転生令嬢、淑女の嗜みよりも筋肉と剣を極めます 〜チートレベルアップで最強貴族令嬢になった件〜 [完]

水無月いい人(minazuki)

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第五章 「王国継承戦編」

第六十一話「白旗の末に」

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 目の前にいるエルという青年は、微動だにしない。
 まるで、自分に攻撃が届かないと確信しているかのような、ただそこに"在る"だけ。

 けれど、それがどれほど異様なことか。
 どれほど異質なことか。

(……これどういう原理なの)

 普通、対峙していれば、何らかの動きはあるものだ。
 こちらが剣を構えれば、相手も身構える。
 こちらが動けば、相手も応じる。

 だが──彼は何もしない。

 まるで、すべての攻撃が無意味だと、最初から決まっているかのように。動じない。

「はああああああああっ!!」

 私は、その異様な光景を振り払うように剣を振るった。
 一撃、二撃、三撃。

 風を裂く音が響く。
 それでも、エルの姿は変わらない。

「……はぁ、はぁ……」

 息が上がる。
 汗が額を伝う。

 それでも、彼はただ静かに私を見ていた。

「無駄だ」

 その一言が、私の胸の奥に響く。

「俺に攻撃は当たらない」

(……どういうこと?)

 確かに、攻撃が届かない。
 剣が触れることすらない。

 でも、それは単に速さが足りないわけではない。
 力が足りないわけでもない。

 まるで、"見えない壁"が、彼の周囲を覆っているように、私の刃は空を切る。

(まるで、鉄壁ね……)

 違和感の正体を掴めないまま、私は剣を握り直した。

 しかし、私はここである事に気付いた。

「ですが、そちらは攻撃してこないんですのね」

「……」

「──あっ、なるほどなるほど。そういうことですか」

「何だ」

 エルの瞳が、僅かに鋭くなる。

「貴方、防御に特化しているだけで攻撃は出来ないんですのね」

「……ああ」

「……あら、素直ですわね」

「嘘を言ったとてしょうがないだろ。それに、それを知ったところで俺にその剣が当たらない事実は変わらない」

(……さて、どうかしら?)

 私はゆっくりと息を吐いた。

 エルの言葉を鵜呑みにする気はない。
 彼の防御がどれほど異常なものだとしても、攻略できないとは限らない。

(まだ、試していないことはある)

 私は一歩、下がる。

 ダインを倒した後から、私の身体が明らかに軽くなっている。
 まるで、何かの枷が外れたかのように。

 力の流れが違う。
 筋肉の動きが違う。
 空気の感覚すら、鋭くなっている。

 まるで、《剣聖》、《武神》の二つを常時発動しているような感覚。

(これは……いけるかもしれませんわね)

 私は一歩、前へ。

「さて、ではここから少し本気を出していきますわよ」

 エルの表情は変わらない。どうせ変わらないと。

 けれど、その目が、私の動きを注視している。

 私は──宣言する。

「──スキル《戦乙女の咆哮・極》発動」

 その瞬間だった。

「──っ」

 エルの表情が、初めて動いた。

 彼の瞳が、わずかに揺らぐ。
 その身体が、僅かに固まる。

 まるで、本能が危険を察知したかのように。

「……何?」

 低く呟かれたその声は、今までの無感情な響きとは違っていた。

 私は構わず剣を握り直す。
 確信した。

 このスキルなら、彼に届く。

「さぁ、行きますわよ──」

「──降参だ」

「……はい?」

 私は思わず動きを止めた。

「だから降参だ。参った」

「……まだ何もしてないのですけど?」

「”その何か”をしたら俺は死んでいる」

(……そこまで!?)

 スキルを発動した瞬間、彼は"負け"を悟ったということ?
 まだ攻撃すらしていないのに?

「……あら、そうでしたの」

 私は剣を下ろしながら、僅かに目を細める。

 エルは、長く息を吐いた。

「はぁ……お前、スキル持ちか。厄介だな」

(……スキル……スキル!?)

 彼の言葉に、私は反応する。

「貴方スキルをご存じで!?」

「……ああ」

「……」

 私は、じっと彼の顔を見つめた。

 スキルを知っている。
 この世界の人間には、本来知られるはずのない概念を、彼は当然のように知っている。

 つまり──。

「貴方、?」

「……まぁな」

 エルは、淡々と認めた。

 私は、ゆっくりと息を吐く。

「最初から疑っていた」

 エルは静かに言う。

「お前は他の者とは違う波長を持っていると感じていた。だが、今ので確信した」

 私は剣を下ろしながら、静かに言葉を紡ぐ。

「……そうでしたのね。貴方もスキル持ちだったのですね」

「フンッ」

 エルは腕を組み、軽く首を鳴らす。

「女、今すぐあいつを止めさせた方がいい。ミカもスキル持ちだ」

「何ですって!?」

「ミカのスキル名は──《破壊神》」

「……なんか物騒な名前ですわね」

「まぁ、名前の通りだと思っていい。効果は単純。一度当たれば破壊……つまり、

「なっ……」

 私は思わず息を呑んだ。

(もし私もあの子の拳に当たっていたら死んでいたってこと!!!??)

「お父様が危ない……!?」

「そういうことだ。ミカのスキルは俺でも耐えられない……多分」

「……」

(当たれば即死……そんなチート、あるわけ……あるわね)

 エルは私の反応を見て、静かに言う。

「はぁ……だから忠告したろ」

 私は唇を噛みしめる。

「……お父様は、それでも負けませんわ」

 エルが、じっと私を見る。

「女、自分の父親を殺してぇのか?」

「……」

「……いや、そもそも本当の意味では父親じゃないのか」

「いいえ、父親ですわ。本当の意味で、ね」

 私は静かに言い切った。

 エルの目が、わずかに細められる。

「なら何故止めない」

「お父様は私たちのような”転生者”ではありませんわ」

 私は胸に手を当てながら、静かに言葉を紡ぐ。

「……でもね、お父様は……彼はね、その生涯を剣に費やした愚か者なの」

 エルが眉をひそめる。

「……愚か者?」

「ええ」

 私は微笑む。

「色んなものを犠牲にして、後悔して、つい最近になってやっと改心したバカなのよ」

 エルは沈黙する。

「だから、負けないよ」

 私は微笑みながら、はっきりと告げる。



 エルはじっと私を見つめたまま、静かに息を吐いた。

 そして、低く呟く。

「……だといいがな」

 ──私の言葉は、どこまで父に届いたのだろうか。

 だが、それを確かめる暇はなかった。

 二人の戦闘は未だ続いているのだから。
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