Re:攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。【第一部新生版】

水無月いい人(minazuki)

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第一章 《第一部》ヒーラー 少年篇

第7話 「母が遺した杖と笑顔の誓い」

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レイラは剣を手に入れた。
これで準備は整ったはずだ。俺たちは村を出ようと決めた――はずだった。

「ダメ、まだアスフィのがない」

「え?何が無いって?」

「杖。ヒーラーなのに杖がない」

そういえばそうだった。
俺はヒーラーとして一番大事な装備ともいえる杖のことをすっかり忘れていた。

***

母は俺が小さい頃、よく冒険者時代の話をしてくれた。
父がドラゴンを倒しただとか、恐竜みたいな魔物を討伐しただとか、ほとんどが父の話ばかりだったけど、俺はその話が大好きだった。

『母さんの杖はどこにあるの?』

『母さんの杖はね~折れちゃったのよ』

『なんで?折れたの?』

『年季が入ってたのもあるけどね、父さんが別の女の人と一緒にいるところを見ちゃってね。それで頭を「えいっ!!」ってやったら折れちゃったのよ~』

『そうなんだ!それは父さんが悪いね』

『そうね~父さんが悪いわよね~』

***

あの頃は母の話をそのまま信じていたけど、今思えば「えいっ!!」なんて軽い威力で折れるわけがない。母は絶対、真顔で本気で怒っていたはずだ。容易に想像できる。その場にいたらトラウマものだろう。

「……そうだ!母さんの杖だ!!」

「でも折れちゃったんだよね?」

「直せば使えるかもしれない!」

「うーん、直せるものなのかな」

俺は母の杖の話を思い出そうと必死になった。

「えっとーたしか、へそくりが隠してあるタンスの中にあったはず」

「……アスフィ、とりあえず家に戻ってみよう?」

俺とレイラは家に戻ることにした。
その途中で、またゲンじいの店の前を通らなくてはならなかった。
さっきあんな良い別れ方をしたのに、再び顔を合わせるのは気まずい。俺たちは気づかれないようにほふく前進で通り抜けることにした。

「ん?お前たちもう帰ってきたのか?やっぱり家が一番か?」

「そうじゃないよ。母さんの杖を探しに来たんだ」

「か、母さんの杖?……あれはやめとけ、真っ二つだ」

「それは父さんが悪いんでしょ」

「お前!まさか浮気の話を聞いたのか!?……いや、なんでもない」

もうバレてるし、完全に自白してるじゃないか。父は隠し事が本当に下手だ。

「で、どこにあるの?」

「……あれを使うと浮気性になるぞ~怖いぞ~」

「もういいよ、そういうの」

「帰ろう、アスフィ。浮気はダメ」

「いやでも!杖が――」

「……真面目な話な、あの杖はもう治せない。年季が入りすぎて腐食してんだよ。要するにカビだらけだ」
「そんな……」

「残念だが諦めろ」

諦めろと言われても、俺には諦めきれない。
母が大事にしていた杖。それを持って旅に出たい。母が大切にしていたものを俺も大事にしたいんだ。

「……いやだ。僕は……俺は諦めないっ!」

「アスフィ!!」

必死に探し回った。小さな家だ。隠せる場所は限られている。
しかしどこを探しても杖は見つからなかった。

見つかったのは、母のへそくりと「浮気許さない日記」だけだ。
日記を開いてみると、一面に「浮気許さない浮気許さない……」と埋め尽くされていた。恐ろしくて、それ以上は見られなかった。

「はぁ……どこにもない」

「ねぇアスフィ、別の杖じゃダメなの?買ってあげるよ?」

「ダメだ。母さんの杖がいいんだ」

「でももうないじゃん……諦めようよ」

そうだ。うだうだ言っていてもしょうがない。
旅に出るのが目的だ。杖がなければ旅に出られないなんておかしい。

「…………分かった。諦めるよ」

「うん、そうしよう」

レイラは俺の頭をそっと胸に抱き寄せた。
たった一つ歳上なだけなのに、この時だけは不思議と頼もしく見えた。

「……柔らかい……」

「……」

「あいたっ!」

「えっち」

そんなやり取りをしていると、父が現れた。

「はは~ん?お前ら、もう出来てんのか?」

「父さん!?ぐはっ!」

レイラに弾き飛ばされ、俺は壁に激突した。
笑っている父の姿にムカつきながらも、彼は意外なことを口にした――

「あったぞ」

父が静かに一言、そう告げた。
俺とレイラは顔を見合わせる。

杖は木箱に入れられ、大事に保管されていた。どこにあったかって?
それは、今も母が眠り続けているベッドの下だ。

「……そりゃいくら探しても見つからないよ」

安らかに眠る母の顔を見つめながら呟いた。
母は生きている。呼吸もしている。だけど、その目が開くことはない。長い眠りに囚われたままだ。

「ありがとう、母さん。杖、借りるよ」

俺はそっと木箱を持ち上げた。手に伝わる重みとともに、母が大切にしていたものへの思いが胸に込み上げる。
だが、箱を開けた瞬間――

「……ひどい」

父の言っていた通りだ。杖は腐食が進み、カビだらけだった。さらに真っ二つに折れ、ボロボロの状態。これがかつて母が使っていた杖だとは信じられないほど無残な姿だった。

「……な?言ったろ?もう使えないんだ、この杖は」

「それは父さんの決めつけだ。僕はそうは思わない――」

俺はそっと杖に手を伸ばした。触れた瞬間、冷たく湿った感触が手に伝わる。それでも俺は、その杖に想いを込めた。

母が眠る前に一緒に誓った言葉が胸に浮かぶ。

『みんなを笑顔にできる最強のヒーラーになる』

俺の魔力が杖に注ぎ込まれた瞬間、杖が輝き始めた。
眩い光が部屋を満たし、腐食していた部分が次第に消え去る。折れていた箇所もまるで時間が巻き戻るように元通りになっていく。

「うそだろ……そんなことが……」

「……アスフィ」

父もレイラも、その光景に目を見開き、言葉を失っていた。
だが、俺は驚かなかった。

――俺ならできる。そう信じていたからだ。

「……まさか、生物だけじゃなく物にまで回復を……?」

「父さん、それは違うよ。杖は木だ。樹木もまた生物だよ」

俺は父に笑いかけた。その表情に自信と確信が宿っている。

光が収まると、そこにあったのはまるで新品のような美しい杖だった。
両手で持つタイプのロッド、先端には透き通るような緑の宝石が輝いている。持ち手部分には『アリア』という刻印が彫られていた。

――これ以上ない、最高の杖だ。

「これでやっと、悔いのない形で旅立てる」

俺はそっと杖を握りしめた。その感触は暖かく、どこか懐かしささえ感じる。

「……行ってくるよ、母さん」

安らかに眠る母に言葉をかけた後、俺はレイラとともに家を後にした。
この杖とともに、新たな一歩を踏み出すのだ。

***

「……また通るの?」

「仕方ないよ、あそこしか道がないんだから」

再びゲンじいの店の前を通らなくてはならない俺たち。
さっきいい別れ方をしたばかりなのに、再度顔を合わせるのはどう考えても気まずい。

「気づかれないようにほふく前進で行こう」

「えぇ……もう普通に歩けばいいんじゃ……」

そう言いつつも、結局レイラも俺に従った。
草むらに隠れるようにして、慎重に店の前を這い進む。

「……お前ら、何してんだ?」

不意にゲンじいの声が背後から響いた。俺たちは固まる。

「……いや、その、なんでもないよ!急ぎの用事があって!」

「ほぉ……まあいいが、怪我だけはするなよ」

杖を握りしめたまま顔を赤らめ、なんとか言い訳をしながら立ち去る俺たち。
これが俺たちの、新たな旅の始まりだった――。
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