群青の夏、僕らは明日を願った。

青葉はな

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32.

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「てか、何で菜流と星渚さんは碧音君を刹那って呼ぶの?」

地味に気になっていたこの話題。

「ああ、それね。初めて星渚が刹那と会った時、『刹那です』って自己紹介されたんだって。刹那って名前っぽいじゃん?だから勘違いして刹那が名前だと思い込んで、ずっとそう呼んでたの」

「うんうん」

「それで、私も名字だと気づかずに呼んでたんだ」

昔の思い出を記憶の引き出しからそっと取り出し、優しい表情で語った菜流。

「確かに勘違いしちゃうよね」

「今更呼び方変えるのも面倒臭いし、刹那でいいや、って」

「面倒臭かったんだ」

星渚さんも、同じ理由な気がしてくる。藍さんと弟も、いつかこのくらい仲良くなってくれたらなあ、と頭の隅で考えた。

「ってことで。星渚に会えたし、私帰るわ」

「え、帰っちゃうの?」

「私が練習見ると星渚が集中できないの、知ってるでしょ?本当に声が聞きたかっただけ。充電完了!」

ぴょん、弾みをつけて立ち上がり伸びをする。

菜流とももっと一緒に話していたかったけど、そう言うなら仕方ない。

「じゃあねー、明日歌」

「また学校でね!」

「刹那と仲良くなれますように、って祈ってるからさ」

「うん。ありがと」

玄関のドアを開けた途端にもわっとした湿度の高い空気に包まれ『太陽は引っ込んでろ』と悪態づく菜流を見送り、私は夕飯の支度に取りかかるのだった。



――――――――


―――……


「あれ。碧音君、皐月は?」

「さあ」

夕飯の用意が出来たからさっき地下室に声をかけに行ったのに、まだ皐月がリビングに来ない。

片付けしてるのかな。

「へーぇ。今度はドリアね」

冷えた麦茶の入ったグラスを傾け、一気に飲み干す星渚さん。CMに出演してそうだ。そして帰り支度をしている藍さんに声をかける。

「藍さん、これ良かったら持ち帰ってください」

持参したタッパーに多めに詰め込んだドリアを手渡す。

「いいの?」

「ありがとう。明日歌ちゃん」

「いえいえ」

「……明日歌ちゃんにありがとうって言うの、何回目だろうね」

「て、照れます藍さん!ほら、早く行ってください」

妙に照れ臭くなり、顔を背けながら『急いでくださいね』とぐいぐい背中を押した。

玄関で靴を履き出ていく藍さんを見送った後、そのままリビングには戻らず地下室へ皐月を呼びに行く。

タン、タン、タン。階段を下りて、練習室の重たいドアを開けた。

「皐月、ご飯できましたよ」

「おー……」

床に胡座をかいて座り、慣れた手つきでベースの手入れに勤しんでいる皐月。

私が喋った内容を聞いてなくて、適当に頷いたことが容易に分かる生返事。分かりやすいよね。

何本ものコードや楽器を避けつつ、皐月に近づいた。

「皐月のベース、結構古いんですね」

手入れはちゃんといき届いているけど、所々古い傷や色が掠れている部分がある。

「これな、貰ったやつなんだよ」

壊れ物を扱うかのように優しくベースについた傷を指でなぞる皐月。

「すっげー、大切な人から貰った」

珍しく頬を緩めて笑う。髪の隙間から覗くピアスがキラキラ、皐月に合わせて笑っているように輝く。

「大雑把な皐月がそんなに丁寧に扱うんだから、よっぽどその人のこと好きなんですね」

「大雑把じゃねぇし」

「皐月以外皆同意見ですよ」

私も碧音君もまあまあ雑だけど、皐月はそれ以上だ。

「そうだ!1曲弾いてみてほしいです」

「はあー?」

「ね、いいじゃないですか。サビだけでも」

パチン、両手を顔の前で合わせる。

皐月はぶすっとしていたけど、はあ、と溜め息を吐き『感謝しろ』と言って承諾してくれた。

でも何故か皐月が持ったのはベースではなく、ギター。


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