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第一章 House_management.exe
初めてのLEVEL UP
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王立騎士団は国のために組織された国王所有の集団だが、その他に領主が所有する騎士団が存在している。マーラを襲った騎士たちは、獣人たちの住む森を所有するライアン・バーネル子爵が組織した騎士団に所属していた。騎士団の名前はバーネル騎士団、そのままである。
ライアン・バーネルは武勲によって爵位を授けられた貴族ではない。それは初代もそうである。故に伝統的に剣術どころか運動さえろくにせずブクブクと太った男である。
左手の小指と薬指は幼少期に飼っていた犬に噛みちぎられた。
元はと言えばライアンが犬を虐げたのが悪いのであるが、母親は激昂し、飼い犬は生きたまま皮を剥がれ絶命した。
指は飲み込まれたために回収できず、不自由な生活を余儀なくされたライアンは獣、特に犬を心底恨むようになった。そして成人後は獣人までも恨むようになっていた。
騎士たちにも領内の獣人は見つけ次第殺すように指示している。騎士たちも獣人嫌いを集めていた。
その日騎士団たちに一報が入る。森林内を捜索していた12人の騎士たちが戻ってこない。獣人たちを嫌っているとはいえ騎士は騎士だ。主人への忠誠を誓い、規則は守る。定時に戻ってこないのは異常事態だった。それも12人全員となると、全滅した可能性が高い。
バーネル騎士団長セレナ・ノーサムは事件から一週間後ついに彼らの痕跡を発見した。それは、ユキハルたちが回収しそこねた騎士の胸当てだった。胸当ては木の上の方に引っかかっていたのだ。
おそらく横方向からバリスタの強力な一撃を受けて剥がれたのだろう。バリスタは遠くの敵でも狙って殲滅した。騎士は逃げる途中で殺されたようで、胸当てはユキハルの家から100メートル近くも離れた場所にあった。回収しそこねた理由はその距離にある。ユキハルは死体を運ぶので精一杯だった。
「これより、12人の犠牲を出した敵の調査並びに討伐を行う! 何らかの魔物が射るに違いない! 心してかかるように!」
低く、よく通る声で団長セレナは言い放った。ブロンドの髪が天窓から降り注ぐ光に更に輝いて見えた。頬に深い傷があったがそれでも十分なほど美人であった。
「行くぞお前ら! 正義を執行する!」
男たちの低い声が響いた。
◇
あの出来事――つまり12人の騎士を惨殺してしまった事件――はショックで、俺は2日寝込んだ。騎士たちのあの歪んだ顔が浮かんでは消え、そして時折、高校時代にいじめられていたときのことを思い出した。
人間の重さ、匂い、『解体』のボタンを押したこと。
暴力を振るわれなければそれで良かった。いくら惨めな思いをしたってよかった。
殺すつもりなんてなかったんだ。
幾分落ち着いてそれでも食事は喉を通りそうもなかったから、スープだけを少しだけ口にした。PCを久しぶりに開くと、とつぜんHouse_Management.exeが起動して、
『LEVEL UP』
の文字が大々的に表示された。みると画面右上に
『LV5』
と書いてある。
「LEVEL? ますますゲームみたいだな」
人を殺すのもゲームなのか?
この生活をしていると境界が曖昧になってくる。俺は人を殺すことになれるのが怖い。今回だって俺は直接手を下していない。まるで死刑囚を殺すときのボタンのように。3つのボタンを3人で押して、誰か一人が殺しただけ、自分はやってない。そんな気分に浸りたくなる。支配されたくなる。
「おめでとう!」
いきなりスピーカーからカマエルの声が鳴り響き俺はまた驚いてしまう。
「いきなりLEVELが4つも上がった例は初めてだよ。随分魔物を……いや人を殺したようだね」
「やりたくてやったわけじゃない!!」
「わかっているよアレは事故だ。気に病む必要はない」
カマエルはふふふと笑っている。
「これでダンジョンが作れるようになったね。またチュートリアルを始めよう」
俺は抵抗したかった。初めて指示に従いたくないと思った。マウスを持つ腕が震えた。強化したら、増設したら、また人が死ぬんじゃないか?
「君にはトラウマがあるようだね。記憶を調べたよ。伊ヶ崎や星澤のことも知っている」
名前を聞いた瞬間、恐怖に襲われた。
指示に従え。
指示に従え。
「チュートリアルを、始めよう」
「……はい」
俺はマウスを固く握りしめた。
「LEVELが上がるごとにチュートリアルをはさみたかったんだが、今回は一気にLEVELが上ってしまったからね、要点だけかいつまんで説明するよ」
カマエルは淡々と話しを進める。
「LEVEL5になるとダンジョンが作れるようになる。これからは創造ポイントが大量に必要になるからね。わかっていると思うが創造ポイントは魔石から変換される。魔石は魔物や人から手に入る。ダンジョンは魔物を無限に生成してくれるいわばポイント量産装置だ。しかも実はダンジョンポイントというものがあってそれも創造ポイントに変換できる。君が魔物を倒さなくても誰かが倒せばそれでダンジョンポイントとしてポイントが貯まるわけだ。魅力的だろ」
確かに魅力的ではある。この家に襲ってくる魔物なんて一日に数匹だ。それに取れるポイントも少ない。ポイントが多ければ多いほどできることは増える。
「ちなみに魔法兵器も作れるようになっているから後で確認してみてくれ。さて、ダンジョン生成だが、10000ポイントかかる。ちょうどこの前手に入れたばかりだな。残りの2000ポイントで出現する魔物を強化するなり、ボスを強化するなりすればいい。説明は以上だ。質問は……ないね?」
「はい」
俺は肯いた。
「じゃあ、またLEVEL UPしたときまで」
ぶつりと声は途切れた。
指示だ。
ダンジョンを生成する。
ボタンを押すとどこに入り口を作るかを選べる。塀の中に魔物が湧いても困るので、塀の外、それも少し離れた場所にダンジョンの入口を作ることにした。2000ポイントを使って、魔物をゴブリンからオークに変化させ、ボスをスケルトンナイトに変えた。
創造ポイントは0になった。
そのとき、アラームが鳴り、画面に青いマークが表示された。
ライアン・バーネルは武勲によって爵位を授けられた貴族ではない。それは初代もそうである。故に伝統的に剣術どころか運動さえろくにせずブクブクと太った男である。
左手の小指と薬指は幼少期に飼っていた犬に噛みちぎられた。
元はと言えばライアンが犬を虐げたのが悪いのであるが、母親は激昂し、飼い犬は生きたまま皮を剥がれ絶命した。
指は飲み込まれたために回収できず、不自由な生活を余儀なくされたライアンは獣、特に犬を心底恨むようになった。そして成人後は獣人までも恨むようになっていた。
騎士たちにも領内の獣人は見つけ次第殺すように指示している。騎士たちも獣人嫌いを集めていた。
その日騎士団たちに一報が入る。森林内を捜索していた12人の騎士たちが戻ってこない。獣人たちを嫌っているとはいえ騎士は騎士だ。主人への忠誠を誓い、規則は守る。定時に戻ってこないのは異常事態だった。それも12人全員となると、全滅した可能性が高い。
バーネル騎士団長セレナ・ノーサムは事件から一週間後ついに彼らの痕跡を発見した。それは、ユキハルたちが回収しそこねた騎士の胸当てだった。胸当ては木の上の方に引っかかっていたのだ。
おそらく横方向からバリスタの強力な一撃を受けて剥がれたのだろう。バリスタは遠くの敵でも狙って殲滅した。騎士は逃げる途中で殺されたようで、胸当てはユキハルの家から100メートル近くも離れた場所にあった。回収しそこねた理由はその距離にある。ユキハルは死体を運ぶので精一杯だった。
「これより、12人の犠牲を出した敵の調査並びに討伐を行う! 何らかの魔物が射るに違いない! 心してかかるように!」
低く、よく通る声で団長セレナは言い放った。ブロンドの髪が天窓から降り注ぐ光に更に輝いて見えた。頬に深い傷があったがそれでも十分なほど美人であった。
「行くぞお前ら! 正義を執行する!」
男たちの低い声が響いた。
◇
あの出来事――つまり12人の騎士を惨殺してしまった事件――はショックで、俺は2日寝込んだ。騎士たちのあの歪んだ顔が浮かんでは消え、そして時折、高校時代にいじめられていたときのことを思い出した。
人間の重さ、匂い、『解体』のボタンを押したこと。
暴力を振るわれなければそれで良かった。いくら惨めな思いをしたってよかった。
殺すつもりなんてなかったんだ。
幾分落ち着いてそれでも食事は喉を通りそうもなかったから、スープだけを少しだけ口にした。PCを久しぶりに開くと、とつぜんHouse_Management.exeが起動して、
『LEVEL UP』
の文字が大々的に表示された。みると画面右上に
『LV5』
と書いてある。
「LEVEL? ますますゲームみたいだな」
人を殺すのもゲームなのか?
