 けれど、ただ与えるだけじゃない。今日は私から与えたくて、そしてもっと強く触れて欲しくて、私の方からも彼の体温を求めてしまう。

 礼司さんの首に腕を回し、そっと耳元に唇を寄せる。

「……お願い。もっと、触れて……」

 自分の声が、熱に震えていた。その瞬間、礼司さんの腕が私の腰を強く引き寄せる。

「ん……っ、はぁ……」

 裸の胸と胸が触れ合う。吐息が混じり合う距離で、私はそっと彼のスーツのボタンに指をかけた。
 笑えるくらい手が震えていた。それでも、自分の意志で彼の胸元をほどき、タイを緩めていく。

「……私が脱がせたい……」

 そっと目を上げると、礼司さんの目が見開かれ、すぐに細く優しく揺れる。
 そのままシャツの布越しに、彼の胸元へ口づけた。

「静香……」

 低く名を呼ばれた途端、唇を塞がれる。激しく、深く、何もかも奪い尽くすようなキス。
 
「……静香。お前が、他の男の目に触れただけでもう……俺は、壊れそうだった」

 唇が、首筋から鎖骨へと這う。焦るように、けれど執拗に。まるでそこに何かを刻み込むように。

 私はただ、彼にしがみつくことしかできなかった。胸元にかかる指先が、迷いなく下着のホックへと伸びてくる。

「礼司さん……っ」

 自分でも驚くほど熱を帯びた声が零れた。恥ずかしいのに、身体の奥から震えが止まらない。

 下着を外された瞬間、ひやりとした空気に震える身体を、彼の体温がすぐに覆ってくれる。

 そのままベッドへ押し倒されると、私は彼の背中へと指を這わせた。触れて、爪を立てて、何かを刻むように――私の中の熱は止まらなかった。

「静香……お前が、他の男の手に触れられて……ずっと、焼けるようだった」

 言葉の合間に、首筋や胸元へキスが降り注ぐ。その一つ一つに、私の身体が跳ねるように応えてしまう。

「……全部、俺のものにする。誰もお前に寄り付けないように、お前の奥の奥まで、満たしてやる」

 礼司さんの身体が重なる。深く、深く私を覆うその熱が、息苦しいほど愛おしい。

 何度も唇を重ねられ、何度も肌を確かめるように全身を舌が這う。

「は……ぁん……っ、ん……っ、あ……!」
 
 でもそれは、ただ甘いだけの愛撫じゃない。彼の中にあるどうしようもない衝動が、すべての動きに滲んでいた。

「もっと……触れさせてくれ。静香、お前を全部……」

 切羽詰まったような吐息混じりの声。それに応えるように、私は彼の背中に腕を回した。

「……礼司さん……来て、ください……」

 自分の声とは思えないほど熱く、震えていた。けれどそれが、偽りのない本音だった。

「んぅ……っ」

 礼司さんが深く入り込んできた瞬間、思わず声が漏れた。
 
「あぁ……っ、礼司さん……っ」

 衝動と欲望が重なって、腰が自然と動いてしまう。彼の動きに合わせて、私もまた貪るように彼を受け入れていく。

「はぁ……もっと……来て……壊してほしい……私を、礼司さんで、いっぱいにして……」

 言葉の端から、私自身の熱が溢れて止まらなかった。
 求める度に、応えるように深く貫かれる。

「ひ……ぁ……んんっ、あ……っ! あ……ぁん! れいじ……さ……っ」

 身体の奥が震え、ふたりの熱が絡み合い、息もできないほど快感が押し寄せる。

「静香……っ、そんな顔……されたら、たまらない……」
「礼司さん……っ、好き……大好き……っ」

 何も纏わぬ肌が重なり合い、彼の一部が私の中へと深く、強く入り込んでくる。
 息が詰まりそうなほど、身体の奥まで貫かれるたびに、私の中の空白が埋まっていく。

「ああ……っ……んっ」

 繰り返される律動。強くて、激しくて、それでいて決して乱暴ではない。
 むしろ、私の全部を『手放さずに刻みつける』ような、そんな熱量。

「静香……お前が他の男に怯えた顔をしてたのが、頭から離れない……」
「ごめんなさ……い」
「これからも俺の前でだけ、その蕩けた顔をしろ」

 吐き出すように紡がれる言葉とともに、奥を突かれる。何も考えられない。ただ、礼司さんだけが私の全てだった。

「はぁ……はぁ……お願い……、礼司さん、もっと……」
 
 欲しがっているのは私のほうだった。彼に抱かれることでしか、あの嫌な記憶は消えなかった。

 何度も貫かれ、何度もキスされて、何度も名前を呼ばれて――私は、壊れるように彼の腕の中で果てていった。

 けれど、終わりではなかった。

 汗ばんだ額を押しつけ合いながら、礼司さんは私を離さない。

「……まだ、足りない」
 
 掠れた声が耳元で甘く絡む。

「もっと奥まで、お前の中に……俺を、刻ませてくれ」

 ベッドが軋む音が、静かな夜に何度も何度も響く。愛して、求めて、壊したくなるほど抱き締め合う。

 こんなにも強く交わって、こんなにも重なって――それでもまだ、『一つになりたい』と願ってしまう。

 愛されている。
 欲しがられている。
 
 この腕の中だけが、私の居場所なんだと――心も身体も、確かにそう感じていた。

 幾度目かに果てる寸前、唇を何度も重ねながら、私達は強く、激しく、全ての愛を注ぎ合った。
 
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