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第三話 双葉ほのかと甘いパフェとほろ苦い過去
テニスコートを後にしたほのかちゃんは、いつものように無口で、俯き加減に歩いていた。その背中は、いつもより小さく、そして、どこか寂しげに見えた。
「…ほのかちゃん、ごめんね。無理にテニスなんて誘って…」
私は、隣を歩きながら、恐る恐る話しかけた。
「………」
ほのかちゃんは、何も答えなかった。でも、その小さな手が、ぎゅっと握りしめられているのに、私は気づいていた。
「…あの、ほのかちゃん、この後、時間ある…?」
「………」
「…パフェ、食べに行かない?…この近くに、美味しいお店があるんだ。」
私は、精一杯の明るい声で、そう言った。ほのかちゃんは、一瞬、顔を上げた。その瞳には、まだ不安の色が残っていたけど、ほんの少しだけ、興味を示すような光が宿ったように見えた。
「…甘いもの…嫌いじゃなければ…なんだけど…」
「………」
ほのかちゃんは、黙って、小さく頷いた。
駅から少し離れた場所にある、隠れ家のようなカフェ。店内は、落ち着いた照明と、アンティーク調の家具で統一され、どこか懐かしい雰囲気が漂っている。
「…いらっしゃいませ。」
優しそうな女性店員が、私たちを席に案内してくれた。
「…ほのかちゃん、何にする?ここのパフェ、すごく美味しいんだよ!」
私は、メニューを広げながら、ほのかちゃんに話しかけた。ほのかちゃんは、メニューをじっと見つめている。その真剣な表情は、まるで難解な数学の問題を解いているかのようだ。
「…田中さんは…?」
「え?私は…季節のフルーツパフェかな!」
「………」
ほのかちゃんは、再びメニューに視線を落とした。そして、しばらくの間、黙ってメニューを見つめていた。
「…決まった?」
「…これ…」
ほのかちゃんが指差したのは、「苺づくしの贅沢パフェ」。真っ赤な苺が、ふんだんに使われた、見た目にも華やかなパフェだった。
「…苺、好きなの?」
「………コク…」
…また出た、「コク」!…でも、今回は、何となく、その意味が分かったような気がした。
「…じゃあ、決まりだね!すみません、季節のフルーツパフェと、苺づくしの贅沢パフェ、お願いします!」
注文を終えると、店内には、再び静寂が訪れた。ほのかちゃんは、窓の外をじっと見つめている。その瞳には、何を考えているのか、伺い知ることはできない。
「………」
「…あのさ、ほのかちゃん。…さっきは、本当にごめんね。テニスのこと…」
「………」
「…もし、話したくなかったら、話さなくてもいいからね。…ただ、私は、ほのかちゃんのことを、もっと知りたいって思って…」
「………」
ほのかちゃんは、何も答えなかった。でも、その瞳が、わずかに揺れたように見えた。
しばらくして、注文したパフェが運ばれてきた。
「わあ、美味しそう!」
私は、目の前に置かれたパフェを見て、思わず声を上げた。季節のフルーツが、宝石のように、キラキラと輝いている。
一方、ほのかちゃんの「苺づくしの贅沢パフェ」は、まさに圧巻だった。グラスの中には、真っ赤な苺が、これでもかというほど、詰め込まれている。そして、その上には、真っ白な生クリームと、真っ赤な苺ソースが、たっぷりとトッピングされていた。
「…すごい…」
ほのかちゃんは、そう呟くと、スプーンを手に取り、パフェを食べ始めた。その表情は、いつものように無表情だったけど、どこか、幸せそうに見えた。
「…美味しい…?」
「………コク…」
…うん、やっぱり、美味しいんだね!
