攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)

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第十一章 ケンイチ 神々篇 《第三部》

第169話「母として」

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(俺がエーシル!? ふざけんな! 俺はケンイチであってそんな名前じゃない。……ハズだ。
 ハズなんだが……)

 確証が持てない、だよね。

(クソッ……)

 イリアスのコアはね、そんな便利な道具じゃないんだよ。ドラちゃんでもムリなことさ。

(……意味わからん)

 あははは! ……だよね。日本では国民的アニメのキャラクターさ。だった、のほうが良いかな?
 人類は基本的に改変前の世界を覚えていない。

(じゃあ逆に何を覚えてんだよ……)

 そこで生まれた記憶・・・・・・・・・を覚えている。……例えば、生まれ育った環境、人との繋がり、関係性……他にも色々変わる。自分は貴族として生まれた、それが当たり前。一方で、自分は泥水を啜る毎日を送る貧しい人間、それが当たり前。コアはそんな常識を上塗りする訳さ。

 ただし、例外も居る。

(例外?)

 そう、たまに改変しても記憶を引き継いだままの子がいるのさ。一部しか覚えていない者もいれば、零から百まで覚えている者も居る。
 本当に数人だけどね。

(で、俺がエーシルって件は何なんだ)

 あっそうだったね。……エーシル、彼は君が何度も改変を行った末に生まれた化け物だ。

(俺から?)

 君の中にはアスフィやフィーだけじゃない。他にも様々な人格で君は世界をやり直した。全ては愛する妻を救うために。
 でも、その度記憶を失くすんだ。今回のように思い出す事もあったけど、これは百回やり直して二回あればいいくらいの確率だ。

(そんな事はいい! 関係あるのかないのかどっちだ!)

 ある。狂気に落ちた道化は君から出た化け物。彼、仮面をしていたろ? ピエロのような。

(……はっきりは覚えてはない)

 ……していたんだよ。それは君という存在が世界に二人も存在しない為のものだ。もし二人になれば、どっちかが消える可能性があるからね。

 ああそうそう。今回で一番重要なことを言い忘れていたよ。

(なんだ?)

 今回、何故失敗したのか分かる?

(分からん)

 君が未完成だからだ。

(俺が……未完成?)

 君の中にはさっきもいった通り、今まで何度も世界をやり直した人格が存在している。
 ……つまり、君は君自身に呑まれたんだ。自覚はないだろうけどね。

(ああ、特に無いな)

 だろうね。じゃあ私から一つ質問いい?

(ああ)

 君の名前は? ・・・・・・

(俺の名前? 俺は…………あれ、思い出せない……)

 やっぱりね。君はこの会話の中で何度も人格を乗っ取られてる。だから、私が今まで話した事も全て無駄だった訳だ……今回も。

(俺はどうすれば良い)

 もう一度改変してやり直す。

(改変? ……改変って何だ?)

 ***

「……やっぱり今回もダメだったようだよエルブレイド」
「分かった……では開始じゃ」

 エルブレイドとオーディンはテキパキと何やら動き出した。

「……また……変わるのね……」
「そうでありんすね……サリナ、せめて次もまた会えるように」

 サリナとセリナはお互いに抱きしめあった。

「おい! 何だよ、何が始まんだよ! 俺だけ置いてけぼりだ! 説明してくれ!」
「フィー、我らはまた……会えるだろうか……いや、やっぱりいい。聞きたくない」

 宮殿の中では既に皆、終わりを覚悟した顔だった。

「知らんのはお前だけじゃ。ここにおる者にはワシから全て説明しておる。皆、納得している訳では無い。こうするしか無いから……だからこうしている、それだけじゃ」

 何がこうするしか無いだよ。これから一体何が始まんだよ!

「――あらあら、皆悲しそうな顔ね~」

 聞き覚えのない声と姿をした女性が現れた。
 一体何人集まんだここに……まさかまだ来るとかないよな?

