つつ(憑憑)

九文里

文字の大きさ
6 / 34
遺産相続

桜子

しおりを挟む
「萌萌ちゃんが産まれたばかりの頃、桜子さんの御主人が亡くなったんじゃ。交通事故じゃた」

「桜子さんは、ショックで体調を崩し仕事が出来なくなってしもうた」

「それで、わしも夜中にトイレに行くのがはばかれて、遂に布団に失禁してしもうたんじゃ」

「そしたら、おしめをされるようになっての」

「さすがに情けなくなって、施設を出て家に戻りたくなったんじゃ」

「ところが家に帰っても誰も世話をしてくれる者は居ない。息子の嫁達は、到底あてにならんかった」

 話を聞いていた、美耶子達、息子の妻達は、ばつが悪そうに顔を見合せた。

「そこで、桜子さんに頼んだんじゃ。うちに来て、住み込みで介護をしてくれんかと」

「桜子さんは、体調に不安が有るからと最初は断ってきてたんだが、わしを人並みに扱ってくれるのは桜子さんしかいないと頼み込んで、やっと承諾してもらえた」

「それから10年間、この家で桜子さんと萌萌ちゃんと一緒に暮らすようになった」

「桜子さんは、毎日食事を作ってくれた。」

「風呂は体を洗う機械を買って桜子さん一人でも体が洗えるようにした。」

「トイレも改造したが、桜子さんがいたおかげで便器に座ってトイレができた」

「夜中でも、トイレに連れて行ってくれるし、体位も変えてくれる」

「もちろん散歩にも連れて行ってくれるし、何よりも萌萌ちゃんの成長が楽しみじゃった。三人で散歩できるようになってどれだけ癒されたか」

「わしは、自分の事を要らない物、ただのお荷物と思う事は、無くなった。生きてても良いと思えるようになった」

「桜子さんと萌萌ちゃんのおかげじゃ。」

「しかし、わしの面倒を見させたおかげで、桜子さんの就職や再婚を難しくしてしまった」

「だから、今後の生活も考えて桜子さんに遺産を分けたいのじゃ」

「お前達に頼む、桜子さんが遺産を受けとるのを邪魔しないでくれ」

 三人の息子とその妻達は、正座している小学生を黙って見つめていた。

 童士に降りている虎臣は、桜子さんの方を向いた。

「桜子さん、あんたは、何もしなくていいんじゃ。黙っていれば勝手に銀行の口座に金が入る様にしてある。後は、そこにおる山下弁護士がやってくれるからの」

 桜子は、振り返って正面に座る山下弁護士を見た。
 山下は、桜子さんを見て頷く。
 
 童士は、それっきり口を閉ざした。
 暫くすると目を開けて立ち上がった。

「虎臣さんのおっしゃりたいことは以上です。それでは、僕はこれで失礼します」
 そう言うと、静まり返る息子と妻達の見つめる前を、ドアに向かって歩き出した。

 しかし2・3歩、歩いたところで立ち止まり少し間を置いて桜子さんの方を振り向いた。

「いま、山村虎臣さんから伝えてくれと言われました、桜子さん長い間ありがとうと」

 その瞬間、桜子の目からは、涙が溢れた。

 童士は、部屋を出ながら考えていた。
(昼から学校に行っても皆勤賞は貰えるだろうか?)


 童士が勝淞寺に帰って来ると君子が迎えてくれた。

「お帰り、童ちゃん。どうだった?」

「大丈夫です。桜子さんは遺産を受けとると思います」

「そう、良かったわね。ご苦労様」

「それでは、僕は、今から学校にいきますので」
 そう言うと童士は、君子の横を通り抜けて鞄を取りに階段を上がって行った。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

今更……助けてくれと……言われても……

#Daki-Makura
ファンタジー
出奔した息子から手紙が届いた…… 今更……助けてくれと……言われても……

処理中です...