転生令嬢、淑女の嗜みよりも筋肉と剣を極めます 〜チートレベルアップで最強貴族令嬢になった件〜 [完]

水無月いい人(minazuki)

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第六章「異端者と破綻者」

第七十六話 「呪われた血の証明」

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──王宮・最上階。

重厚な扉の奥、蝋燭の灯りが揺れる室内。

祭壇のように設えられた床の中心で、“それ”は待っていた。

その男は──椅子に腰を下ろしたまま、仮面越しにこちらを見つめている。

仮面は、白ではなかった。  
黒でも、灰でもない。  
それは、深紅。  
血の色の仮面。

──そして、静かに立ち上がる。

「……やはり来たか、“魔王の娘”よ」

低く、艶めいた声。

一瞬で空気が変わった。

仮面の男の背後で、空間が“歪んだ”。

まるで何か“異質なもの”が、この場所に染み込んでいるような──空間そのものが“壊れかけている”感覚。

「……誰?」

私の声は、震えていなかった。

けれど、その奥で心臓が強く打ち鳴っている。  
警告している。──この存在は、危険だと。

「仮面の王。いや、君の言葉で言うなら──“アレクシス”」

「……!」

空気が止まった。

「そうだ。愛しき令嬢よ。私が、“君の元婚約者”だ」

仮面の下で、声が笑っていた。  
だがそれは、愛情の笑みではない。  
まるで、地獄の底で“狂気”に浸った者が浮かべる、痛ましい微笑。

「……どうしてあなたは生きて」

「……死んだと思ったかい?ああ、確かに“あの夜”、私は一度、死んだ。  
剣に貫かれ、名を奪われ、地位も捨てられた──そのすべてを、君が壊した」

「っ……!」

「だが、君は知らなかったろう? 私が“罪塔”の深奥で拾われたことを」

「拾われた……?」

「“彼”にだよ。──私を“仮面の王”へと導いた、あの方に」

アレクシスはゆっくりと、仮面に指をかけた。

そして、外した。

──そこに現れた顔は。

かつての彼と、同じだった。

けれど、違っていた。

左目が──黒く爛れていた。

瞳孔が歪み、まるで呪いのような模様が刻まれている。  
そして、左手。確かに“失われた”はずのその腕が、漆黒の“異質な肢体”として再生されていた。

「これは“代償”だよリリアナ。神秘の血を継ぐ者が、目覚めるための……ね」

「あなたは……一体、何を望んでいるの?」

「君だよ、リリアナ。僕はずっと昔から君しかみていない」

アレクシスは一歩、前に出た。

「君を迎えに来た、リリアナ。  
君が“選ばれた存在”だと知った時、私は確信した。  
この国を導くのは、貴族でも王でもなく──君のような“魔王”なのだと」

「私は……っ、魔王なんかじゃ……!」

「なれるさ。君の中には、“神の血”が混ざっている。  
私が目覚めた夜、“彼”はこう言った。  
──“彼女は火種。その力に触れた者こそ、新たな王となる”──と」

「だから……“私を使って”、この国を乗っ取る気?」

「違う」

アレクシスは、再び仮面を手に取った。

「私は、君と世界を壊し、直すつもりだ」

(……壊し……直す?)

「君も気づいているだろう? この国の腐敗を。  
民を見下し、名誉にすがり、真実を隠す偽りの王家の姿を。  
だから私は、再び“正統”を生み出す。  
君と共に、真の意味で──“選ばれた王国”を、築こう」

「あなたの言う“選ばれた王国”に……民はいるの?」

その一言で、アレクシスの表情がわずかに歪んだ。

「……民など、“いずれ選ばれる”者にすぎない」

「……やっぱり、あなたは壊れてる」

「そうだとも」

仮面が、彼の顔に戻る。

その瞬間、部屋の温度が──落ちた。

アレクシスの瞳は、もう見えなかった。

仮面の奥で、静かに、狂気が笑っていた。

「さあ、“儀式”を始めよう。  
君が私の隣に立つのなら、“終焉”は救済になる。  
拒むのなら──“焚き火”の薪になってくれ」

──その声は、まるで“神託”だった。

(来る)

私もまた、剣に手をかける。

「……いいでしょう」

「リリアナ……?」

エルが背後から呼びかける声。  
ミレーヌの震える気配。

「あなたが何を語ろうと、私の意思は変わらない。この国を守ると決めたのは、“私”ですわ。私の運命は私のものですわ」

「ならば証明してみせろ」

アレクシスの仮面が、こちらを見た。

「君が“魔王”ではないことを──その剣でな」

──終焉の幕が、上がった。
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