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34:酒癖
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拗ねた表情で俺から視線を逸らしたユキの横顔をじっと見つめながら、俺はユキに言われた言葉をちゃんと理解する為に頭の中で反復させた。
『お前はいつも高野ばかり見てる』と、ユキはそう俺に言った。
もしかしてユキは常々、俺が高野を見ていた事を不満に思っていたのか?
それはつまり……
ユキは俺に高野じゃなく自分をもっと見て欲しいと、そう思ってると解釈していいんだよな?
今ままでやましい気持ちで高野を見ていたことなどは一切なく、ただ変わった奴だなという気持ちしか感じていなかった。
だからユキにそんなふうに思われていたのはかなり意外だった。
そしてこんなふうにユキに誤解されて拗ねられるのは、正直なところ満更ではない。
ユキ以外の誰かにこんな態度をとられたら、『マジでウザイ』とうんざりしただろう。
だけど他の誰でもない、ユキにされるなら大歓迎だ。
だって俺の注意が自分以外に向いて欲しくない、もっと自分に目を向け欲しいとユキが思ってくれている。
それはユキが本当に俺の事を好きでいてくれてるって証明だから。
例え今はその『好き』が友達としての独占欲からだとしても、それでも俺はすげぇ嬉しい。
しかもこの見事なツンデレぶり。
可愛いったらありゃしない。
俺にはツンデレに萌えるという性癖は無かったはずなのに、新たに見つけたユキのあまりの可愛さに興奮で胸が高鳴る。
本当にユキといると、知らなかった自分を発見して驚くばかりだ。
目の前のユキはいつもの様に唇を尖らせて不満そうな表情を作ってはいるが、俺が無言でじっとユキの横顔を見つめてる事には気づいているようで、時より心許なげに瞳を揺らして俺に視線を向けてはすぐに強がって視線を逸らした。
その素直になれないユキの様子に、俺は完全に心を撃ち抜かれてしまった。
『俺はお前の事なんて全然気にしてない』と強がった態度をとってはみたものの、『酷い態度だったかも……どうしよう……怒らせちゃったのかな?』と不安そうに瞳を揺らす。
その相反する感情を隠さず、ありのままに体現するユキの無垢さに、もうこれ以上なんてないと思っていたのに俺は魅了されまくった。
「ユキ……お前、いい加減にしろよ……この上、ツンデレとか……お前は俺をどうするつもりだ」
湧き上がる興奮を抑えられずに、そんな事を心の中だけで呟いたつもりだったが、知らぬ間に声に出してしまっていたようで、いきなりそんな事を言われたユキは俺の方をゆっくり向いて泣きそうに顔を歪めた。
「ごめっ……!俺!……えっ!!ン!ンッツ!!」
怒られた小さな子供が泣き出すときのようにくしゃくしゃに表情を崩したユキを目にした瞬間、辛うじてかかっていた俺の理性という心のブレーキは完全にぶっ壊れてしまった。
俺は反射的にユキの背もたれに回していた右手でユキの後頭部を鷲掴みにし、自分の方へと強引に引き寄せて言葉を発する為に大きく開いていたユキの口にキスをしていた。
それこそ、ぶちゅっと音がするほどに強く自分の唇をユキの唇に押し付けて、開いていた口に舌を差し込み、奥に隠れていたユキの舌を探し出して絡めて吸い上げた。
「ンンッ!ンン~~!ンン!!」
予想外の俺の行為に驚いたユキが覆い被さる俺の背中を両手で必死に叩いたが、俺はそんな事などお構いなしにユキの唇を堪能した。
なんて甘い唇だ。
可愛い。
愛しい。
好きだ。
大好きだ!
ユキへの気持ちが溢れて止まらなくなって、俺はその甘い身体をもっと自分の方へと引き寄せる為にすかさず左手をユキの腰に回した。
「こ、コウ君……!」と焦って俺の名を呼ぶ、ヒロ先輩の声が聞こえた。
「いやぁぁ~いいねぇぇ~~え!!速水君!いいよぉ!ほらぁ~もっと大胆にぃぃ~!」と囃し立てる小日向教授のいやらしい声も聞こえていた。
それでも俺は止まれなかった。
もっとくっつきたい。もっと触りたい。もっとユキを感じたい。
俺のもんだ!
絶対に誰にも渡さない!!
もっとユキを独占したい!
もっともっとと欲求が強くなり、ユキの腰に回した左手でTシャツをまくり上げて素肌に直接触れようとしたその時、部屋の扉が開いたと同時に「ちょぉお!!!ちょっと何ぃぃ!!いやいや、ちょっと待てよぉぉお!!」という悲鳴が部屋中に響いた。
その声の主であるトシは最後の理性なのか、両手いっぱいに持っていたであろう出来立ての料理がのった皿をテーブルの上に慎重に置いたが、すぐに「てめぇ!!」と叫び、俺に飛びかかってきた。
ユキの口に吸い付く俺のおでこにパチンと大きな音が出るくらい勢いよく右手を当て、「ユキちゃんから離れろぉぉ!!」と絶叫しながら右手に全体重をかけて俺をユキから引き剥がし、素早くユキを背後から抱きしめて俺から距離を取ろうとした。
「てめぇ!俺のユキちゃんなのに!!何しちゃってんだよぉ!!俺のぉ!!俺のユキちゃんなんだぞぉぉ!!」
そんな不快な言葉をまき散らしながら、トシがユキを俺から庇う様にぎゅっと抱き締めやがった。
心のブレーキが効かない今の俺の前で、そんなものを見せられたら黙ってなどいられない。
「はぁ……?お前こそ何言っちゃってんの?ユキはお前のじゃねぇ……!もうとっくに全部、俺のもんなんだよ……!!てめぇこそさっさとユキを俺に返せ……!!」
俺から急に引き剥がされたユキはすぐには状況を上手く把握できずに暫くトシにされるがままになっていたが、俺が低くそう叫んだら、はっとした表情をした。
「お、俺はッツ!お前のもんでもトシのもんでもねぇぞっ!!ってか、速水、てめぇ何すんだよぉッツ!急にあんなキスなんてしやがって!確かにこの前、キスしたくなったらしてもいいって約束はしたけど、こっそりって言っただろ!!あ!もしかして速水、お前も高野みたいに酔っぱらったのかぁ!!お前のドリンクはただのウーロン茶だったはずなのに、なんでお前まで酔っ払ってんだよぉ!!」
背後から抱きしめるトシを押し退けたユキが、俺の前に置かれている茶色い液体が半分ぐらい入ったグラスへと手を伸ばし、その中身を確認するために口をつけてゴクリと一口飲み込んだ。
そのグラスは確かに俺の目の前にあったのだが、残量がおかしかった。
確か残量はほんの僅かだったはずだし、俺が飲んでいたのは絶対にただのウーロン茶だった。
「……あ!!やっぱりじゃんか!!トシ、お前、速水のドリンク間違えてんぞ!!これ、アルコール入ってんじゃんかぁ!!」
俺のグラスを持った怒り口調のユキが、振り返って背後にいるトシにそのグラスを突き出した。
「えっ!!嘘ウソ!そんな訳……!!」と焦りながらトシはそのグラスをユキから受け取り、すぐに一口飲んで「うぁあ!本当だ!!何でぇ!!?」と泣きそうに顔を歪めた。
「トシ!お前のせいで速水が酔っ払ってこんな事になっちゃったんだぞ!!俺があんなキスされたのもお前のせいだぁぁあ!ちゃんとしたウーロン茶を今すぐに持ってこい!!」
ユキの怒号でトシが「ハイっ!!!」と勢いよく飛び跳ねた。
「ごめん!!ユキちゃん……!!すぐに持ってくるからぁあ~そんなに怒らないでよぉぉ~!!うぁあ!!痛っ!えっ!?何!!?」
悲壮感漂う声を上げてトシがそのグラスを持ったまま部屋から出て行こうとしたが、今まで黙ってヒロ先輩の股間を弄っていたであろう高野がいきなりトシの腕を強く掴んだ。
「……あん、かけぇ……」
「!!!」
妙に色っぽい声で、しかも官能的な表情をした高野がトシに小さくそう囁くから、振り返ったトシの顔が一気に真っ赤になった。
「あ、あああ!そうだったね!ごめん、野村君!あんかけそばを追加で頼んでいいかな?あとは……」
唖然とした顔をしていたヒロ先輩だったがすぐに気を取り直していつもの穏やかな表情を作って高野の分の注文をしてから、他に追加注文がないか確認するように周りを見渡した。
俺も豊国も「大丈夫です」の意味を込めて首を横に振ったが、ヒロ先輩の隣に座る小日向教授は「あ、じゃあ!」とにこやかにテーブルの上に身を乗り出した。
「僕はウーロンハイをもう一杯貰おうかなぁ~~あぁ野村君とやら、その速水君のウーロンハイの残りは勿体無いから僕が飲ませて貰うよぉぉ~」
小日向教授はそう言いながら空になった自分のグラスをトシへと差し出し、トシが持っているグラスを頂戴というように手のひらをひらひらとさせた。
「え!先生、マジっすか!破棄しないで済んでありがたいっす!じゃあ次の分はサービスします!」
トシはほっとした顔をして「俺も口付けちゃったけど本当にいいんですかぁ!?」と言いながら教授の元へ向かい、持っていたグラスをテーブルに置いて空のグラスを受け取った。
「うん、ぼかぁそういうのは全然気にしないからぁ~。あ、サービスはいいよ。いつもお安くして貰ってるんだから、これぐらいは気にしないでよぉぉ~」
テーブルに置かれたグラスを手にした小日向教授がそんな事を言いながら意味深な視線を俺に送ってきたので、俺が目線をそちらに向けたら、教授はにやりといやらしく笑った。
「ね?速水くぅ~ん……」
……こいつ!!ドリンクのグラスがどれも一緒な事をいいことに、さっきのゴタゴタに紛れて、絶対に俺のグラスと自分のグラスを交換しやがった。
一体、どういう意図でこんなことをしたかは分からないが、きっとろくなことじゃないだろう。
でも、そのおかげで少し頭が冷えたのは事実だ。
あのままだったら、俺は突っ走って勝算のない酷い告白をユキにしていたかもしれない。
俺は嫌味な笑みを浮かべる小日向教授を尻目に、目の前で頬を膨らませ、唇を尖らせて怒っているユキをトシから少しでも引き離すために、ユキの肩にそっと左手を置いて自分の方へと引き寄せた。
「えっと、じゃあ追加はウーロンハイとあんかけそばですね。それと……そこのお前のウーロン茶もすぐに持ってきてやる!酔っ払ったせいなのかもしれないけど、それでもユキちゃんにあんな事をしたことは許せない……!」
そこまで言ってトシはちらりとユキを見た。
ユキはやっぱり酷く怒った顔でトシをじっと睨んでいた。
「で、でも!今回は俺のミスだったから特別に、ほんと~~うに特別に、今回だけは許してやるっつ!うぁあ!痛っ!今度はなによ!!」
かなり不本意そうなトシがそう言い捨てて空のグラスを持って部屋から出て行こうとしたが、今度は高野がトシの腰をがしっと掴んで引き止めた。
「あんかけぇ……うずらの卵がいっぱいじゃなきゃ……」
妖艶に囁きながら、高野がトシの腰から尻へと両手を滑らせた。
「君の、この小さな卵に悪戯をしちゃうよぉ……?」
「ちょっと!!蓮君ッツ!!ストップ!」
高野が両手をトシの股間部に回すその前に、ヒロ先輩がまた背後から抱きついて高野の動きを止めた。
「ごめん、蓮君!俺が悪かった!そうだね!うずらの卵いっぱいで注文しなきゃダメだったね!野村君!!悪いんだけど、さっきのあんかけそばはうずらの卵を多めでお願い出来るかな!?」
「え~~あの子の卵にも触りたいのにぃ~~」と暴れる高野をなんとかは羽交い締めにして止めながら、ヒロ先輩ができるだけ穏やかな表情でトシに視線を向けた。
トシはヒロ先輩に動きを封じられても、なおも自分の股間へと両手を伸ばす高野に怯えながら「りょ、うかいっす……親父に頼んでくるっす……!」と逃げるように部屋から出ていった。
そんなトシを見届けてから、俺は目の前で未だに頬を膨らませているユキへと視線を戻した。
ユキの唇は今もなお俺の唾液でしっとりと濡れており、幼い子供のような表情とは裏腹にとてもセクシーだと感じた。
俺の視線に気づいたのか、ユキが膨らませていた頬を萎ませながら俺の方を向いた。
「ユキ、俺は……」
「今回だけだぞっつ!トシのせいでお前が酔っ払て、あんな事をみんなの前でした事は許してやる!」
俺が何か言う前に、ユキが俺の言葉に被せる様にそう叫んだ。
「この前に俺んちでビールをちょっと飲んだ時も、お前はすぐに酔っ払って俺に甘えてきたもんな。そんなに酒に弱いなんて気づかなかったぞ。それに……お前も酔っ払ったら、その……ちょっとえっちになっちゃうんだな……」
ユキは俺の耳元に近寄って小声で話すと一旦黙り込み、目を伏せてからすぐにまた顔を上げて俺を見上げた。
「今度は、その……酒は俺んちだけで飲もう……なぁ?」
恥ずかしそうにユキが俺の耳元でそんな事をそっと囁くから、少しづつ正常に働きつつあった俺の理性のブレーキが再びギシギシと音を立てて壊れそうになった。
自然とユキの肩に乗せていた右手に力が入りそうになったその時、俺の背後から「ふう、凄いですねぇ……」という感嘆のため息が聞こえた。
俺は豊国のその一言で我に返り、再び冷静になれた。
「お酒の力って本当に凄いんですねぇ……俺も来年に飲めるようになった時には気を付けないとですね。蓮先輩も速水先輩も、酔っ払った素の自分を受け入れてくれる人が側にいて羨ましいです!」
今までの状況を見てそんな事が言える豊国に苦笑しつつも、俺は振り返って豊国に「そうだな。俺はいい友達に恵まれたよ」と微笑んでやった。
『お前はいつも高野ばかり見てる』と、ユキはそう俺に言った。
もしかしてユキは常々、俺が高野を見ていた事を不満に思っていたのか?
それはつまり……
ユキは俺に高野じゃなく自分をもっと見て欲しいと、そう思ってると解釈していいんだよな?
今ままでやましい気持ちで高野を見ていたことなどは一切なく、ただ変わった奴だなという気持ちしか感じていなかった。
だからユキにそんなふうに思われていたのはかなり意外だった。
そしてこんなふうにユキに誤解されて拗ねられるのは、正直なところ満更ではない。
ユキ以外の誰かにこんな態度をとられたら、『マジでウザイ』とうんざりしただろう。
だけど他の誰でもない、ユキにされるなら大歓迎だ。
だって俺の注意が自分以外に向いて欲しくない、もっと自分に目を向け欲しいとユキが思ってくれている。
それはユキが本当に俺の事を好きでいてくれてるって証明だから。
例え今はその『好き』が友達としての独占欲からだとしても、それでも俺はすげぇ嬉しい。
しかもこの見事なツンデレぶり。
可愛いったらありゃしない。
俺にはツンデレに萌えるという性癖は無かったはずなのに、新たに見つけたユキのあまりの可愛さに興奮で胸が高鳴る。
本当にユキといると、知らなかった自分を発見して驚くばかりだ。
目の前のユキはいつもの様に唇を尖らせて不満そうな表情を作ってはいるが、俺が無言でじっとユキの横顔を見つめてる事には気づいているようで、時より心許なげに瞳を揺らして俺に視線を向けてはすぐに強がって視線を逸らした。
その素直になれないユキの様子に、俺は完全に心を撃ち抜かれてしまった。
『俺はお前の事なんて全然気にしてない』と強がった態度をとってはみたものの、『酷い態度だったかも……どうしよう……怒らせちゃったのかな?』と不安そうに瞳を揺らす。
その相反する感情を隠さず、ありのままに体現するユキの無垢さに、もうこれ以上なんてないと思っていたのに俺は魅了されまくった。
