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流星
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宇宙に放り出される前、私は何年もヌビリの元で暮らしていた。ヌビリの元で育てられた天使の多くは約二年で旅立つ。しかし、多くの天使達が宇宙へ旅立つ中、私は五年もの時をヌビリと過ごした。それは天界では随分と長いことだと教えられ、それまで素晴らしい世界の話や、宇宙の本を読み漁って過ごした。しかし、ある日突然順番が来たからと、私はヌビリに背中の羽を切られた。
「旅立って数ヶ月、私の創造した宇宙の心地はどうでしたか?」
「…………私は、どうしてここに? 素晴らしい世界に行けるのではなかったの?」
私が問い掛けると、ヌビリは目線を遠くの森へ向け、少し躊躇う様に口を開いた。
「確かにあなたは天使の役目を終え、私はあなたを素晴らしい世界に見送りました。しかし、宇宙を彷徨う中で、空番のあなたの星位置の結界が崩れてしまい、流れてしまった」
「……流れて、しまった……って」
私はヌビリが言った言葉の意味を知っている。素晴らしい世界でそれを何と呼ぶのか分からないけれど、生まれてくるはずの生命が流れる時、それは天界では流れ星と言われていた。
「あなたの母様は五年前星了を経験しています。それから授かった命が、今度は流れ星となるなんて想像を絶する辛さでしょう」
「星了も……? そんなっ」
出逢ったことのない母の人生に私は絶句した。と同時に私は自分が流れ星となったことに実感が湧かなかった。
「…………この森の奥には、流れ星になった子が?」
私がそう問いかけるとヌビリは頷き、視線を森の奥へやった。
「流れ星となった子、星了となった子、そして望まれて生まれたはずが、命を粗末に扱われた子供たちがいます。悪意により空番の途中で亡くなってしまった人もいた。
私はその様なことをした親を許すことはありませんが、子供たちの中には未だに親の元へ転生することを望む子がいます。それは愛故の行動、無限の願いです」
ヌビリは寂しそうな顔をして、森の上空に光のベールのようなものを張り、アーチ状の花を無限に造り上げた。それは優しく強い光で、その花は風に揺れて散っている。その行動ひとつで、ヌビリがどれほどこの森を守りたいのかが分かった。
「転生を望まない珍しい子もいて、ラムィはその一人でした」
「え、? ラムィって言った……?」
「ラムィは一度星了の恐怖を覚えてしまったが故に、転生を怖がり素晴らしい世界に行くことを拒絶しました。その後も母様が迎えに来ようとしたのですが、ラムィは泣きじゃくるばかりでした。だから私は彼の転生を諦め、ラムィが生きやすいようにと、空想員の役割を与えました」
「そう……私何も知らなかった」
ラムィと別れたあの日、ラムィの寂しそうな顔がずっと頭にこびり付いていた。別れを惜しむと言うよりも、何か言いたげで意味深な表情。今ならその理由が分かる。
「ラムィは、私を心配してくれてたのかな。自分と同じ道を歩むかもしれないって」
「ラムィは心優しい子ですからね」
「……私、ラムィにもう一度会いたい」
ラムィにもう一度会って、もっとラムィのことを知りたい、もっと撫でて欲しいし、沢山話したい。欲に駆られるまま私はヌビリにお願いをした。
「それなんですがね……」
少し微笑んだヌビリは、私と目線を合わせるように私の前に膝まずいた。
「あなたにお願いしたいことがあるのです」
ヌビリの瞳は真っ直ぐに私を見つめていた。
「旅立って数ヶ月、私の創造した宇宙の心地はどうでしたか?」
「…………私は、どうしてここに? 素晴らしい世界に行けるのではなかったの?」
私が問い掛けると、ヌビリは目線を遠くの森へ向け、少し躊躇う様に口を開いた。
「確かにあなたは天使の役目を終え、私はあなたを素晴らしい世界に見送りました。しかし、宇宙を彷徨う中で、空番のあなたの星位置の結界が崩れてしまい、流れてしまった」
「……流れて、しまった……って」
私はヌビリが言った言葉の意味を知っている。素晴らしい世界でそれを何と呼ぶのか分からないけれど、生まれてくるはずの生命が流れる時、それは天界では流れ星と言われていた。
「あなたの母様は五年前星了を経験しています。それから授かった命が、今度は流れ星となるなんて想像を絶する辛さでしょう」
「星了も……? そんなっ」
出逢ったことのない母の人生に私は絶句した。と同時に私は自分が流れ星となったことに実感が湧かなかった。
「…………この森の奥には、流れ星になった子が?」
私がそう問いかけるとヌビリは頷き、視線を森の奥へやった。
「流れ星となった子、星了となった子、そして望まれて生まれたはずが、命を粗末に扱われた子供たちがいます。悪意により空番の途中で亡くなってしまった人もいた。
私はその様なことをした親を許すことはありませんが、子供たちの中には未だに親の元へ転生することを望む子がいます。それは愛故の行動、無限の願いです」
ヌビリは寂しそうな顔をして、森の上空に光のベールのようなものを張り、アーチ状の花を無限に造り上げた。それは優しく強い光で、その花は風に揺れて散っている。その行動ひとつで、ヌビリがどれほどこの森を守りたいのかが分かった。
「転生を望まない珍しい子もいて、ラムィはその一人でした」
「え、? ラムィって言った……?」
「ラムィは一度星了の恐怖を覚えてしまったが故に、転生を怖がり素晴らしい世界に行くことを拒絶しました。その後も母様が迎えに来ようとしたのですが、ラムィは泣きじゃくるばかりでした。だから私は彼の転生を諦め、ラムィが生きやすいようにと、空想員の役割を与えました」
「そう……私何も知らなかった」
ラムィと別れたあの日、ラムィの寂しそうな顔がずっと頭にこびり付いていた。別れを惜しむと言うよりも、何か言いたげで意味深な表情。今ならその理由が分かる。
「ラムィは、私を心配してくれてたのかな。自分と同じ道を歩むかもしれないって」
「ラムィは心優しい子ですからね」
「……私、ラムィにもう一度会いたい」
ラムィにもう一度会って、もっとラムィのことを知りたい、もっと撫でて欲しいし、沢山話したい。欲に駆られるまま私はヌビリにお願いをした。
「それなんですがね……」
少し微笑んだヌビリは、私と目線を合わせるように私の前に膝まずいた。
「あなたにお願いしたいことがあるのです」
ヌビリの瞳は真っ直ぐに私を見つめていた。
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