群青の夏、僕らは明日を願った。

青葉はな

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【第19章 君の世界は】

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自分の世界に、希望なんてなかった。



「これ、邪魔なんだよ」


「あっ」


机の端っこの方で宿題をしていたら、お母さんがそれを奪い取って乱暴に床へ投げ捨てた。


小学4年生用漢字ドリルと書かれた本の表紙が折れ曲がる。


「これも、これも邪魔。宿題ならそこでしてな」


鉛筆も消しゴムも、何の価値もないごみのような扱いで床へ放り出された。俺が机で勉強してると邪魔だから床でやれってことなんだ。


「ごめんなさい」


謝って言われた通り散らばってるごみや洗濯物を退かして床にぺたんと座り宿題の続きをする。


床じゃ勉強しにくいけど、我がまま言うともっとお母さんを怒らせるから言わない。


お母さんは冷蔵庫から缶ビールを数本取り出し椅子に座ってテレビのスイッチを入れる。


テレビからは芸能人の明るくてのん気な笑い声が聞こえてくるけど、全く笑えなかった。


お母さんのお酒を飲む量がいつもより多いことが、怖かった。


お酒を飲んだ時ほど俺に八つ当たりしてきたり暴力を振るう回数が増えてしまったりするから。


お願いだから、そうはなりませんようにと祈りつつ黙々と宿題に手をつける。


ごく、ごく、ごく。僅かに、しかし絶えず聞こえるお酒を飲む音に一々びくびく怯える自分が嫌だ。


けど、体に染み込んだ殴ったり蹴ったりされる時の痛みが嫌でも頭を過ぎる。


1本、2本、ついは3本目のお酒の缶が空になった。


「……ねえ」


怠慢な動きで視線を寄こすお母さんの目に、俺は自分の子供として映っていないんだろう。


「ビール、冷蔵庫から持ってきて」


「は、はい」


本当はお酒飲み過ぎだから止めようと言いたかったけど、もし俺がそう言ったら殴られるかも。


冷蔵庫から出した缶を恐る恐るお母さんに差し出した。


ありがとうの一言もなく俺の手の中から缶を乱雑にひったくってプシュッとプルタブを開ける。


ねえお母さん、止めようよ。学校で勉強した、お酒は飲み過ぎるとダメなんだって。


毎日たくさん飲んでたら危ない。言いたいことはどんどん湧き出てくるのに全然言葉になって口から出てこない。


そうやってもたもたしていると『いつまでそこに突っ立ってんだよ』鋭い声がとんできた。


「ごめんなさい。……でも」


「何?酒飲むなとでも言いたいわけ?子供が親に口答えするんじゃないわよ」


「ごめんなさい」


「お前は黙って言うこと聞いてればいいのよ」


「……はい」


頷いて部屋の端にまた戻る。窓の方を見れば外は真っ暗闇で何も見えず、時計は夜の9時を指していて。


ああ、お腹空いた。学校から家に帰ってきて夕飯も食べてないし、当然といえば当然なんだけど。お腹空いたなあ、でも勝手に冷蔵庫にある食べ物とると怒られるしな。


なんて考えているとドアノブをガチャリ、捻る音がした。


――――お父さんが、仕事から帰ってきたんだ。


「あっ。お帰りなさ~い」


「夕飯の弁当、買ってきた。お前いつものやつでいいだろ?」


ガサリと揺らすコンビニ袋に入ってるお弁当は、2つ。俺の分はない。


「うん。ありがとー」


甘ったるい声でお父さんに近寄ってコンビニの袋を受け取り、机に並べた。


いいな、おいしそう。ゴクリと生唾を飲み込む。俺のことはお構いなしにお弁当を食べる両親が羨ましくて……ずるい。


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