転生令嬢、淑女の嗜みよりも筋肉と剣を極めます 〜チートレベルアップで最強貴族令嬢になった件〜 [完]

水無月いい人(minazuki)

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第五章 「王国継承戦編」

第四十九話「忘却されし力」

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(……え?)

 私の脳が、現実を受け入れるのを拒絶した。  
 だって、そんなはずがない。  
 あの父が、王国最強の騎士が、誰よりも強いはずのこの人が……!?

 けれど、現実は私の願望を容赦なく打ち砕く。

「……ぐっ……!!」

 父は震える手で剣を支え、なんとか崩れ落ちるのを耐えている。  
 だが、その姿は"耐えているだけ"だった。  
 さっきまでの威厳も、気迫も、すべてが霧散し、ただ必死に身体を支えている"弱者"の姿。

「お、お父様……?」

 声が震える。  
 いや、震えないわけがない。  
 さっき父と戦ったばかりだ。でも、それ以上の存在が出てきたのだ。

「おいおい、どうした王様ァ?まさか、俺の"怒気"に耐えられなくなったのか?」

 ダイルが嗤う。  
 その笑みは、まるで自分の"勝ち"を確信したかのような、それでいて"期待"するような、そんな歪な感情が入り混じっているように見える。

「……っ、お前……何をした……!」

 父が歯を食いしばりながら問いかける。  
 その問いに、ダイルは愉快そうに肩をすくめた。

「言ったろ?俺の怒りに晒されれば、誰でも萎縮しちまう。王国最強?そんなの関係ねぇ。誰だろうが、俺の前では等しく泣き喚くガキに過ぎねぇ」

(……そんな、そんなのおかしい……!)

 父は、まだ戦ってもいない。  
 剣を交えてもいないのに、ただそこにいるだけでまるでもう敗者のような扱いを受けている。  
 そんなの、そんなのって……!!

「……くっ!」

 私は、剣を強く握りしめる。  
 私だって、本当は動きたくない。  
 足がすくんでいる。  
 でも……!

(ここで私が戦わなかったら、本当に終わる)

 父が敗れるなら、次は私がやられる。  
 ここで"逃げる"なんて、絶対に許されない。

「……お父様、下がっていてくださいませ」

「なっ……!?」

「今度は、私がやりますわ」

 私は、剣を振るう。  
 そして、ダイルに向かって駆け出した──!

 ──駆ける。

 恐怖が足を絡め取る。  
 理性が「やめろ」と警鐘を鳴らす。  
 それでも、私は止まらない。

(ここで止まったら、本当に終わる……!)

 《剣聖》の力を最大限に解放する。  
 視界が鮮明になる。  
 世界の動きがスローモーションに感じられるほど、神経が研ぎ澄まされる。

 ──なのに、ダイルの姿だけが何故か"通常通りに"見える。

(……なんで!?)

 速すぎる。  
 私の反応速度を上回っている?  
 いや、違う──"視認できない"のだ。  
 どれだけ集中しても、彼の動きだけが捉えられない。

「お嬢ちゃん、そんなスピードで俺に届くと本気で思ってんのか?」

 声がする。  
 目の前じゃない。横?いや、後ろ……?

「──遅い」

「っ……!?」

 次の瞬間、背後から強烈な衝撃を受ける。

「ぐっ……ぁ!!」

 意識が跳ねる。  
 地面を転がる。  
 肺から空気が押し出され、まともに息ができない。

(い、いつの間に後ろに……!?)

 確かに正面にいたはず。  
 なのに、彼は"いつの間にか"背後にいた。  
 見えなかった。  
 察知もできなかった。

「ちょっとは楽しめると思ったけど、拍子抜けだなぁ?」

 ダイルが、余裕の笑みを浮かべながらこちらを見下ろす。

「……ふざけないでくださいませ!!」

 私は咄嗟に跳び上がる。  
 残された力を振り絞り、剣を振るう。

 ──だが。

「それじゃあ、ダメなんだよなぁ……」

 軽く拳を振るっただけで、私の剣が"逸らされた"。

「なっ……!?」

 何が起きたのか分からない。  
 ただ、私の攻撃はまるで風に流されるように無効化された。

「確かに強い。でもよ、お嬢ちゃん。力ってのはよ、"使いこなせなきゃ"意味ねぇんだよ」

(……っ!)

 その言葉に、全身の血が冷たくなる。

(……こいつ……使い……こなす……)

その言葉に言い返す言葉が出てこない。

私は前世で剣なんて握った事がないし、スポーツが得意だったわけでもない。むしろその逆。教室の隅で本を読むようなそんな子供だった。大人になってからも結局変わらなかった。どこまでも私は一人だった。

でも、この世界では違う。

「じゃ、そろそろ終わりにしようか」

 ダイルの拳が、再び振るわれる。

 今度こそ、本当に──"殺される"。

 ──死ぬ。

 私の脳が、理性が、本能が、一斉に警鐘を鳴らした。  
 この一撃を受けたら、確実に終わる。  
 今までの攻撃とは違う。これは──"殺しにきた一撃"だ。  

(動け……!避けないと……!!)

 身体が悲鳴を上げる。  
 肺がまだ酸素を求めている。  
 足が思うように動かない。  
 でも、それでも──

「リリアナッ!!」

 父の叫びが聞こえた。  
 同時に、私の視界が真っ赤に染まる。

(……え?)

 次の瞬間、世界が"止まった"。

 いや、違う。  
 周囲の時間の流れが、まるで"ゆっくり"になったように感じる。  
 ダイルの拳が、ゆっくりと私へと迫っている。  
 私の目の前まで、ほんのわずかの距離。

 ──この拳が当たれば、終わる。

(……まだ終わらせない)

 私の身体が、勝手に動いた。  
 剣を振るう。  
 これまでのどの一撃よりも速く、鋭く。  
 そして──ダイルの拳よりも"先に"、私の刃が彼の腕を捉えた。

「……は?」

 ダイルの顔に、初めて"驚愕"の色が浮かぶ。

 そして、私の刃が彼の腕を"斬った"。

「ぐっ……!」

 ダイルが、後退する。  
 彼の腕から、一筋の血が流れた。

「……っ、てめぇ……!」

(……な、何が……?)

 私は、震える手で自分の剣を見る。  
 今まで一切攻撃が通らなかったこの男に、"初めて傷を負わせた"。  
 自分でも何が起こったのか分からない。  
 でも──

(今、私……何を)

 確かに、ダイルの拳が"遅く"なったように見えた。  
 いや、違う。"私の時間だけ"が、加速した……?

「……なぁ、お嬢ちゃん」

 ダイルが、険しい表情で私を見つめる。

「お前、今の……"狙って"やったのか?」

「……え?」

「違うなら……てめぇ、何者だ?」

 その問いに、私は答えられなかった。  
 ただ、手の中の剣を、強く握ることしかできなかった。

(……これは、一体……?)

 この異変が、何を意味するのかも分からないまま、私はただ次の瞬間に備えていた。

 ──戦いは、まだ終わらない。
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