4 / 34
4. 心残りを無くすために
しおりを挟む「私はローランを天国へ送りたいのです。その方法を図書館で探していましたが、なかなか見つけられなくて。ミカエル様は何かご存知ではないですか?」
ミカエルは暫く考える素振りをしていたが、やがて答えた。
「大体の幽霊は『心残り』があると天国へは行けないと言う。ローラン殿も何か心残りがあるのでは?」
「ローラン、どうなの?」
問われたローランはここで初めて口を開いた。
「確かに、心残りはございます」
「それなら、それを解消したら貴方は天国へ行けるんじゃないの? 良かった!」
「しかし、今のままでは私はずっと天国へ行くことはないでしょう」
複雑な表情に微笑みを浮かべてローランは答える。
「なぜなの? 貴方の心残りは何?」
「私の心残りは、リュシエンヌお嬢様が幸せな花嫁になられることです。しかし今のままではとても幸せな花嫁になられることは難しいでしょう」
リュシエンヌは思わぬ返答に言葉を失った。
自分が幸せな花嫁にならねばローランは天国へ行くことはできない。
しかし、今のこの状況ではそれも難しいだろうと察したのだ。
「どうすればいいの……」
リュシエンヌはどうしたらこの優しい家令を救うことができるのかと頭を抱えた。
「それではまずは元凶であるパンザとの婚約破棄からしてはどうか」
「しかしミカエル様。マルク様との婚約は家同士の決め事であり、しかもマルク様は我が伯爵家の婿養子になられることをお望みですから、きっと私の一存では難しいのです」
「しかし彼はリュシエンヌ嬢の妹と不貞を働いているだろう。それを理由に婚約破棄をすれば良いのでは?」
それは至極もっともな言い分ではあったが、狡猾なマルクはポーレットとの不貞を認めようとはしないだろう。
今朝だってあれほど分かりやすくポーレットの部屋にいたくせに、『相談事に乗っていた』などと宣うのだ。
「マルク様はポーレットとの不貞を絶対に認めようとしません」
そう言い切ったリュシエンヌに、ミカエルは何かを察したようにため息をついた。
「成る程。それではやり方はどうであれ、リュシエンヌ嬢がパンザとの婚約破棄ができさえすればいいのだな。その後に貴女の望むような幸せな婚姻を結べばいい」
「まあ……そうなりますわね」
リュシエンヌはマルクとの婚約破棄など絶対に出来ないのだと思っていたが、もしかしたら何か良い方法があるのかとミカエルをじっと見つめた。
「それでは、私がリュシエンヌ嬢を好いてしまったから譲ってくれとパンザに話そう」
そう満面の笑みで言い切ったミカエルに、リュシエンヌは令嬢らしからぬ目を見開いて口をポカンと開けた間抜け顔を晒してしまったことは仕方あるまい。
「ミカエル様! それはとても良いお考えでございます! 是非! ぜひに宜しくお願いいたします!」
驚いて声を発することも出来ないリュシエンヌに代わって、ローランは珍しく声を大きく張り上げてミカエルに頭を下げた。
「それでは、これからはそのように振る舞うようにしよう。リュシエンヌ嬢は幽霊が見える貴重な仲間だからな。是非協力させてくれ」
こうして、リュシエンヌの頭が状況の急変についていかないままに騎士団長ミカエルと幽霊家令ローランは何故か意気投合したのであった。
50
あなたにおすすめの小説
婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです
『二流』と言われて婚約破棄されたので、ざまぁしてやります!
志熊みゅう
恋愛
「どうして君は何をやらせても『二流』なんだ!」
皇太子レイモン殿下に、公衆の面前で婚約破棄された侯爵令嬢ソフィ。皇妃の命で地味な装いに徹し、妃教育にすべてを捧げた五年間は、あっさり否定された。それでも、ソフィはくじけない。婚約破棄をきっかけに、学生生活を楽しむと決めた彼女は、一気にイメチェン、大好きだったヴァイオリンを再開し、成績も急上昇!気づけばファンクラブまでできて、学生たちの注目の的に。
そして、音楽を通して親しくなった隣国の留学生・ジョルジュの正体は、なんと……?
『二流』と蔑まれた令嬢が、“恋”と“努力”で見返す爽快逆転ストーリー!
好きにしろ、とおっしゃられたので好きにしました。
豆狸
恋愛
「この恥晒しめ! 俺はお前との婚約を破棄する! 理由はわかるな?」
「第一王子殿下、私と殿下の婚約は破棄出来ませんわ」
「確かに俺達の婚約は政略的なものだ。しかし俺は国王になる男だ。ほかの男と睦み合っているような女を妃には出来ぬ! そちらの有責なのだから侯爵家にも責任を取ってもらうぞ!」
【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜
白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。
舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。
王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。
「ヒナコのノートを汚したな!」
「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」
小説家になろう様でも投稿しています。
悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。
三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。
何度も断罪を回避しようとしたのに!
では、こんな国など出ていきます!
【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。
猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で――
私の願いは一瞬にして踏みにじられました。
母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、
婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。
「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」
まさか――あの優しい彼が?
そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。
子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。
でも、私には、味方など誰もいませんでした。
ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。
白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。
「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」
やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。
それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、
冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。
没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。
これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。
※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ
※わんこが繋ぐ恋物語です
※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる