15 / 31
12
しおりを挟む
「はい、ファジーネーブル、3番テーブルね」
「あ、5番テーブルにつまみよろしく!」
「すみませ~ん! 注文お願いします~!」
「はい! すぐ行きます!」
週末の飲み屋を舐めてました。
むちゃくちゃ忙しくて、テンパってしまう。今日は平日のはずなのに、見えるテーブルは既に埋まっていて盛況だった。
エリカさんのお店【liberty】は、4人掛けのテーブルが3つ、2人掛けが2つ、カウンターが5席用意されている。店内は決して広々とは言えないけれど、お酒を飲んで楽しむにはちょうどいいスペースだと思う。
カウンターの中ではショウさんと、料理が専門というダイキさんがカクテルを作ったり料理を作ったりしてとても忙しそうにしている。ちなみに、僕自身慣れない接客業にテンパっていた。でも、そんな僕を呆れるでもなく、ショウさんとダイキさんは「大丈夫だから。これ、2番テーブルに持って行って」と指示してくれる。自分が、あまり仕事を出来ていない自覚はあるので、言われるがままに店内を小走りで走り回った。
一旦、注文のピークが落ち着いてくると、さっきまで僕と同じく給仕に走り回っていたバイトのミナトさんは、常連客と思わしき人の席に座って、何やら楽しそうにおしゃべりをしていた。見れば、ショウさんやエリカさんもカウンター内で作業しながら、お客さんと楽しそうに会話をしていた。(ダイキさんは無言で頷くだけだったが)当然ながら、今日が初めての僕には、気軽にお話しできる相手はいない。時々、エリカさんやショウさんと離していたお客さんが僕に話を振ってくれて、2、3会話を交わしたらそれで終了だ。
だけど、僕が終始壁の時計を見てはソワソワしているのを見て、エリカさんが笑って教えてくれた。
「貴ちゃんはそろそろ来ると思うわよ~」
「す、すみません。ありがとうございます」
僕が誰を待っているのかバレバレだったらしい。それもそうだろう。東郷さんから話を聞いた時には僕なんかの恋人役を東郷さんがやってくれるなんてどうすればいいのかと思ったけれど、慣れない場所だからこそ東郷さんの存在はとても有りがたいのだと気付いた。
「ん? 侑吾くんの彼氏が来るの?」
「そうなのよ~! 元々アタシの友人なんだけど、侑吾ちゃんを紹介してくれたのも彼なのよね
」
常連さんの問い掛けに、エリカさんがニコニコと笑顔で答える。いや、うん……その説明は間違ってないんだけど、何か違う気もする。
「へ~そうだったんだ。侑吾くんは可愛いから、狙いたいってヤツは多いだろうし、彼氏がいるなら安心だ」
そう言って僕に微笑んでくれるお客さんに「ありがとうございます」とお礼を言う。
エリカさんのお店は、ゲイバーというくくりに入るらしいけれど、お客さんはダンディなおじさまから、若い男女まで様々だ。同じなのは、皆楽しそうにおしゃべりしたり、お酒を飲んだりしていく事くらいだ。
ゲイバー自体、初めてだけれど、こんなに楽しい空間だなんて思わなかったな。
そう零したら、エリカさんに、
「でも、正直色んなお店があるから、侑吾ちゃんは1人で行っちゃダメよ!?」
と注意されてしまった。
うん、多分1人でゲイバーに入る勇気はないので、大丈夫だと思います……。
そんな感じで、楽しく、そして忙しく仕事をしていると、入り口のドアがカランと音をたてて開く。
「あら、貴ちゃん~! いらっしゃい、侑吾ちゃんが待ってたわよ♪」
「すまないな。ちょっと打ち合わせが伸びちまって。待たせたな、侑吾」
(――――!!!!!)
エリカさんの出迎えの声に片手を挙げて挨拶した東郷さんは、カウンターに座りながら、さらりと僕の頬に右手を伸ばして、すり、と優しく撫でた。
その瞬間、僕は顔を真っ赤にして、まるで金魚のように口をパクパクしてパニック状態になってしまった。いや、だって、すり、って、すり、って――! やっぱり東郷さんの恋人役は僕には向いていない気がするんですけど!?
真っ赤になってあわあわしている僕を、エリカさんやショウさん、ダイキさんまでが妙に優しげな眼差しで見守っている。それが更にいたたまれなくて、誤魔化すようにおしぼりを東郷さんに差し出した。
「な、ななな何を飲まれますか!?」
「そんなに緊張しなくても大丈夫よ~侑吾ちゃん」
「ていうか、侑吾くんすげぇウブなんスね。貴彦さん、大変だ~」
「うるせぇぞ、ショウ。まぁ、侑吾が可愛いのは否定しないけどな」
(もうやめて――――!!!! 僕のライフはもうゼロです!!!!)
