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修学旅行の英雄譚 Ⅰ

その夜──目的と正体

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約束の時間の十時となり、見回りの先生にバレないように気を付けながらホテルの外に出る。入口から離れた俺がローランを見つけた場所にローラン、拓翔、久瀬、氷翠の五人で待つ。
「ちょっと冷え込むな、もう少し厚着にしてこれば良かったか?」
久瀬がそう呟く。たしかに少し風は冷たいかな?でももしかしたら戦闘になるかもしれないし、動きやすい格好の方でいいんじゃないか?
「久瀬君、もしかしたら戦闘になるかもしれないし今くらいの格好が丁度いいよ。動き回って暑くなるしそれで体力の消耗が激しくなるからね」
ローランが俺が思っていたことと同じことを言う。事情を知っているからこそだけどこいつが言うと説得力凄いな。
「ま、俺の場合は服あった方が邪魔なんだけどな」
両手をバチバチさせながら言う拓翔だけど、だからってこの冷え込む夜に半袖はどうかと思うぞ?
「えー?そんなに寒いかな?私いっつも氷触ってるような感じだから分かんない」
薄着で平気そうにしている氷翠は氷に通じた力を使うから寒さや冷たさに強いんだろう。拓翔が電気をくらっても平気なのと同じで自分の能力に応じて体が耐性を作るらしいっ以前てリーナ先輩に教えてもらった気がする。
少しすると前方から二種類の足音が聞こえてきた。
「すまない、待たせたか?」
初めて会った時と同じ服装の光崎とオリヴィエが現れた。
「いや、俺達もさっき出たところだよ」
「そうか、それなら」
背負っていたカバンを地面に下ろして中を探る。光崎が取り出したのは今彼らが着ているのと同じローブ。しかし色は黒と白の二色ある。
「好きなのを取ってくれ、君達のそのままの服装では目立つからな。キリスト教の本拠地、こっちの格好の方が悪目立ちしなくてすむ」
「せっかく協力してくれるんだからみんなにプレゼントだよ!」
おお!それはありがたいな。夜にこんな格好した集団がいたら向こうから確実に狙われるからな。
俺と拓翔は黒いローブを、ローランと氷翠と久瀬は白いローブを着込む。
「あったけぇ……これでだいぶ楽になったぜ」
寒い寒いと文句を言っていた久瀬にとってはサプライズだったらしい。
「それで?これだけ人数で動くと効率悪いし分かれるか?」
そう訊くと光崎は頷き説明する。
「今夜は二手に別れて動こうと思う。もしどちらかが敵と遭遇、もしくは敵の拠点を発見した場合は俺か真希の携帯に連絡するよう。采配は。禁龍、真希、ローラン、そこの電気使い」
「うえぇ!?私晶と一緒じゃないの!?」
オリヴィエはそう驚くが、光崎は当然といった様子でため息混じりに答える。
「当たり前だろう……もう少し頭を使ってくれ……いいか?お前の担当区域は俺と同じでここだろう?それならここの地理に詳しいお前と俺は別れるべきだ。あのミラとかいう悪魔もどこかに行ってしまったようだしこれでこいつらがやられてしまったら元も子も無いだろう。それに───」
おおっと、急に説教が始まったぞ?しかもなかなかのマシンガントーク……。
「俺と氷翠さんは光崎に着いて行くって感じだな。一応のことがあるかもしれないからこれ渡しとくよ」
説教垂れる光崎を横目に久瀬が銀色の銃を取り出して一発宙に撃つ。発砲音は鳴らず、そこから小さな球体が出てきた。上昇が落ち着き、ゆっくり下降すると、俺の周りをグルグルと回り出す。
「こいつは簡単にいえば警報器みたいなもんだ。こいつが壊されたり敵が近くに来たらしたら俺に信号が送られるようになってる。万が一の事があるかもしれねぇからな、持っておいて損はないだろ」
「衛星みたいだな、俺の周りふわふわ飛んでて落ち着かないんだけど?」
「あぁ、そういうことならそいつをポケットに入れておけばいい」
そう言うと両手でそーっと捕まえるとそれを俺のローブの内ポケットに入れてくれた。
「よし、これでチャックさえ開けなければ大丈夫だな」
「ほんとかよ?すごいモゾモゾしてるんだけど」
「大丈夫だって、じきに慣れるよ、こいつが」
「こっち!?」
「そんな便利なものがあるのか。お前のそれは……幻具か?」
いつの間にか俺と久瀬の間に割り込んでいた光崎が久瀬に訊く。
ん?こいつがここにいるってことはオリヴィエのことはもう済んだのか?気になってそっちを見ると半泣きになりながら両手で頭を抑えてその場に座り込んでいるのが見える。それだけで何をされたかが分かってしまった。
「俺はこれが何かなんてよく分からねぇけどガキの頃から使えてたぜ?」
「剣と銃一対の武器か、しかもそれは……彗星……」
「え?あの……おーい、どうしたんだよ?」
あーあ、また一人の世界に入ったよ。
「晶も落ち着いたみたいだし私たちは先に行きましょうか」
回復したオリヴィエが俺と拓翔とローランに言う。なんで俺と関わる奴らってそんなに回復が早いんだろうか?