「ユキ……お前、いい加減にしろよ……この上、ツンデレとか……お前は俺をどうするつもりだ」
湧き上がる興奮を抑えられずに、そんな事を心の中だけで呟いたつもりだったが、知らぬ間に声に出してしまっていたようで、いきなりそんな事を言われたユキは俺の方をゆっくり向いて泣きそうに顔を歪めた。
「ごめっ……!俺!……えっ!!ン!ンッツ!!」
怒られた小さな子供が泣き出すときのようにくしゃくしゃに表情を崩したユキを目にした瞬間、辛うじてかかっていた俺の理性という心のブレーキは完全にぶっ壊れてしまった。
俺は反射的にユキの背もたれに回していた右手でユキの後頭部を鷲掴みにし、自分の方へと強引に引き寄せて言葉を発する為に大きく開いていたユキの口にキスをしていた。
それこそ、ぶちゅっと音がするほどに強く自分の唇をユキの唇に押し付けて、開いていた口に舌を差し込み、奥に隠れていたユキの舌を探し出して絡めて吸い上げた。
「ンンッ!ンン~~!ンン!!」
予想外の俺の行為に驚いたユキが覆い被さる俺の背中を両手で必死に叩いたが、俺はそんな事などお構いなしにユキの唇を堪能した。
なんて甘い唇だ。
可愛い。
愛しい。
好きだ。
大好きだ!
ユキへの気持ちが溢れて止まらなくなって、俺はその甘い身体をもっと自分の方へと引き寄せる為にすかさず左手をユキの腰に回した。
「こ、コウ君……!」と焦って俺の名を呼ぶ、ヒロ先輩の声が聞こえた。
「いやぁぁ~いいねぇぇ~~え!!速水君!いいよぉ!ほらぁ~もっと大胆にぃぃ~!」と囃し立てる小日向教授のいやらしい声も聞こえていた。
それでも俺は止まれなかった。
もっとくっつきたい。もっと触りたい。もっとユキを感じたい。
俺のもんだ!
絶対に誰にも渡さない!!
もっとユキを独占したい!
もっともっとと欲求が強くなり、ユキの腰に回した左手でTシャツをまくり上げて素肌に直接触れようとしたその時、部屋の扉が開いたと同時に「ちょぉお!!!ちょっと何ぃぃ!!いやいや、ちょっと待てよぉぉお!!」という悲鳴が部屋中に響いた。
その声の主であるトシは最後の理性なのか、両手いっぱいに持っていたであろう出来立ての料理がのった皿をテーブルの上に慎重に置いたが、すぐに「てめぇ!!」と叫び、俺に飛びかかってきた。
ユキの口に吸い付く俺のおでこにパチンと大きな音が出るくらい勢いよく右手を当て、「ユキちゃんから離れろぉぉ!!」と絶叫しながら右手に全体重をかけて俺をユキから引き剥がし、素早くユキを背後から抱きしめて俺から距離を取ろうとした。
「てめぇ!俺のユキちゃんなのに!!何しちゃってんだよぉ!!俺のぉ!!俺のユキちゃんなんだぞぉぉ!!」
そんな不快な言葉をまき散らしながら、トシがユキを俺から庇う様にぎゅっと抱き締めやがった。
心のブレーキが効かない今の俺の前で、そんなものを見せられたら黙ってなどいられない。
「はぁ……?お前こそ何言っちゃってんの?ユキはお前のじゃねぇ……!もうとっくに全部、俺のもんなんだよ……!!てめぇこそさっさとユキを俺に返せ……!!」
俺から急に引き剥がされたユキはすぐには状況を上手く把握できずに暫くトシにされるがままになっていたが、俺が低くそう叫んだら、はっとした表情をした。
「お、俺はッツ!お前のもんでもトシのもんでもねぇぞっ!!ってか、速水、てめぇ何すんだよぉッツ!急にあんなキスなんてしやがって!確かにこの前、キスしたくなったらしてもいいって約束はしたけど、こっそりって言っただろ!!あ!もしかして速水、お前も高野みたいに酔っぱらったのかぁ!!お前のドリンクはただのウーロン茶だったはずなのに、なんでお前まで酔っ払ってんだよぉ!!」
背後から抱きしめるトシを押し退けたユキが、俺の前に置かれている茶色い液体が半分ぐらい入ったグラスへと手を伸ばし、その中身を確認するために口をつけてゴクリと一口飲み込んだ。
そのグラスは確かに俺の目の前にあったのだが、残量がおかしかった。
確か残量はほんの僅かだったはずだし、俺が飲んでいたのは絶対にただのウーロン茶だった。
「……あ!!やっぱりじゃんか!!トシ、お前、速水のドリンク間違えてんぞ!!これ、アルコール入ってんじゃんかぁ!!」
俺のグラスを持った怒り口調のユキが、振り返って背後にいるトシにそのグラスを突き出した。
「えっ!!嘘ウソ!そんな訳……!!」と焦りながらトシはそのグラスをユキから受け取り、すぐに一口飲んで「うぁあ!本当だ!!何でぇ!!?」と泣きそうに顔を歪めた。
「トシ!お前のせいで速水が酔っ払ってこんな事になっちゃったんだぞ!!俺があんなキスされたのもお前のせいだぁぁあ!ちゃんとしたウーロン茶を今すぐに持ってこい!!」
ユキの怒号でトシが「ハイっ!!!」と勢いよく飛び跳ねた。
「ごめん!!ユキちゃん……!!すぐに持ってくるからぁあ~そんなに怒らないでよぉぉ~!!うぁあ!!痛っ!えっ!?何!!?」
悲壮感漂う声を上げてトシがそのグラスを持ったまま部屋から出て行こうとしたが、今まで黙ってヒロ先輩の股間を弄っていたであろう高野がいきなりトシの腕を強く掴んだ。
「……あん、かけぇ……」
「!!!」
妙に色っぽい声で、しかも官能的な表情をした高野がトシに小さくそう囁くから、振り返ったトシの顔が一気に真っ赤になった。
「あ、あああ!そうだったね!ごめん、野村君!あんかけそばを追加で頼んでいいかな?あとは……」
唖然とした顔をしていたヒロ先輩だったがすぐに気を取り直していつもの穏やかな表情を作って高野の分の注文をしてから、他に追加注文がないか確認するように周りを見渡した。
俺も豊国も「大丈夫です」の意味を込めて首を横に振ったが、ヒロ先輩の隣に座る小日向教授は「あ、じゃあ!」とにこやかにテーブルの上に身を乗り出した。
「僕はウーロンハイをもう一杯貰おうかなぁ~~あぁ野村君とやら、その速水君のウーロンハイの残りは勿体無いから僕が飲ませて貰うよぉぉ~」
小日向教授はそう言いながら空になった自分のグラスをトシへと差し出し、トシが持っているグラスを頂戴というように手のひらをひらひらとさせた。
「え!先生、マジっすか!破棄しないで済んでありがたいっす!じゃあ次の分はサービスします!」
トシはほっとした顔をして「俺も口付けちゃったけど本当にいいんですかぁ!?」と言いながら教授の元へ向かい、持っていたグラスをテーブルに置いて空のグラスを受け取った。
「うん、ぼかぁそういうのは全然気にしないからぁ~。あ、サービスはいいよ。いつもお安くして貰ってるんだから、これぐらいは気にしないでよぉぉ~」
テーブルに置かれたグラスを手にした小日向教授がそんな事を言いながら意味深な視線を俺に送ってきたので、俺が目線をそちらに向けたら、教授はにやりといやらしく笑った。
「ね?速水くぅ~ん……」
……こいつ!!ドリンクのグラスがどれも一緒な事をいいことに、さっきのゴタゴタに紛れて、絶対に俺のグラスと自分のグラスを交換しやがった。
一体、どういう意図でこんなことをしたかは分からないが、きっとろくなことじゃないだろう。
でも、そのおかげで少し頭が冷えたのは事実だ。
あのままだったら、俺は突っ走って勝算のない酷い告白をユキにしていたかもしれない。
俺は嫌味な笑みを浮かべる小日向教授を尻目に、目の前で頬を膨らませ、唇を尖らせて怒っているユキをトシから少しでも引き離すために、ユキの肩にそっと左手を置いて自分の方へと引き寄せた。
「えっと、じゃあ追加はウーロンハイとあんかけそばですね。それと……そこのお前のウーロン茶もすぐに持ってきてやる!酔っ払ったせいなのかもしれないけど、それでもユキちゃんにあんな事をしたことは許せない……!」
そこまで言ってトシはちらりとユキを見た。
ユキはやっぱり酷く怒った顔でトシをじっと睨んでいた。
「で、でも!今回は俺のミスだったから特別に、ほんと~~うに特別に、今回だけは許してやるっつ!うぁあ!痛っ!今度はなによ!!」
かなり不本意そうなトシがそう言い捨てて空のグラスを持って部屋から出て行こうとしたが、今度は高野がトシの腰をがしっと掴んで引き止めた。
「あんかけぇ……うずらの卵がいっぱいじゃなきゃ……」
妖艶に囁きながら、高野がトシの腰から尻へと両手を滑らせた。
「君の、この小さな卵に悪戯をしちゃうよぉ……?」
「ちょっと!!蓮君ッツ!!ストップ!」
高野が両手をトシの股間部に回すその前に、ヒロ先輩がまた背後から抱きついて高野の動きを止めた。
「ごめん、蓮君!俺が悪かった!そうだね!うずらの卵いっぱいで注文しなきゃダメだったね!野村君!!悪いんだけど、さっきのあんかけそばはうずらの卵を多めでお願い出来るかな!?」
「え~~あの子の卵にも触りたいのにぃ~~」と暴れる高野をなんとかは羽交い締めにして止めながら、ヒロ先輩ができるだけ穏やかな表情でトシに視線を向けた。
トシはヒロ先輩に動きを封じられても、なおも自分の股間へと両手を伸ばす高野に怯えながら「りょ、うかいっす……親父に頼んでくるっす……!」と逃げるように部屋から出ていった。
そんなトシを見届けてから、俺は目の前で未だに頬を膨らませているユキへと視線を戻した。
ユキの唇は今もなお俺の唾液でしっとりと濡れており、幼い子供のような表情とは裏腹にとてもセクシーだと感じた。
俺の視線に気づいたのか、ユキが膨らませていた頬を萎ませながら俺の方を向いた。
「ユキ、俺は……」
「今回だけだぞっつ!トシのせいでお前が酔っ払て、あんな事をみんなの前でした事は許してやる!」
俺が何か言う前に、ユキが俺の言葉に被せる様にそう叫んだ。
「この前に俺んちでビールをちょっと飲んだ時も、お前はすぐに酔っ払って俺に甘えてきたもんな。そんなに酒に弱いなんて気づかなかったぞ。それに……お前も酔っ払ったら、その……ちょっとえっちになっちゃうんだな……」
ユキは俺の耳元に近寄って小声で話すと一旦黙り込み、目を伏せてからすぐにまた顔を上げて俺を見上げた。
「今度は、その……酒は俺んちだけで飲もう……なぁ?」
恥ずかしそうにユキが俺の耳元でそんな事をそっと囁くから、少しづつ正常に働きつつあった俺の理性のブレーキが再びギシギシと音を立てて壊れそうになった。
自然とユキの肩に乗せていた右手に力が入りそうになったその時、俺の背後から「ふう、凄いですねぇ……」という感嘆のため息が聞こえた。
俺は豊国のその一言で我に返り、再び冷静になれた。
「お酒の力って本当に凄いんですねぇ……俺も来年に飲めるようになった時には気を付けないとですね。蓮先輩も速水先輩も、酔っ払った素の自分を受け入れてくれる人が側にいて羨ましいです!」
今までの状況を見てそんな事が言える豊国に苦笑しつつも、俺は振り返って豊国に「そうだな。俺はいい友達に恵まれたよ」と微笑んでやった。
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