攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)

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第七章 フィー 幻想世界開幕篇《第二部》

第97話「向こう側」

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 狐女との交渉が決裂し、俺は頭を抱えていた。
 
「なぁ……何回も言ってるだろ? 無理なんだって!」
『しつこいでありんすね。わっちは自分の意思を曲げる気はありんせん。お前さんがオーディンを説得しない限り、話はここまででありんす』
 
 どうしろってんだよ……オーディンはあれから返事がないし、この狐女は狐女で頭が固いし。
 
「なぁ、せめてマキナだけでも起こしてくれないか……?」
『無・理・で・あ・り・ん・す』
 
 これはもう無理だな。
 
「……もういい、分かったよ」
『……言っておくでありんすが、わっちの夢から醒める事は無いでありんすよ』
 
 俺は城を出る事にした。こんな所に居ても時間の無駄だ。
 
「はぁ……どうしよ。クラスメイト捜すどころかマキナまでやられた。マキナが目覚めるには狐女が必要……しかしそれを説得するにはオーディンが必要……」
 
 端的に言って詰みじゃねぇか……。
 
 俺はひとまずマキナを回収しに行く。道に置いてきたまんまだからな。流石に寝るにしてももう少し場所を変えてやろう。
 
 俺はマキナを抱えて、城の近くにあったベンチに寝かせてやる。
 マキナは軽いな……こんなに軽い体でいつも俺を守ってくれていたんだな。ありがとうなマキナ。必ずお前を目覚めさせるから。もう少しだけいい夢でも見ていてくれ。
 
 オーディン、聞こえるか!
 
 おい! 返事をしろ! 聞こえてんだろ!
 
 …………………………………。
 
 おいバカオーディン! ポンコツオーディン! ✕✕✕オーディン!
 
 《うるさいなぁ! なんだよもう! 最後なんて言ったの!? 》
 
 やっと反応したか……寝てたのか?
 
 《寝てたよ! だってここ暇なんだもん! 》
 
 暇なら俺と会話しようぜ。
 
 《何度も言ったろ? 無理だって! 》
 
 それはお前の見解だろ?
 
 《……何が言いたい訳? 》
 
 この幻想世界の他にもう一つ新たな世界を創るには情報が足りない、そうだったよな。
 
 《うん……そうだよ》
 
 だったらよ? 俺の記憶ではなく、他者の記憶からなら作れんじゃねぇのか?
 
 《……ん? どういうこと? 》
 
 この幻想世界内で二つの世界を作るのではなく、もう一つ、幻想世界を創るんだよ。他者の記憶でな。
 
 《……できるけど、二つ目でいったろ? 『アンノーン』が存在する世界にあの怪しい女を入れるのはダメだよ! 》
 
 大丈夫、あいつああ見えても約束は守る女だ。
 
 《そんなのさっき会ったばかりなのに分からないよ! 》
 
 俺には分かる。あの狐女いけすかねぇやつだが、約束は守る。頭が固いからな。そういうタイプは自分の約束も守るタイプなんだ。
 
 《……う~ん》
 
 頼むオーディン。これしか方法がない。マキナまで失うわけには行かないんだよ!
 
 《……分かったよ。ただし条件があるよ》
 
 なんだ? 言ってみろ。
 
 《フィー、君があの狐女の監視役として付いて行ってきて》
 
 え、俺も行くのか……?
 
 《あの得体の知れない女が暴走でもしたら止められるのは君しか居ないだろう? だから君も行く事が条件だ》
 
 …………分かった。俺も行く。
 
 《分かったよ。全く、私をなんだと思ってるのかね》
 
 ありがとう感謝してる。
 
 《ホントだよ! もう! じゃあ準備が出来たら声掛けて》
 
 分かった。
 
 
 俺はマキナをベンチに寝かせたまま再び狐女の城の中に足を踏み入れる。
 
「おい! 狐女!」
『なんでありんすか? 話はありんせん。わっちの意思は曲げないでありんすよ?』
「いや、違う。オーディンを説得した」
『……本当でありんすか?』
「――ああ、その為には手順がいる」
 
 俺はオーディンから受けた説明を狐女にも説明した。
 俺が一緒に行くことが条件ということも。
 
 ……
 …………
 ………………
 
『そうでありんすか。分かったでありんす。では人間たちの所に行くでありんす』
「居るのか!?」
『ええ、わっちの部屋に匿っているでありんす』
 
 そう言うと狐女は付いてこいと手招きし、俺はそれに従う。
 
 
 ***
 
 
 ここにいるのか。隠し扉の様な所に隠しているのかと思いきや、ただの部屋だった。木をベースにした扉。やや古めかしいものだ。特に鍵も無く、封印の札がある訳でもない。見た感じ出ようと思えば出られる、そう思えた。
 
 (なんでクラスの連中は出なかったんだ……? )
 
『では開けるでありんすよ』
「……あ、ああ」
 
 狐女が扉を開けるとそこには見覚えのある顔がいくつもあった。
 
「……え? フィー?」
「うそ……ケンイチくんじゃない!」
「フィー? なんでこいつが。てかここどこなんだよ!」
 
 クラスメイトは大混乱って感じだ。無理もないな。居なくなったと思った須藤すどう 剣一けんいちが今、目の前に居るんだ。それに明らかに日本じゃない場所に急に飛ばされたんだ。
 そりゃ混乱するだろうな。
 
『だまりんさい皆さん』
 
 狐女はクラスメイト達に一言。その一言でクラスメイト達は黙る。
 
「助かった狐女」
『いいのでありんす』
 
 こいつらに騒がれていたら話が進まんからな。さて、こいつらの中の誰の記憶からニセモノの日本を創り出すか……。挙手制にしても誰も手を挙げなそうだしな。
 
 なぁオーディン、誰でもいいのか?
 
 《まぁ、そうだね。でもなるべく安定した精神の方がいいかもね! あとは……誰も信じてない様な人? とかかな? 》
 
 誰も信じてない様な人? 他者を信用していないって事か?
 
 《うん! 『アンノーン』がその日本でも干渉してきた時、すぐに人を信用しちゃう様な人は『アンノーン』に付け入る隙を与えてしまいかねないからね! 》
 
 まぁ確かに……誰も信じてなさそうなタイプだな。
 
 俺はクラスメイトを一人一人見ていく。どんなやつだったかを思い出しながら。
 
 暫く考えた末に……決めた。
 
朝倉 佳奈あさくら かな、お前に決めた」
「………え? なにが?」
 
 黒髪ロングにメガネをした、いかにも勉強できますって感じの女だ。確か大人しいやつだった記憶がある。
 
「少し眠ってもらう。大丈夫、痛くない」
「え……なに? 何されるの私! やめてよ!」
 
 そうなるよな……。
 
「『ヒール』」
 
 俺は朝倉にヒールを掛けた。
 
「……どうだ? 落ち着いたか?」
「うん……でもなんで私なの? 私何されるの?」
「お前は誰も信用していない。親も友達も誰も信用していない」
「なんでそんな事言うのよ! そんな訳――」
「――俺は誰よりもこのクラスの内情を見てきた。お前らには分からないだろうがな。俺を『フィー』と蔑むさげすお前たちにはな。そんなお前達を俺は恨んだ……恨んだ対象の事は絶対に忘れない。やり口、性格、話し方……俺は俺を蔑んだやつらの事を全て覚えている。そんな俺の記憶の中で朝倉。お前は誰も信用していないということが分かった」
「は、はぁ!? なにそれ! フィーのくせに!!」
 
 それだよ、朝倉。人を蔑む割に誰も信用していない。信じているのは己だけ。そんなんだから俺に目を付けられたんだぜ。
 まぁ、正直な所お前じゃ無くても良かった。他者を信用しない奴なんてこの中に何人もいる。だが、俺がお前を選んだ真の理由は、裏で下級生にイジメをしていたからだ。
 
 自分は何もしてません、真面目な生徒です。って面でいるくせ、裏ではイジメの常習犯。被害者が教員に相談するも、真面目で大人しい生徒で通っているコイツがイジメをしているなんて話を信じる教員は誰もいなかった。俺はそんな現場を一人、ただ一人見ていたのだ。
 
 大丈夫、痛い思いをさせる訳じゃない。ただ少しその記憶を読み取るだけだ。
 
「――さぁ、始めよう」
「ちょっと!? なによ! 私に何する気!!? ねぇってば!!」
『いよいよ、念願の異世界へ……! うふふ、楽しみでありんす』
 
 不敵な笑みを浮かべる狐女。
 
 準備オーケーだオーディン。
 
 《分かったよ! フィー、本当に頼むよ? 監視の件! 》
 
 ああ、任せろ。絶対変な事はさせない。
 
 《……分かった。ならもう何も言わないよ! んじゃ行くよ》
 
 
 《アクセプト・創造者:オーディン。記憶元:朝倉 佳奈あさくら かな
 
「ねぇちょっと待っ――」
 
 朝倉がなにか言おうとした瞬間、辺りが光出した。そして――
 
 ……
 …………
 ………………
 
 無事到着した。 
 
「ここが、異世界でありんすか!」
「ああ、間違いない。久しぶりだ。日本」 
 
 まさかもう一度帰ってくることになるとは思わなかった。
 
 オーディン、これは成功ってことでいいんだよな?
 
 《うん! 成功だよ! 満足したらまた言ってね。戻すから! 》
 
 ああ分かった。
 
「だそうだ。お前が満足したら帰還する」
「……ありがたいでありんす。フィーさん、本当に感謝でありんす」
 
 狐女が俺の手を握って感謝してきた。
 
「なんだよ……お前そんなんだったか?」
「わっちは感謝しているでありんすよ……しかしこの世界では神力じんりょくが使えないようでありんすね」
「まぁ、そうだろうな。この世界にお前らの言う神って概念は無い。いや……一応あるにはあるか」
 
 イザナミやら色々日本にも居るもんな……? その辺どうなんだろうか。
 まぁ流石にこの世界に神は居ないか。ここは日本だし。スマホはあっても魔法は無い。
 
「あ……! スマホ! スマホだぁぁぁぁ!」
「どうしたでありんす?」
「スマホを取りに行く。付いてこい狐女」 
 
 《やれやれ、満喫しているようで何よりだよフィー……何も起きなければ良いけどね》
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