「……アリア、なぜお前がここに!? おい、エルブレイド! これは一体どうなってやがる!?」
「何故って、そこのオーディンちゃんが『呪い』を消してくれたんでしょう? ……久しぶりね、アスフィちゃん」

 俺に向かって近づいてくるアリアという女性。もちろん俺は知らない。

「もう、大丈夫。母さんが来たから。アスフィちゃんは何も心配しなくて良いんだからね~」

 そう言って俺を抱きしめるアリア。

「……母さん…………」
「アスフィ!? 思い出したのですか!?」
「よすんじゃルクス! ……今はのう」

 温かい。……この女性に抱きしめられていると全てがどうでもよく感じてくる……。俺は……

「……僕はもう、いいのでしょうか。母さん」
「ええ。アスフィちゃんは頑張った。世界の運命を一人で背負うなんて始めから難しいことなの。だからもういいのよ」

 そうか……もう休んで良いのか。だったらもういいや。僕は頑張った。頑張ったんだよ。なら休む権利だって……ある……はず…………だ。

「……なんのつもりじゃ、アリア」
「エルブレイド。久しぶりね。アスフィちゃんに全てを任すなんてあなたらしくない」
「……う、うむ……しかし、こうするしか世界を元に戻すには――」
「黙りなさい!」

 アリアの怒声が宮殿に響き渡った。今まで優しい雰囲気の女性だとばかり思っていた者達は、目を丸くするどころか、足が震えている者もいた。それほどの迫力だったのだ。

「……ガーフィ」
「は、はい!!」

 足を震わせていた夫であるガーフィがアリアに呼ばれる。ガーフィ恐る恐るアリアに近づいていく。

「アスフィちゃんを何が何でも守ってと、私言ったわ。覚えてる?」
「は、はい!! そりゃ勿論!」
「なら何故こんな事になってるのかしら。皆、アスフィちゃんに頼りすぎよ。例えこの子が偶然始めた事だとしても、私達の子であることには変わりない、そうでしょう? ガーフィ」
「そりゃもちろん!! 俺だってアスフィに再開した時涙が出そうになったさ! でも、もう既に俺の知るアスフィじゃなくなっていて……」

 ガーフィは段々と自信が無くなってきた。帰ってきた息子は中身がまるで別人のようだった。どう接していいか分からなかったのだ。

「だから何? あなたはこうして自分の息子を抱きしめてあげた?」
「…………して……ない」
「そうでしょう? まず自分の息子にあったら抱きしめて上げる。それが疲弊しているなら 尚更よ」
「……ああ、アリア。お前の言う通りだ。俺は父親失格だ……」

 ガーフィは涙ながらに近づいてきた。

「……頑張ったな、アスフィ。すまん」
「……父さん」

 ガーフィもまた我が子を抱きしめた。それは当初の目的であったもの。母親を呪いから救い、家族皆でまた日常を。いまからでもまだ間に合う。また再開できる……。

「…………親子の再開は良いけど、アリア。君、もう時間がないんだよ? これからどうする気? このままじゃ君の大事にしているその子も、世界も救われない。時間がないんだ、改変を始めるなら今しかない」

 ……そうだ。改変……再構築だ。何故俺は忘れていたんだ!

「母さん! 時間がない! 改変をしなくちゃ――」
「アスフィちゃん。ここは母さんに任せて」

 正直に言うと俺はまだこのアリアという女性の全てを思い出した訳じゃ無い。
 思い出しては、忘れを繰り返すような感覚。オーディンの話では俺の中には何人もの俺が居るという話だが。そのせいだろうか。

「そもそも失敗っていうけど何を失敗としているのかしら?」
「そりゃ、君の息子が未完成だからーー」

 オーディンがそう言いかけると同時にアリアの怒声が再び響く。

「だから何で全部この子に任せるのかって言ってるの!」

 アリアの言葉に負けずとオーディンも言い返す。

「アリア。それはその子が始めたことだからだ。自分の罪は自分で償うべきだ」

 オーディンの意見は変わらない。

「……エルブレイド、あなたもそう思うのかしら?」
「…………ワシは……」
「はっきりしなさい!」
「う、うむ!! そうでしゅ!」

 人類最強と言われるエルブレイドが初めてブルった瞬間だった。

「……エルザちゃん、あなたを生き返らせたのは私。あなたの答えを聞かせて頂戴」
「……うむ、そのことにはついては深く感謝しております、アスフィの母上。……ですが、アスフィが大切なのは私も同じ。このままだとアスフィがアスフィじゃなくなってしまい、世界も救われないと言うのなら、私は世界の改変に賛成です。もう一度やり直すべきかと」

 エルザ・スタイリッシュ。彼女はアリアの前で片膝をつき、物申す。
 今、この場を制しているのはアリアだ。

「そう。相変わらずいい子ね。良い子すぎてムカムカするわ~」
「……申し訳ない」
「いいのよ。あなたは悪くない。悪いのはあなたの母なのだから」
「母……ですか。私には分かりません」

 エルザの母はエルザが生まれた時には既に亡くなっていたと父であるエルフォードから聞かされていた。
 だから今まで母親について特に気にして生きたことなど無い。

「……アリアよ。それくらいにしてくれんか。エルザが困っておるじゃろう」
「そうね、悪かったわ~。……私も今は冷静では居られないの。アスフィがこんな事になって……この子が血は繋がっていても、私の本当の子で無いことは知っていた。『ヒール』を初めて使った日、この子の力は絶大なものだった。ガーフィ、あなたなら分かるわよね?」
「え? あ、ああもちろん!」

 アリアはガーフィのその返事に落胆した。

「アスフィの『ヒール』は私の力に相当したの」
「……そりゃ血が繋がってんだから当たり前じゃないのか?」
「あなたは何も分かって無かったのね……回復魔法には等級が存在するのよ」
「あ、ああ。それは剣士の俺でも知ってるぜ。確か回復魔法なら『ヒール』、『ハイヒール』、後は……」

 と、言いかけた所でガーフィは言葉に詰まった。

「……あとは何だっけか?」
「無いの」
「え?」
「この世界には回復魔法だけ上級魔法は存在しないの・・・・・・・・・・・

 と、ここで発言したのはエルザだった。

「お待ち下さい! アスフィの母上! それでは私を蘇生したあの魔法は一体どう説明する気ですか!? あれは間違いなく、中級魔法でも、ましてや確認されていない上級魔法でもない! 死んだ人間を蘇生するなど……神の御業……」
「は……だから……」
「どうしたルクス!? 何か知っているのか!?」

 エルザはルクスに飛びかかった。

「ちょっと! エルザ! 痛いですっ!」
「あ、ああすまない。……でなんだ? 何に気づいたのだ」
「エルザは覚えていないのですか? 私を蘇生した人物を……龍神ハクによって殺された私を蘇生したのが誰かを」
「…………アスフィ……そう、アスフィだ! アスフィとその母上……その二人だけが使える魔法。それも蘇生という埒外の力……まさかあなたは神……?」

 エルザはブツブツと呟きながらアリアに問う。

「え、アリアお前! そうだったのか!?」

 エルザが導き出した答えにいち早く食いついたのは、誰でも無いアリアの夫であるガーフィだった。

「あははは! ガーフィってばほんとに面白いね! ねっアリア」
「全く、オーディンの言う通りよ」
「え、何がだよ!?」

 オーディンとアリアの話についていくことが出来ないガーフィ。そしてそれを見て笑う二人。

「私は『原初の神』の一人。アリア・パナケイア。この世界ではそういう事になってるわ。私もまた、オーディンと同じ
 観測者。でも、改変を何度も繰り返すこの子を見捨ててはおけなかった。そして、改変を繰り返し末誕生したこの世界ではアリアとして生きてきた。アスフィちゃんの母親としてね~」
「ってことは俺は知らない内に奥様ならぬ神様を妻にしていたのか……恐れ多いぜ」

 ガーフィはアリアに尻を叩かれた……。

「……さて、では明らかになってきた所で、そこの……君らの息子をどうするかについてそろそろ話そうじゃないか、シーネット夫妻?」

 オーディンは長い緑髪を掻き上げ、その緑目で二人を威圧するような目で見るのだった。






 
 
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