正直すごく気になるところだけど今はそんなことを逐一確認してる暇は無いので、考え込む光崎とそれに戸惑う久瀬を置いて先に行くことにした。
「じゃぁまたな、なんかあったら光崎と久瀬を頼るんだぞ?」
「分かった、大丈夫」
氷翠のことが心配なので一応釘を刺しておく。えらい素直に返事したけどほんとに大丈夫か?
「ほらー禁龍君、早く行くわよ」
既にホテルの門を出発した三人に走って追いつく。そこで気付いたことだけど昼の時に比べて夜の方が動きやすい、これはちょっとした発見かもしれない。
「んんっ……あぁー!やっと一緒になれたー。いやー、知らないフリを続けるのって疲れるわねー」
オリヴィエが突然立ち止まりそう大声で漏らす。緊張から解放されて疲れがどっと現れたように見える彼女だが、それに反してすごく嬉しそうにも見える。
全員が首を傾げてオリヴィエを見ている中でそれを気にせずローランに近づいて手を差し出し歯をみせて笑う。
「千五百年ぶりだね?」
はい?千五百年?俺は最初こいつが言ったことが理解できなかった。だってそれはローランが初めて転生した時と同じ……てことはこいつはまさか!
オリヴィエからの突然の再会の挨拶。ローランは驚いた顔をしていたが、そのことをどこか察していたようだ。
差し出された手を握り、笑みを浮かべて挨拶を返す。
「もしかしてと思っていたけどほんとに君だったなんてね。千五百年ぶりだね、オリヴィエ・エスクエット」
喜びも束の間、彼がローランであると確信したオリヴィエは笑顔を怒りの形相に変え、その手を離して詰め寄る。
「まったくあんたは……!今までどこいってたのよ!?そりゃぁ気持ちが分からないわけでもないわよ?デュランダルも折れて、戦友を亡くして、自分も負けちゃって、心が折れてもしょうがないわ。でも私にくらい居場所を伝えていきなさいよ!あれから何年探したことやら……転生を繰り返したせいでこんなのまで授かる羽目になったし!」
そう言って自分の右目を見せる。その目は青く澄んだ色をしていた。
「それが今となっては敵同士だなんて意味分かんないんだけど!」
捲し立てるような彼女の言いぶりに苦笑いするしかないローランだけど、昔の相棒に出会えてオリヴィエ以上に嬉しそうだ。
「悪かった、悪かったって、頼むからその手を止めてくれ」
「はぁ!?あんた今自分が誰かに指図できる立場だとでも思ってるの!?」
オリヴィエは本気で怒っているが怒られている側は実に楽しそうだ。昔を懐かしむってこんな感じなんだろうか?
「あいつに負けて!それでも次は勝つって言って何度も挑んだその姿勢はどこいったのよ!だ……から……」
自分で言っていることでなにか引っかかったのか、それともこれから言おうとしているとこにどこか冷めたのか。さっきまでの勢いをなくして落ち着いてから言う。
「だから、千五百年なのね。でなきゃあんなことできない」
俺と拓翔にはなんのことだかさっぱりだが、ローランには伝わったようだ。
「そう、だから千五百年なんだよ」
オリヴィエはしばらく黙っていたが、振り返り歩き出す。
「そういうことなら許してあげるわよ。さ、早く目的の場所に行きましょ」
オリヴィエの急変に俺と拓翔は顔を見合わせて彼女の後について行く。
「行くあてはあるのか?」
そう訊くと目的地の方角を指さして言う。
「あるわよ。てゆうか、もうほとんど目星はついてるわ。ほら、向こうの山に小さな廃教会があるでしょ?」
暗いかつ小さくて見にくいが確かに何か建物が見える。
「あそこに異端者共がいるのよ」
「うん?それなら光崎達はどこに行ったんだ?」
元から相手の居場所をつきとめていならわざわざ戦力を分担することは無いはず。
「馬鹿、少しは考えなさいよ。そんなのほかの生徒たちに被害を出させないために決まってるでしょう?」
「なるほどな、敵にとっちゃ学園の人達は格好の囮だもんな」
オリヴィエは得意気な顔で言う。
「だからあなた達は私たちに感謝なさいな!ほら早く!褒めて!敬って!」
急に目を輝かせて迫ってくるオリヴィエにローランがツッコミを入れる。
「落ち着いてオリヴィエ、君が思いついたわけじゃないし君が得意になることは無いだろ?千五百年経ってもそういう子供なところは直らないのかい?」
的確なツッコミを受けたオリヴィエは頬を膨らませて激しく抗議する。
「子供って言うなー!あなたと同い年よ私は!」
「フー、フー」と息を荒らげていたが俺たちが若干引いているのに気づいたオリヴィエは落ち着きを取り戻して説明に戻る。
「これは今日の昼、あなた達に再会した後にわかったことなんだけどね?あいつらの目的は私と晶の排除に、氷翠さんの殺害。そして聖剣デュランダルなのよ」
でた、その剣はローランが昔使っていたっていう聖剣だ。
「なんでやつらが聖剣を狙ってるんだ?彼らにはコールブランドのレプリカがあるじゃないか」
元々の持ち主ということもあってローランが食い気味に問う。
「多分だけど彼ら自身の目的は自分達を追放した教会への報復。そしてその後ろにいる者の目的はあの時代の再来よ」
「───ッ!あれをこの時代に再現だと!?そんなこと許されるはずがないだろ!」
『ふざけてるな』
俺達三人が焦る中で落ち着いた声が聞こえる。
『あの頃の再来だと?それが本当なら神も見過ごさないぞ?』
「そうよ、アジ・ダハーカ。天使長のミカエル様も解決を急いでいるわ」
『……となると、黒幕の正体はあいつが濃厚だな……いや、それ以外考えられん』
何かを確信したような発言、それに対してオリヴィエは息を吐いて肯定する。
「えぇ、今あなたが思い浮かべている人物で正解よ」
「なぁ、結局誰なんだよそこ黒幕ってのは?」
拓翔が答えを急かす。俺も何も分かっていないから答えを知りたい。
「この事件の真の犯人は───」


───光崎 氷翠 久瀬side

「暇だー」
悠斗達が出発仕手から三十分が経過した頃、特に何も起こらず時間が静かに過ぎていく。
「我慢してくれ、氷翠嬢、俺たちの仕事はこれなんだ」
「ねぇねぇ、さっきから気になってんだけどさ、なんで私のこと氷翠嬢って呼ぶの?光崎さんの方が偉そうだよ?」
氷翠は既に教会から離れた身なので詳しい階級制度の中には入っていないが、まだ教会の一員の頃なら確実に光崎の方が上の立場だ。
「あなたは覚えていないだろうが、俺は昔あなたにお世話になったことがある」
「そんなことあったっけ?私会った覚えないよ?」
「それは仕方のないことだ。お嬢がまだ小さい頃のことだからな。あれは俺が教会に所属することになって三年も経たない頃の話だ。とある事情のせいで誰からも信用されず疎まれていた俺は常にあの大聖堂の隅にいた。あそこなら誰も文句は言えないし、誰にも目をつけられないからな。そしてとある任務の後だ。俺は瀕死の傷を受けた。任務には成功し、帰還することが出来たが誰も俺を助けようとしなかった。その時、偶然こちらの教会へ氷翠様が赴かれていてな。そのズボンをがっちり掴んだ小さなあなたがいた。落ち着かない環境でキョロキョロしていたあなたは偶然かもしれないが俺の視界に捉えた。ズボンから手を離しこっちに駆け寄り一言『大丈夫?』と言い俺にその治癒の力を施してくれた」
そこまで言ったところで氷翠が声を上げる。
「思い…出した!あのボロボロだった子だ!最初からそう言ってくれればよかったのになんで言ってくれないの?」
ずっとそう言ってたのだけど……一瞬そう思ったが、彼女にオリヴィエと同じ雰囲気を感じた光崎はこれ以上はもう何も言わなかった。
「あぁ、大丈夫かなぁあいつら?」
久瀬は一人、星を眺めながら指先で器用に銃を回している。
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