16 / 34
16. 幽霊も認める人間性とは
「ミカエル団長、失礼します」
その時バルコニーのカーテンが開き、髪型が少し乱れたマルクが現れた。
「ポーレット嬢はしばらくこちらには来ないでしょう。自分がしっかりと追いやって参りました」
さも自分が追い払ったから褒めろと言わんばかりのマルクだったが、その後休憩室でよろしくやっていたことをこの場の全員が知っていたので、バルコニーの空気はひどく冷たかった。
それに、今とても大切な場面だったにも関わらずタイミング悪くやってきたこの屑に、リュシエンヌ以外の全員が殺意を向けたのは言うまでもない。
「え? え! ……あれ? うわー……ッ!」
――ドボーン……!!
ここ二階のバルコニーの手すりのあたりまで幽霊たちが協力して力づくでマルクを押し、そのまま下にある庭園の池に突き落としたのだ。
「あのような屑には頭を冷やすのにぴったりの場所だな」
「うわー。見てみて! あの屑、たくさんの魚に突っつかれているよ!」
「ふふっ……まだ水浴びには早い時期なのに大変ね」
「ここの使用人はえらく優秀ですな。あのように不測の事態にもテキパキと対応出来るとは……」
幽霊たちは下を覗きながら楽しそうに笑い、そしてバルコニーから下の庭園にある池の方へと飛んでいく。
びしょ濡れとなったマルクは訳が分からず呆然としているが、この邸宅の使用人たちはテキパキと救出して身体を布で拭き取っている。
その布を幽霊たちはそこら中に散らばしたり、マルクを再度押して池に落としたりと好き勝手にしていた。
「あいつら……」
額に手をやり脱力した様子のミカエルは、思い出したかのようにふとリュシエンヌの方を見た。
リュシエンヌはその青い瞳でミカエルの方を見つめたままで、石のように固まってしまっている。
「リュシエンヌ?」
「はっ……! 申し訳ありません! どこか別のところに意識を持っていかれたような気がして……。あれ? マルク様はどうなさったのですか?」
リュシエンヌはミカエルの告白により、立ったままで気絶していたらしい。
そんなリュシエンヌをミカエルは可愛らしいと、より愛しく思った。
「パンザは去った。幽霊たちもいないし、良ければ返事を聞かせてもらえないか?」
そう言ったミカエルは紫目を妖しく光らせてその顔に壮絶に美しい微笑みを浮かべたのだった。
「え……っと。ミカエル様はとても素敵なお方で、初めてお会いした時にローランのことや幽霊のことを話してくださってから、私はミカエル様のことを特別なお方なのだと尊敬しておりました。だって、幽霊たちも皆ミカエル様のことを好いているのです。幽霊たちに嘘は通用しません。悪い方ならば全てバレてしまう。それでも、このネックレスを身に着けてからも色々な幽霊たちは皆ミカエル様のことを昔からとてもお優しい方だと……」
「私の話を幽霊たちから聞いたのか?」
「……申し訳ありません。どうしても、気になってしまって……。それでも皆言うのです。『ミカエルは努力家で、優しくて、そして強い』と。『幽霊が見えても怖がることなく向き合ってくれる』と」
リュシエンヌはこの水晶のネックレスをもらってからは常に身に着けるようにしていたから、ローラン以外の幽霊たちと話すことも多かった。
幽霊の見える人間はなかなかいないから、皆自分のことを知って欲しくてミカエルやリュシエンヌに近寄ってくるのだ。
リュシエンヌも最初は驚いたが、同じ光景をミカエルは幼い頃から見ていたのだと思えば怖くなかった。
それどころか、幽霊たちに向き合うことはなかなか大変なのだと知った。
「私もいつの間にかミカエル様に、恐れ多くも惹かれていたのです」
マルクのような不誠実な婚約者よりも、幽霊にさえ好かれるほどの人格者であるミカエルはとても魅力的だった。
あなたにおすすめの小説
異世界に逃げたシングルマザー経理は、定時退勤だけは譲れない
木風
恋愛
DV夫から一歳の娘を抱えて逃げた鈴木優子は、光に飲まれて異世界の王宮へ転移してしまう。
生きるために差し出した武器は簿記と経理経験――崩壊寸前の王宮会計を『複式簿記』で立て直すことに。
ただし譲れない条件はひとつ、「午後五時の定時退勤」。娘の迎えが最優先だからだ。
その姿勢に、なぜか若き国王ヴィクトルが毎日経理室へ通い始めて――仕事と子育ての先に、家族の形が芽吹いていく。
