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1章~2章

何を才能と呼ぶか

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『さぁ始まりました。中間試験二日目!皆さん待ちに待ったのではないでしょうか!チーム対抗戦第一試合!リーナ・グランシェールチーム対新條拓翔チーム!』
 ワアアアアァァァァァ!
「だいぶ盛り上がってるな」
 偶然同じ待機室に入れられた拓翔が言う。
「試験とか言われてるけど生徒側からしたら完全に楽しいイベントだもんな。そりゃ盛り上がるだろ」
 …………。
 会話が続かなくて気まずい時間が続く。なんか話すことないかな?
 俺がそう考えていると、拓翔が椅子から立ち上がり俺の方を真っ直ぐと見る。その目は輝いていた。
「ま、そういう俺も楽しみっちゃ楽しみなんだけどな。もし会うことがあったら全力で、俺の仲間にはお前に遭遇しても遠慮はいらないと言ってあるからな。そん時はたたきつぶしてやるよ」
 そういうと俺に向けて拳を突き出してきた。
「俺はそんなに強くねぇっての。多分お前の仲間にあったらボロボロにされちまうよ。」
 自分で自分に「何言ってんだか?」と思いつつも、出された拳に拳をぶつける。
 拓翔は待機室から出て、俺もその少しあとに部屋を後にした。

  ──◇◇◇──

 全員が転移用魔法陣に入ったのを係の人が確認し、バトルフィールドに転送される。目の前が白く輝き、身体からだが崩れていくのを感じながら目を瞑る。
 目を開けると目の前には大きな丘と草原が広がっていた。
『さぁ!両チーム今回のバトルフィールドに着きました!今回の試合のルールはシンプル!チームのリーダーがリタイアしたら負け!』
 リーダーがリタイアしたら負けか……。じゃぁどうしようか?俺としては拓翔と戦いたいんだけども……。
「先輩──。」
「分かってるわよ。向こうのリーダーと戦いたいんでしょ?私としてはそれで勝ってくれれば万々歳だし、あなたの自由にしなさいな」
 リーナ先輩が俺の思っていることを許してくれた。
 結門さんがそれに続いて言ってくれる。
「友情ってやつは大事だよね。大丈夫。負けても俺とローランがなんとかするから、存分に戦っておいで」
 ローランもそれに頷く。
「みんな……。ありがとう!」
『それではいきましょう!中間試験トーナメント第一試合……スタート!』
 試合開始のアナウンスとブザーが鳴り、それと同時に歓声も大きくなる。
「さて、勝つわよ!」
 俺とローランと結門さんの三人でそれぞれ三方向に飛び出す。結門さんはこのステージで一番の高所である丘の上へ、ローランは草原を駆け抜け相手のチームメイトの足止めへ、そして俺は拓翔目指して一直線に──。
 走る中、アジ・ダハーカに一つ提案をする。
「なぁ、起きているなら話がある」
『なんだ?』
「どれだけ俺がピンチになっても絶対に『氷獄の悪魔アブソリュート・メリス』だけは使わない。俺はあいつと俺の力だけで戦いたいんだ」
『なんだ、そんなことか。了解した。お互いにぶつかり合い、認め合うのが友情か、あいつも言っていたな』
「スラエータオナさんだっけ?」
『あぁ、おっと相棒、こんなこと話していてもいいのか?ほら、目の前にいるぞ?』
 言われて目を凝らすと、拓翔チームの女子生徒一人が俺に向かって真っ直ぐ突っ込んでくる!
 走りを止めて、左腕の袖を捲り構える。紋様を輝かせ、自分の周りにいくつか魔法陣を作り出す。
 相手は驚いていた。それもそうだ、俺はこの学園にいながら大した魔法が使えないことで有名だったんだ。そんな俺が普通に魔法を使っていたら誰だって驚くだろうよ。
 しかしそんなことはお構い無しに突っ込んでくる。自分の足元に簡易魔法陣を展開し、それを連続的に発現、消去を繰り返しながら自身を加速させていく。
「タァァァァ!」
 ヒュン!
 あまりの加速に風を切る音も聞こえなかった。それ以上に──。
「ヤバい!守れ!」
 彼女が通った後を遅れて衝撃波が走ってくる!あらかじめ用意しておいた魔法陣でとりあえず防ぐが、そのせいで次の攻撃への反応が……!
「ふーん、今のをちゃんと耐えるんだ。君、四月から何かあったの?」
 次に来ると予測して新しく展開しておこうとしたが、攻撃が来るわけでもなく、女子生徒は俺の目の前にたっていた。
『おおっと!?なんだ今の攻撃と衝撃は!土埃のせいでこちらからは何も見えません!』
 そのアナウンスを聞いて、話を続ける。
「うちのリーダーがね、ここずっとあんたのことを話すのよ。だからちょっと気になっただけで、私はあんたと戦う気は毛頭ない」
 と、言われるがにわかに信じ難い。そう言って油断した俺を倒すなんてでもありそうだし……。
 俺がそんなふうに疑いの目を向けていると女子生徒はやれやれといった感じで俺の背中を押す。
「大丈夫、私はあの金髪の先輩を倒すっていう風にあいつに言ってあるから。だからあんたはあのバカとバカ晒して戦いなよ。そろそろ土埃も収まるし、私はあんたを見失ったフリするから走りって」
「ありがとう」
 俺はそれだけ言って拓翔の気配がする方へとまた走り出す。
『土埃が晴れてきました。あれ?際神悠斗の姿が見えません!』
「クソ!どこに消えた!?」
 俺を見失う演技をして、拓翔に対しても、全校生徒に対しても怪しまれないようにしてくれている。
『あいつのことだ。どうせ逃げたんだろ?』
 と、いう俺への蔑みも聞こえてくるが今はそれに気を取られている暇はない。先輩が取られる心配はほぼほぼないけど一応早めに行ってあいつと戦いたい。
 先輩、ローラン達も、相手チームの生徒とぶつかったようで、後ろから爆発や、衝撃の音が聞こえてくる。
 そして、俺はそれを静かに見守るバカ一号のところに到着した。
 拓翔は俺の気配にすぐ気づいて地べたから立ち、頬を人差し指で掻きながら俺の方へとゆっくり歩いてくる。
「お前が無傷でここまでまで来たってことは、あいつが変に気ぃ遣ったってことか……。ったく、気にしなくていいって言ったのによ」
 あいつの身体中に視認できるほどの蒼い雷が走り出したのを確認して、俺も準備を始める。
 唐突に、空を仰ぎながら話し出す。
「俺はな、優秀だとかなんだか言われてるけど、ぶっちゃけた話そういう奴らが気に入らねぇんだ」
 三メートルほど離れた位置で立ち止まり話を続ける。
「才能才能吐き散らかしたくなる気持ちも分かる。俺だって自分には才能があると信じていたのに上がいるってのを知って、そいつに負けて、それを才能が違うと悪態ついて逃げたくなった」
 それは俺にとても刺さることだった。魔術や、魔力は生まれた時に先天的に授かる物で、それを他の力に変えたり、より強いものにしようなんてそう簡単に出来るものじゃない。人間社会に隠れた、力で支配される『魔術』という世界で『才能』という言葉は普通よりも遥かに重い意味を持ってしまう。
「馬鹿だよな。与えられた力なら自分の体の一部じゃん。なら、鍛えて、鍛えて、鍛え続ければ追いつけない才能に追いつけるってのにそれを早々に諦めちまった」
 自分の過去を自嘲気味に告白した拓翔の目は真剣そのもの。
「ここにいるヤツらのほとんどが昔の俺と同じなんだよ。さっき聞いたぜ?『どうせ逃げたんだろ』ここにいるってのに。自分が敵わないから、てめぇより弱い奴も絶対逃げる。諦めてるんだよ」
 ゆっくりと腕をあげて、俺を指さす。
 何が来る!そう思った俺は動きに注意しながら構える。
「……でもお前は違った」
 そのセリフに心臓が跳ねた。構えを解き、また拓翔の言葉に耳を傾ける。
「お前はずっと上を見てた。『劣等』と言われ続けていても諦めなかった。チャンスを逃さないよう常に努力をしていた」
 次に、俺達の上にある中継用カメラに指を向ける。
「だから諦めた奴らあいつら諦めてない奴お前を指さして笑っているのが我慢ならなかった。だってお前は、堂々と俺の前に立ってるじゃないか」
 拓翔は満足したようにニヤッと笑い、腰を深く落として構える。
「でも!俺も負けちゃいねぇ」
 俺もそれに倣って左腕から紅い炎を湧き上がらせる。
「結局そこかよ。お前、この状況になるのがそんなに嬉しいのかよ」
 空に暗い雲が渦を巻きながら俺達の上に出現する。
「当たり前だろ!どんだけ、どれだけ俺がお前と戦いたかったか知ってるだろうが!初めから全開でいかせてもらうぜ!蒼電・百獣ライトニング・ビースト!」
 蒼い虎のような獣が拓翔の全身を包み込む。触れられなくても体が痺れる。
「お前は強い!誰がなんと言おうと、天地がひっくり返ってもそれは変わらねぇ!俺が停学中に何もしてないと思ったか!?」
 まさか……戦う相手を鼓舞してから挑もうなんて舐められたもんだ……。
 ……ったく、いい親友だなぁこいつはよぉ!
「んなわけねぇだろォォォォアアアアア!轟々と舞乱れろ!紅煉クリムゾン!」
 相手が全開なら当然俺も全開!小細工なんかいらねぇ、正面からのぶつかり合いだ!
 瞬間……拓翔の体が青い光を残して消えた。
「──!どこだ!?」
 右?左?後ろ?正面から?ダメだ……どこからでもあいつの気配と魔力を感じる。
『上手いな。ここら一帯のフィールド上空に自身の魔力から作られた電気を走らせることでその性質である「四散」を使い、自身の魔力を捉えられないようにしている。視覚情報がほぼなく、魔力の筋も追えない状況』
 ご親切に解説どーも!そういうことならやることは一つしかないね!
 暗い雲の方へ掌を向けて、紅い炎を大出力で放つ。雲は炎を中心に晴れていき擬似的な空に作られた太陽が見える。さっきまで捉えられなかった拓翔のオーラが俺の向く方向真っ直ぐに感じられる。
 眩しくて上手く見ることはできないが、太陽の真ん中にある小さい影から特大のものが俺に向けられている。
「はー!よくわかってんじゃねぇかよ!でも、これはさすがに避けられねぇよなぁ!」
「はぁ!?避けるなんて馬鹿なこと誰がするかよ!ぶつかってやるよぉ!」
 試合、開始!
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