この生活をしていると境界が曖昧になってくる。俺は人を殺すことになれるのが怖い。今回だって俺は直接手を下していない。まるで死刑囚を殺すときのボタンのように。3つのボタンを3人で押して、誰か一人が殺しただけ、自分はやってない。そんな気分に浸りたくなる。支配されたくなる。
「おめでとう!」
いきなりスピーカーからカマエルの声が鳴り響き俺はまた驚いてしまう。
「いきなりLEVELが4つも上がった例は初めてだよ。随分魔物を……いや人を殺したようだね」
「やりたくてやったわけじゃない!!」
「わかっているよアレは事故だ。気に病む必要はない」
カマエルはふふふと笑っている。
「これでダンジョンが作れるようになったね。またチュートリアルを始めよう」
俺は抵抗したかった。初めて指示に従いたくないと思った。マウスを持つ腕が震えた。強化したら、増設したら、また人が死ぬんじゃないか?
「君にはトラウマがあるようだね。記憶を調べたよ。伊ヶ崎や星澤のことも知っている」
名前を聞いた瞬間、恐怖に襲われた。
指示に従え。
指示に従え。
「チュートリアルを、始めよう」
「……はい」
俺はマウスを固く握りしめた。
「LEVELが上がるごとにチュートリアルをはさみたかったんだが、今回は一気にLEVELが上ってしまったからね、要点だけかいつまんで説明するよ」
カマエルは淡々と話しを進める。
「LEVEL5になるとダンジョンが作れるようになる。これからは創造ポイントが大量に必要になるからね。わかっていると思うが創造ポイントは魔石から変換される。魔石は魔物や人から手に入る。ダンジョンは魔物を無限に生成してくれるいわばポイント量産装置だ。しかも実はダンジョンポイントというものがあってそれも創造ポイントに変換できる。君が魔物を倒さなくても誰かが倒せばそれでダンジョンポイントとしてポイントが貯まるわけだ。魅力的だろ」
確かに魅力的ではある。この家に襲ってくる魔物なんて一日に数匹だ。それに取れるポイントも少ない。ポイントが多ければ多いほどできることは増える。
「ちなみに魔法兵器も作れるようになっているから後で確認してみてくれ。さて、ダンジョン生成だが、10000ポイントかかる。ちょうどこの前手に入れたばかりだな。残りの2000ポイントで出現する魔物を強化するなり、ボスを強化するなりすればいい。説明は以上だ。質問は……ないね?」
「はい」
俺は肯いた。
「じゃあ、またLEVEL UPしたときまで」
ぶつりと声は途切れた。
指示だ。
ダンジョンを生成する。
ボタンを押すとどこに入り口を作るかを選べる。塀の中に魔物が湧いても困るので、塀の外、それも少し離れた場所にダンジョンの入口を作ることにした。2000ポイントを使って、魔物をゴブリンからオークに変化させ、ボスをスケルトンナイトに変えた。
創造ポイントは0になった。
そのとき、アラームが鳴り、画面に青いマークが表示された。
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