十年間虐げられたお針子令嬢、冷徹侯爵に狂おしいほど愛される。
er
恋愛
十年前に両親を亡くしたセレスティーナは、後見人の叔父に財産を奪われ、物置部屋で使用人同然の扱いを受けていた。義妹ミレイユのために毎日ドレスを縫わされる日々——でも彼女には『星霜の記憶』という、物の過去と未来を視る特別な力があった。隠されていた舞踏会の招待状を見つけて決死の潜入を果たすと、冷徹で美しいヴィルフォール侯爵と運命の再会! 義妹のドレスが破れて大恥、叔父も悪事を暴かれて追放されるはめに。失われた伝説の刺繍技術を復活させたセレスティーナは宮廷筆頭職人に抜擢され、「ずっと君を探していた」と侯爵に溺愛される——
断罪中、味方が多すぎて王子が孤立している件について
夏乃みのり
恋愛
バーンスタイン伯爵家の令嬢ラミリアは、魔力も剣の才能もない「ごく普通」の地味な女性。
ある日のパーティーで、婚約者であるジェラルド第二王子から「地味で無能で嫉妬深い」と罵られ、身に覚えのない罪で婚約破棄を突きつけられてしまう。
しかし、断罪劇は予想外の展開へ。
【完結】男装して会いに行ったら婚約破棄されていたので、近衛として地味に復讐したいと思います。
銀杏鹿
恋愛
次期皇后のアイリスは、婚約者である王に会うついでに驚かせようと、男に変装し近衛として近づく。
しかし、王が自分以外の者と結婚しようとしていると知り、怒りに震えた彼女は、男装を解かないまま、復讐しようと考える。
しかし、男装が完璧過ぎたのか、王の意中の相手やら、王弟殿下やら、その従者に目をつけられてしまい……
◆◆◆◆◆◆◆◆
作品の転載(スクショ含む)を禁止します。
無断の利用は商用、非営利目的を含め利用を禁止します。
作品の加工・再配布・二次創作を禁止します
問い合わせはプロフィールからTwitterのアカウントにDMをお願いします
◆◆◆◆◆◆◆◆
お妃候補を辞退したら、初恋の相手に溺愛されました
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のフランソアは、王太子殿下でもあるジェーンの為、お妃候補に名乗りを上げ、5年もの間、親元を離れ王宮で生活してきた。同じくお妃候補の令嬢からは嫌味を言われ、厳しい王妃教育にも耐えてきた。他のお妃候補と楽しく過ごすジェーンを見て、胸を痛める事も日常茶飯事だ。
それでもフランソアは
“僕が愛しているのはフランソアただ1人だ。だからどうか今は耐えてくれ”
というジェーンの言葉を糧に、必死に日々を過ごしていた。婚約者が正式に決まれば、ジェーン様は私だけを愛してくれる!そう信じて。
そんな中、急遽一夫多妻制にするとの発表があったのだ。
聞けばジェーンの強い希望で実現されたらしい。自分だけを愛してくれていると信じていたフランソアは、その言葉に絶望し、お妃候補を辞退する事を決意。
父親に連れられ、5年ぶりに戻った懐かしい我が家。そこで待っていたのは、初恋の相手でもある侯爵令息のデイズだった。
聞けば1年ほど前に、フランソアの家の養子になったとの事。戸惑うフランソアに対し、デイズは…
【完結】悪役令嬢だったみたいなので婚約から回避してみた
22時完結
恋愛
春風に彩られた王国で、名門貴族ロゼリア家の娘ナタリアは、ある日見た悪夢によって人生が一変する。夢の中、彼女は「悪役令嬢」として婚約を破棄され、王国から追放される未来を目撃する。それを避けるため、彼女は最愛の王太子アレクサンダーから距離を置き、自らを守ろうとするが、彼の深い愛と執着が彼女の運命を変えていく。
すみっこ婚約破棄同盟〜王子様による婚約破棄のすみっこで〜
まりー
恋愛
ある夜会で王子とその側近達の婚約破棄が行われた。腕に恋人をぶら下げて。所謂、王道断罪劇である。
でもこのお話の主役は麗しのヒロインでも、キラキラ王子でも、学園一の秀才や騎士団期待のホープでもない。これは王道のすみっこで行われた、弱小貴族と商人の子息たちの婚約破棄のお話である。
_ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _
「もう俺ら、恋なんてしない!」と言う小学生の息子の話を参考に書きました。登場人物の男子たちの頭は小学生レベルだと思って読んでください。