136 / 155
【第19章 君の世界は】
しおりを挟む自分の世界に、希望なんてなかった。
「これ、邪魔なんだよ」
「あっ」
机の端っこの方で宿題をしていたら、お母さんがそれを奪い取って乱暴に床へ投げ捨てた。
小学4年生用漢字ドリルと書かれた本の表紙が折れ曲がる。
「これも、これも邪魔。宿題ならそこでしてな」
鉛筆も消しゴムも、何の価値もないごみのような扱いで床へ放り出された。俺が机で勉強してると邪魔だから床でやれってことなんだ。
「ごめんなさい」
謝って言われた通り散らばってるごみや洗濯物を退かして床にぺたんと座り宿題の続きをする。
床じゃ勉強しにくいけど、我がまま言うともっとお母さんを怒らせるから言わない。
お母さんは冷蔵庫から缶ビールを数本取り出し椅子に座ってテレビのスイッチを入れる。
テレビからは芸能人の明るくてのん気な笑い声が聞こえてくるけど、全く笑えなかった。
お母さんのお酒を飲む量がいつもより多いことが、怖かった。
お酒を飲んだ時ほど俺に八つ当たりしてきたり暴力を振るう回数が増えてしまったりするから。
お願いだから、そうはなりませんようにと祈りつつ黙々と宿題に手をつける。
ごく、ごく、ごく。僅かに、しかし絶えず聞こえるお酒を飲む音に一々びくびく怯える自分が嫌だ。
けど、体に染み込んだ殴ったり蹴ったりされる時の痛みが嫌でも頭を過ぎる。
1本、2本、ついは3本目のお酒の缶が空になった。
「……ねえ」
怠慢な動きで視線を寄こすお母さんの目に、俺は自分の子供として映っていないんだろう。
「ビール、冷蔵庫から持ってきて」
「は、はい」
本当はお酒飲み過ぎだから止めようと言いたかったけど、もし俺がそう言ったら殴られるかも。
冷蔵庫から出した缶を恐る恐るお母さんに差し出した。
ありがとうの一言もなく俺の手の中から缶を乱雑にひったくってプシュッとプルタブを開ける。
ねえお母さん、止めようよ。学校で勉強した、お酒は飲み過ぎるとダメなんだって。
毎日たくさん飲んでたら危ない。言いたいことはどんどん湧き出てくるのに全然言葉になって口から出てこない。
そうやってもたもたしていると『いつまでそこに突っ立ってんだよ』鋭い声がとんできた。
「ごめんなさい。……でも」
「何?酒飲むなとでも言いたいわけ?子供が親に口答えするんじゃないわよ」
「ごめんなさい」
「お前は黙って言うこと聞いてればいいのよ」
「……はい」
頷いて部屋の端にまた戻る。窓の方を見れば外は真っ暗闇で何も見えず、時計は夜の9時を指していて。
ああ、お腹空いた。学校から家に帰ってきて夕飯も食べてないし、当然といえば当然なんだけど。お腹空いたなあ、でも勝手に冷蔵庫にある食べ物とると怒られるしな。
なんて考えているとドアノブをガチャリ、捻る音がした。
――――お父さんが、仕事から帰ってきたんだ。
「あっ。お帰りなさ~い」
「夕飯の弁当、買ってきた。お前いつものやつでいいだろ?」
ガサリと揺らすコンビニ袋に入ってるお弁当は、2つ。俺の分はない。
「うん。ありがとー」
甘ったるい声でお父さんに近寄ってコンビニの袋を受け取り、机に並べた。
いいな、おいしそう。ゴクリと生唾を飲み込む。俺のことはお構いなしにお弁当を食べる両親が羨ましくて……ずるい。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
🥕おしどり夫婦として12年間の結婚生活を過ごしてきたが一波乱あり、妻は夫を誰かに譲りたくなるのだった。
設楽理沙
ライト文芸
2026.1.4 73話見直した際、瑛士の台詞《本音/懺悔》を加筆しました。😇
☘ 累計ポイント/ 200万pt 超えました。ありがとうございます。
―― 備忘録 ――
第8回ライト文芸大賞では大賞2位ではじまり2位で終了。 最高 57,392 pt
〃 24h/pt-1位ではじまり2位で終了。 最高 89,034 pt
◇ ◇ ◇ ◇
紳士的でいつだって私や私の両親にやさしくしてくれる
素敵な旦那さま・・だと思ってきたのに。
隠された夫の一面を知った日から、眞奈の苦悩が
始まる。
苦しくて、悲しくてもののすごく惨めで・・
消えてしまいたいと思う眞奈は小さな子供のように
大きな声で泣いた。
泣きながらも、よろけながらも、気がつけば
大地をしっかりと踏みしめていた。
そう、立ち止まってなんていられない。
☆-★-☆-★+☆-★-☆-★+☆-★-☆-★
2025.4.19☑~
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。
「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…
なお、スピンオフもございます。
12年目の恋物語
真矢すみれ
恋愛
生まれつき心臓の悪い少女陽菜(はるな)と、12年間同じクラス、隣の家に住む幼なじみの男の子叶太(かなた)は学校公認カップルと呼ばれるほどに仲が良く、同じ時間を過ごしていた。
だけど、陽菜はある日、叶太が自分の身体に責任を感じて、ずっと一緒にいてくれるのだと知り、叶太から離れることを決意をする。
すれ違う想い。陽菜を好きな先輩の出現。二人を見守り、何とか想いが通じるようにと奔走する友人たち。
2人が結ばれるまでの物語。
第一部「12年目の恋物語」完結
第二部「13年目のやさしい願い」完結
第三部「14年目の永遠の誓い」←順次公開中
※ベリーズカフェと小説家になろうにも公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる