群青の夏、僕らは明日を願った。

青葉はな

文字の大きさ
15 / 155

【第3章 夕暮れを君と】

しおりを挟む





「皆さん、今日は差し入れ持ってきました」

「おお、気が利くじゃねえかよ」

「ジャジャン!」

今回は差し入れを持参してスタジオに来た。持ってきた袋からタッパーを取り出して、テーブルの上に置く。

練習終わりの今、小腹が空いてちょうどいいはず。

「……何だ、この食いもん」

「明日歌ちゃん、これタルト?」

興味津々でタッパーの中を覗き込む皐月と星渚さんが、疑問を口にする。

やはり、男子はお菓子の名前に疎いのか。

「キッシュです」

「キッシュって、どこかで聞いたことあるな」

藍さんが思い出すように目線を斜め上に向け、記憶の欠片を探る。

「キッシュっていうのは、フランス料理です。パイ生地の中にチーズや卵のソースを流し入れて、お好みで野菜やベーコンも加えた後、オーブンで焼くんですよ」

私の得意料理の内の1つだ。

説明しても、皐月や碧音君はまだ腑に落ちない様子で不思議がっていて。

「俺、甘いの無理」

「大丈夫、甘くないよ。甘い物苦手な碧音君でも食べられるように作ってきたんだから」

「何で知ってんだよ」

あら急に声が刺々しくなっちゃって、今更驚くことでもないのに。

「数週間も経てば、好みくらい分かるからね」

「特に碧音の、でしょ?」

「分かってますね藍さん!」

休憩中に碧音君が食べるスナックは全て甘くないやつだったし、星渚さんがチョコを食べていた時『それどこがうまいの』と、目を細めていた。

「つーか、まじでお前が作ったのかよ?」

「私ですけど」

「買ったやつを『私が手作りしました』って言ってんじゃねえだろうな?」

「違いますよ手作りです!失礼の極みだなおい」

怪訝な瞳で私とキッシュを交互に見比べている皐月を、一発殴りたくなった。

あれ、デジャヴ?

「だってさ、お前にこういうの似合わねえだろ」

「よく言われます」

友達からも、散々驚かれたからね。普段の行いのガサツさから、女子力を必要とする料理と私が結び付かないらしい。

とても心外である。趣味は?と聞かれたら瞬時に『料理です』って答えるから!

「よく見れば、手作り感あるよねぇ」

星渚さんがキッシュを一切れ手に取り、観察。

「明日歌ちゃん、俺もひとつもらっていい?」

「どうぞ、食べてください」

藍さんが一口食べる姿を、皆で見つめる。

「……っ、これ」

大きく目を見開き言葉を区切るから、ちょっと心配になってしまう。

味は不味くない、はずだけど。

「やっぱ不味かったか?砂糖と塩入れ間違えててすっげぇ甘いパターンか?!」

「皐月、それはベタ過ぎ」

2人共言いたい放題だな。しかも碧音君心なしか嬉しそうなのは何故。

食べなくて済むとか考えてる絶対。

「逆。本当美味しいよ、店で出されても違和感ない」

「やった、嬉しいです」

藍さんの誉め言葉に顔がにやける。

「店でってのは言いすぎじゃね?」

次いで皐月が半信半疑な様子で大口を開けガブリ、キッシュにかぶりつく。どうだ?!

「…………う、うめえ」

「でしょう?」

「明日歌のくせに」

「意味分からないです素直に認めてください」

皐月がまた一口、二口と頬張る様子を見て、星渚さんも食べて美味しい大丈夫な物と判断してくれたらしく、皆が食べるまで手に持っていたキッシュをパクリ。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

🥕おしどり夫婦として12年間の結婚生活を過ごしてきたが一波乱あり、妻は夫を誰かに譲りたくなるのだった。

設楽理沙
ライト文芸
2026.1.4 73話見直した際、瑛士の台詞《本音/懺悔》を加筆しました。😇 ☘ 累計ポイント/ 200万pt 超えました。ありがとうございます。 ―― 備忘録 ――    第8回ライト文芸大賞では大賞2位ではじまり2位で終了。  最高 57,392 pt      〃     24h/pt-1位ではじまり2位で終了。  最高 89,034 pt                    ◇ ◇ ◇ ◇ 紳士的でいつだって私や私の両親にやさしくしてくれる 素敵な旦那さま・・だと思ってきたのに。 隠された夫の一面を知った日から、眞奈の苦悩が 始まる。 苦しくて、悲しくてもののすごく惨めで・・ 消えてしまいたいと思う眞奈は小さな子供のように 大きな声で泣いた。 泣きながらも、よろけながらも、気がつけば 大地をしっかりと踏みしめていた。 そう、立ち止まってなんていられない。 ☆-★-☆-★+☆-★-☆-★+☆-★-☆-★ 2025.4.19☑~

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく… なお、スピンオフもございます。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...