聖獣物語

リュカ・べリエ

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プロローグ

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  この日はいつもよりやけに森が騒がしかった。夜だというのに動物たちが住処から空を見上げ、一斉に遠吠えや鳴き声を上げその声に共鳴するように木々が揺れる。

――ハア、ハア

血だらけの兵士が息絶え絶えに森を走り抜ける。だが活動限界が来たのか足が縺れてしまいその場へ倒れる。

「ムート、僕はここまでのようだ。だから頼むこれを、この卵をあの人の下へ届けてくれ。いいな、殿下ではだめだあの人は自分の欲でしか物事が見えていない。大丈夫きっとあの人なら大切に育ててくれるよ、これは僕へも罰なんだ。きっとあの時殿下を止められて入ればこんな事にはならなかっただろうから、全部憶測だけど。」

兵士は契約獣のムートに卵の入った袋を首に下げ語りかける。ムートは心配そうに兵士の顔を舐めると姿勢を正しその場に座る。

「僕のことは心配するなあの人の下で待ってていてくれいずれ僕も帰るから。もう後ろは振り返るなよ、いけ!」


すべての力を足に集中させ風をきりムートは森を走り抜ける。一体どの位走り続けただろうか、自分がいた場所はもうとっくに見えない。

―アオーン

ムートはただ走る。主人に任された使命を背負って目的のあの場所へ。
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