つつ(憑憑)

九文里

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童士と真理子

孑孒(げっきょう)

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 次の日の朝。いつも通り教室が生徒で賑わい、ホームルームが終わって授業が始まった。
 一時間目は、国語の時間。担任の青山先生が教室に入って来た。
 するといきなり黒板に大きな字を書いた。見た事がない字だ。

『孑孒 』

「先生、それは何て読むんですか?」

 前の席の女の子が尋ねた。

「これは、“げっきょう”と読みます。この左の『孑』は右の腕が無い事を表し、右の『孒 』は左の腕が無い事を表しています」
「つまり両手が無いもの、これは何を表すと思いますか?」
 青山先生は生徒達の方を向いて問いかけた。

 皆ざわついたが答える者はいない。

「この字の意味はボウフラです」
 青山先生は、黒板を指してニッコリと解説する。

 何でこんな見た事がない字を書くのだろう。童士は変に感じた。

 それではこれは、どうですか。と先生はまた黒板に字を書いた。

『虷』

「この字は“かん”と読みます。これもボウフラの意味です」
「他にも“罪を犯す”という意味もあります」
「それでは教科書の最後のページの口絵を見て下さい」
 先生は、国語の教科書を手に持って開いた。
 教室の中に、パラパラと教科書の紙をめくる音が響く。

「えっ、こんな挿し絵あったのか」
 童士はそれを見て驚いた。
 ページいっぱいに水溜まりの絵がかいてあり、水中に沢山の細い棒のようなものが浮かび水面に頭を出している。

「これはボウフラだ」
 童士が一見して呟いた。

 すると教室の何処からか女の子の悲鳴があがった。

「こ、このボウフラの頭、人間の顔をしてる」

 その声に続いて教室のあちらこちらで叫び声が聞こえた。

 童士も、えっと思って絵をよく見たら、水中に浮かんでいるボウフラは水面に頭を出しているが、それは顔をしかめた人間の頭だった。
 (なんだこの絵。何でこんな絵が教科書に載ってるんだろう)

 すると先生がみんなの騒ぎを押さえるように少し大きな声を出した。


「この絵の人達は、罪を犯しました。その罰として手足が失くなってボウフラになりました。そして、水の中で沈まないように必死で喘いでいるのです」

「あなた達も、罪を犯せばボウフラになり、水の中に漂うようになりますよ」
 先生の声のトーンが段々低くなってくる。

「例えば、友達の机の中にネズミの死体を入れたりしたら、ボウフラになってしまうでしょう」
 先生は低い声で言った。そして、顔は笑っていた。

 すると、童士の右後ろの方から大きな物音と声が聞こえた。
 前島広太の席からだったが、立ち上がっていたのは、その隣の席の男子だ。

「腕が縮んでいる」
 その子は狼狽えていた。
 
 みな彼を見た。彼の腕は短くなっていた。

「例えば親の財布から勝手にお金を抜き取ったり、お菓子を勝手に食べたのを弟の責にしたり、何か罪を犯した覚えのある人もボウフラになりますよ」
 先生がそう言うと教室の中のいろんな処から悲鳴があがる。
 何人かの生徒が慌てている。その腕は縮んでいた。

 教室の中はパニックとなり、何人か教室から出ようとドアに飛び付いたが、ドアはびくとも動かなかった。

「教室からは出られませんよ。結界の中ですから」
 と先生は嬉しそうに言った。
 

 
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