私も、自分のパフェを食べ始めた。新鮮なフルーツの甘酸っぱさと、生クリームの優しい甘さが、口の中でとろけ合う。
「…美味しいね…」
「………」
ほのかちゃんは、何も言わずに、黙々とパフェを食べ続けている。
しばらくの間、私たちは、黙ってパフェを食べ続けた。店内に流れる、静かなジャズの音楽と、スプーンがグラスに当たる音だけが、響いていた。
「…あのさ、ほのかちゃん。…もし、嫌じゃなければでいいんだけど…テニスのこと、話してくれないかな…?」
私は、思い切って、そう切り出した。ほのかちゃんは、スプーンを動かす手を止め、私の方を見た。その瞳には、戸惑いと、不安と、そして…ほんの少しの、諦めのようなものが入り混じっているように見えた。
「………」
「…無理にとは言わない。…でも、私は、ほのかちゃんの力になりたい…」
「…田中さん…」
ほのかちゃんは、私の名前を呼んだ。その声は、とても小さかったけど、確かに、私の耳に届いた。
「…私…テニスで…」
ほのかちゃんは、そこで言葉を切った。そして、俯いて、ぎゅっとスプーンを握りしめた。
「…人を…傷つけた…」
「え…?」
「…中学の時…試合で…相手に…怪我をさせた…」
ほのかちゃんは、途切れ途切れに、そう言った。その声は、震えていて、今にも泣き出しそうだった。
「…私のボール…速すぎて…相手…避けられなくて…頭に…当たって…」
「………」
「…それから…私…テニス…怖くなって…」
ほのかちゃんは、そう言うと、顔を覆ってしまった。その小さな肩が、震えているのが見えた。
「…ほのかちゃん…」
私は、何と言っていいか分からず、ただ、ほのかちゃんの名前を呼ぶことしかできなかった。
「…だから…もう…テニスは…しないって…決めた…」
ほのかちゃんは、顔を覆ったまま、そう言った。その声は、絶望に満ちていた。
「…でも…五十嵐先生が…」
「え…?」
「…先生…私を…テニス部に…誘ってくれた…」
「………」
「…先生は…私の過去…全部知ってる…それでも…」
ほのかちゃんは、そこで言葉を切った。そして、ゆっくりと顔を上げた。その瞳には、涙が溢れていた。
「…私…もう一度…テニス…したい…」
ほのかちゃんは、そう言って、私の目を真っ直ぐに見つめた。その瞳は、涙で濡れていたけど、確かに、強い意志の光を宿していた。
「…ほのかちゃん…」
私は、ほのかちゃんの手を、そっと握った。
「…一緒に…頑張ろう…?」
「………うん…」
ほのかちゃんは、小さく頷いた。その顔には、まだ不安の色が残っていたけど、ほんの少しだけ、笑顔が浮かんでいた。
この日、私は、初めて、双葉ほのかの過去を知った。そして、彼女が抱える、深い心の傷跡に触れた。
でも、それと同時に、私は、彼女のテニスへの情熱が、まだ消えていないことを確信した。
これから、私たちは、どんな困難に直面するのだろうか?
それでも、私は、ほのかちゃんと一緒に、乗り越えていきたい。
だって、私は、双葉ほのかの、自称「通訳」なのだから。
そして、彼女の笑顔を、誰よりも近くで見守っていきたいと、心から願っているのだから。
「…ほのかちゃん、ごめんね。無理にテニスなんて誘って…」
私は、隣を歩きながら、恐る恐る話しかけた。
「………」
ほのかちゃんは、何も答えなかった。でも、その小さな手が、ぎゅっと握りしめられているのに、私は気づいていた。
「…あの、ほのかちゃん、この後、時間ある…?」
「………」
「…パフェ、食べに行かない?…この近くに、美味しいお店があるんだ。」
私は、精一杯の明るい声で、そう言った。ほのかちゃんは、一瞬、顔を上げた。その瞳には、まだ不安の色が残っていたけど、ほんの少しだけ、興味を示すような光が宿ったように見えた。
「…甘いもの…嫌いじゃなければ…なんだけど…」
「………」
ほのかちゃんは、黙って、小さく頷いた。
駅から少し離れた場所にある、隠れ家のようなカフェ。店内は、落ち着いた照明と、アンティーク調の家具で統一され、どこか懐かしい雰囲気が漂っている。
「…いらっしゃいませ。」
優しそうな女性店員が、私たちを席に案内してくれた。
「…ほのかちゃん、何にする?ここのパフェ、すごく美味しいんだよ!」
私は、メニューを広げながら、ほのかちゃんに話しかけた。ほのかちゃんは、メニューをじっと見つめている。その真剣な表情は、まるで難解な数学の問題を解いているかのようだ。
「…田中さんは…?」
「え?私は…季節のフルーツパフェかな!」
「………」
ほのかちゃんは、再びメニューに視線を落とした。そして、しばらくの間、黙ってメニューを見つめていた。
「…決まった?」
「…これ…」
ほのかちゃんが指差したのは、「苺づくしの贅沢パフェ」。真っ赤な苺が、ふんだんに使われた、見た目にも華やかなパフェだった。
「…苺、好きなの?」
「………コク…」
…また出た、「コク」!…でも、今回は、何となく、その意味が分かったような気がした。
「…じゃあ、決まりだね!すみません、季節のフルーツパフェと、苺づくしの贅沢パフェ、お願いします!」
注文を終えると、店内には、再び静寂が訪れた。ほのかちゃんは、窓の外をじっと見つめている。その瞳には、何を考えているのか、伺い知ることはできない。
「………」
「…あのさ、ほのかちゃん。…さっきは、本当にごめんね。テニスのこと…」
「………」
「…もし、話したくなかったら、話さなくてもいいからね。…ただ、私は、ほのかちゃんのことを、もっと知りたいって思って…」
「………」
ほのかちゃんは、何も答えなかった。でも、その瞳が、わずかに揺れたように見えた。
しばらくして、注文したパフェが運ばれてきた。
「わあ、美味しそう!」
私は、目の前に置かれたパフェを見て、思わず声を上げた。季節のフルーツが、宝石のように、キラキラと輝いている。
一方、ほのかちゃんの「苺づくしの贅沢パフェ」は、まさに圧巻だった。グラスの中には、真っ赤な苺が、これでもかというほど、詰め込まれている。そして、その上には、真っ白な生クリームと、真っ赤な苺ソースが、たっぷりとトッピングされていた。
「…すごい…」
ほのかちゃんは、そう呟くと、スプーンを手に取り、パフェを食べ始めた。その表情は、いつものように無表情だったけど、どこか、幸せそうに見えた。
「…美味しい…?」
「………コク…」
…うん、やっぱり、美味しいんだね!
私も、自分のパフェを食べ始めた。新鮮なフルーツの甘酸っぱさと、生クリームの優しい甘さが、口の中でとろけ合う。
「…美味しいね…」
「………」
ほのかちゃんは、何も言わずに、黙々とパフェを食べ続けている。
しばらくの間、私たちは、黙ってパフェを食べ続けた。店内に流れる、静かなジャズの音楽と、スプーンがグラスに当たる音だけが、響いていた。
「…あのさ、ほのかちゃん。…もし、嫌じゃなければでいいんだけど…テニスのこと、話してくれないかな…?」
私は、思い切って、そう切り出した。ほのかちゃんは、スプーンを動かす手を止め、私の方を見た。その瞳には、戸惑いと、不安と、そして…ほんの少しの、諦めのようなものが入り混じっているように見えた。
「………」
「…無理にとは言わない。…でも、私は、ほのかちゃんの力になりたい…」
「…田中さん…」
ほのかちゃんは、私の名前を呼んだ。その声は、とても小さかったけど、確かに、私の耳に届いた。
「…私…テニスで…」
ほのかちゃんは、そこで言葉を切った。そして、俯いて、ぎゅっとスプーンを握りしめた。
「…人を…傷つけた…」
「え…?」
「…中学の時…試合で…相手に…怪我をさせた…」
ほのかちゃんは、途切れ途切れに、そう言った。その声は、震えていて、今にも泣き出しそうだった。
「…私のボール…速すぎて…相手…避けられなくて…頭に…当たって…」
「………」
「…それから…私…テニス…怖くなって…」
ほのかちゃんは、そう言うと、顔を覆ってしまった。その小さな肩が、震えているのが見えた。
「…ほのかちゃん…」
私は、何と言っていいか分からず、ただ、ほのかちゃんの名前を呼ぶことしかできなかった。
「…だから…もう…テニスは…しないって…決めた…」
ほのかちゃんは、顔を覆ったまま、そう言った。その声は、絶望に満ちていた。
「…でも…五十嵐先生が…」
「え…?」
「…先生…私を…テニス部に…誘ってくれた…」
「………」
「…先生は…私の過去…全部知ってる…それでも…」
ほのかちゃんは、そこで言葉を切った。そして、ゆっくりと顔を上げた。その瞳には、涙が溢れていた。
「…私…もう一度…テニス…したい…」
ほのかちゃんは、そう言って、私の目を真っ直ぐに見つめた。その瞳は、涙で濡れていたけど、確かに、強い意志の光を宿していた。
「…ほのかちゃん…」
私は、ほのかちゃんの手を、そっと握った。
「…一緒に…頑張ろう…?」
「………うん…」
ほのかちゃんは、小さく頷いた。その顔には、まだ不安の色が残っていたけど、ほんの少しだけ、笑顔が浮かんでいた。
この日、私は、初めて、双葉ほのかの過去を知った。そして、彼女が抱える、深い心の傷跡に触れた。
でも、それと同時に、私は、彼女のテニスへの情熱が、まだ消えていないことを確信した。
これから、私たちは、どんな困難に直面するのだろうか?
それでも、私は、ほのかちゃんと一緒に、乗り越えていきたい。
だって、私は、双葉ほのかの、自称「通訳」なのだから。
そして、彼女の笑顔を、誰よりも近くで見守っていきたいと、心から願っているのだから。
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