その後、東郷さんは僕の仕事終わりまで店にいてくれたのだが、緊張と羞恥でボロボロだった僕は、見事にバイト初日をミス連発で終えてしまったのだった……。
「あ、5番テーブルにつまみよろしく!」
「すみませ~ん! 注文お願いします~!」
「はい! すぐ行きます!」
週末の飲み屋を舐めてました。
むちゃくちゃ忙しくて、テンパってしまう。今日は平日のはずなのに、見えるテーブルは既に埋まっていて盛況だった。
エリカさんのお店【liberty】は、4人掛けのテーブルが3つ、2人掛けが2つ、カウンターが5席用意されている。店内は決して広々とは言えないけれど、お酒を飲んで楽しむにはちょうどいいスペースだと思う。
カウンターの中ではショウさんと、料理が専門というダイキさんがカクテルを作ったり料理を作ったりしてとても忙しそうにしている。ちなみに、僕自身慣れない接客業にテンパっていた。でも、そんな僕を呆れるでもなく、ショウさんとダイキさんは「大丈夫だから。これ、2番テーブルに持って行って」と指示してくれる。自分が、あまり仕事を出来ていない自覚はあるので、言われるがままに店内を小走りで走り回った。
一旦、注文のピークが落ち着いてくると、さっきまで僕と同じく給仕に走り回っていたバイトのミナトさんは、常連客と思わしき人の席に座って、何やら楽しそうにおしゃべりをしていた。見れば、ショウさんやエリカさんもカウンター内で作業しながら、お客さんと楽しそうに会話をしていた。(ダイキさんは無言で頷くだけだったが)当然ながら、今日が初めての僕には、気軽にお話しできる相手はいない。時々、エリカさんやショウさんと離していたお客さんが僕に話を振ってくれて、2、3会話を交わしたらそれで終了だ。
だけど、僕が終始壁の時計を見てはソワソワしているのを見て、エリカさんが笑って教えてくれた。
「貴ちゃんはそろそろ来ると思うわよ~」
「す、すみません。ありがとうございます」
僕が誰を待っているのかバレバレだったらしい。それもそうだろう。東郷さんから話を聞いた時には僕なんかの恋人役を東郷さんがやってくれるなんてどうすればいいのかと思ったけれど、慣れない場所だからこそ東郷さんの存在はとても有りがたいのだと気付いた。
「ん? 侑吾くんの彼氏が来るの?」
「そうなのよ~! 元々アタシの友人なんだけど、侑吾ちゃんを紹介してくれたのも彼なのよね
」
常連さんの問い掛けに、エリカさんがニコニコと笑顔で答える。いや、うん……その説明は間違ってないんだけど、何か違う気もする。
「へ~そうだったんだ。侑吾くんは可愛いから、狙いたいってヤツは多いだろうし、彼氏がいるなら安心だ」
そう言って僕に微笑んでくれるお客さんに「ありがとうございます」とお礼を言う。
エリカさんのお店は、ゲイバーというくくりに入るらしいけれど、お客さんはダンディなおじさまから、若い男女まで様々だ。同じなのは、皆楽しそうにおしゃべりしたり、お酒を飲んだりしていく事くらいだ。
ゲイバー自体、初めてだけれど、こんなに楽しい空間だなんて思わなかったな。
そう零したら、エリカさんに、
「でも、正直色んなお店があるから、侑吾ちゃんは1人で行っちゃダメよ!?」
と注意されてしまった。
うん、多分1人でゲイバーに入る勇気はないので、大丈夫だと思います……。
そんな感じで、楽しく、そして忙しく仕事をしていると、入り口のドアがカランと音をたてて開く。
「あら、貴ちゃん~! いらっしゃい、侑吾ちゃんが待ってたわよ♪」
「すまないな。ちょっと打ち合わせが伸びちまって。待たせたな、侑吾」
(――――!!!!!)
エリカさんの出迎えの声に片手を挙げて挨拶した東郷さんは、カウンターに座りながら、さらりと僕の頬に右手を伸ばして、すり、と優しく撫でた。
その瞬間、僕は顔を真っ赤にして、まるで金魚のように口をパクパクしてパニック状態になってしまった。いや、だって、すり、って、すり、って――! やっぱり東郷さんの恋人役は僕には向いていない気がするんですけど!?
真っ赤になってあわあわしている僕を、エリカさんやショウさん、ダイキさんまでが妙に優しげな眼差しで見守っている。それが更にいたたまれなくて、誤魔化すようにおしぼりを東郷さんに差し出した。
「な、ななな何を飲まれますか!?」
「そんなに緊張しなくても大丈夫よ~侑吾ちゃん」
「ていうか、侑吾くんすげぇウブなんスね。貴彦さん、大変だ~」
「うるせぇぞ、ショウ。まぁ、侑吾が可愛いのは否定しないけどな」
(もうやめて――――!!!! 僕のライフはもうゼロです!!!!)
その後、東郷さんは僕の仕事終わりまで店にいてくれたのだが、緊張と羞恥でボロボロだった僕は、見事にバイト初日をミス連発で終えてしまったのだった……。
0
あなたにおすすめの小説
今日もBL営業カフェで働いています!?
卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ
※ 不定期更新です。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
僕の恋人は、超イケメン!!
刃
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる