Distortionな歪くん

Sia

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Distortionな歪くん 05 「理解できない」

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Distortionな歪くん 05 「理解できない」

 キーンコーンカーンと四時間目の授業に終わりを告げるチャイムがなる。

 「えー、という事で授業を終わります。ちゃんと予習してこないと『まっしょー』しちゃうぞー」

 科学の授業を担当していた教師はなんと、入学式の日に正門であったあの、老眼鏡の男性であった。 

 その教師は、そう言うと教室から厚い出席簿のような物を大事そうに持って、出て行った。

                                     まつの しょう
  特徴的な口癖の名前は、松野 翔。
 歪くん曰く、なんらかの“異能”を持っているらしい。(名前は若々しい感じだが、割と老けている)

 「授業終わったー!」
 「屋上いこうぜ!屋上!」
 「じゃあ、屋上で飯食うか」

 昼休憩の時間になって、「1-A」の生徒は、颯爽と今では珍しく解禁されている屋上へと向かっていった。廊下にも同じことを考えているような、生徒達が弁当を持って走っているのが見える。
気づけば教室には片手で数える程の人数しか、居なくなっていた。


 あれ?
 なんで、歪くんは先生が“異能”を持っているのを知っているんだ?
 わたしの中に素朴な疑問が浮かんだ。
 
わたしは席を立ち上がり、まだ寝癖が直っていない歪くんの席に向かう。 

 「ね、ねぇ、歪くん。なんで松野先生が“異能”を持ってるってわかったの?」

 歪くんはノートを書き終えて、弁当を用意しているところだった。

 「なんでってねー。うーむ。強いて言うなら、感覚?雰囲気的なあれ?それとも、主人公補正?はたまた“異能”を持つ者の性かな?」

 歪くんはそう言いながら弁当を開いて、顎に手を当てて少し得意げにわたしに説明する。

 「例えば、どんな感じの人なの?」

 わたしは首を傾げて聞いてみる。すると歪くんは、まだ何人か残っているが、すっかりもぬけの殻となってしまった教室に目をやる。そこで歪くんは一人の男子生徒に指を指した。

 「あいつとか」

 わたしは、歪くんが指をさした男子生徒を見る。
 その男子生徒は、机に突っ伏して腕を枕代わりにして寝ていた。その男子生徒には覚えがあった。

                しらぬ  
 「あー、志等奴さん。確か入学式の時力動先生が“異能”がなんとかって、言ってたね」

 「イエス。でも志等奴くんは、なんかおもしろそうな“異能”っぽいんだ。直感的にねぇ」

 歪くんは、なんだか「直感的にーー」のあたりで不敵な笑みを浮かべた。
 すると歪くんは、開けたばかりの弁当の蓋を閉めて、

 「なんなら聞いてみよっか。志等奴くんに…」

 歪くんは席から立ち上がり、志等奴さんの方へ歩いていく。わたしもその後を追う。

 「しーらーぬーくぅーん!君の“異能”ってなぁーにぃ!?」

 「わ」

 歪くんは彼の机の横で、大声で反り返り、満面の笑みで奇怪な動きをとる。わたしはついその奇行に驚いてしまう。
 
 「ぅわっ!うわっ!びっくりした!」

 志等奴さんはまず歪くんの大声に驚き、次に目を開けた先にいる満面の笑みに飛び上がって驚いた。

 「なんだょぉ、急にぃ…?心臓に悪りぃなぁ…」

志等奴さんは寝起きの首のストレッチをしながら、苦言を漏らす。

 「…?…って、お前!『正門右手どハマり事件』の…!?」

 志等奴さんは、関わりたくなさそうな表情になる。それを見て、歪くんは、

 「グーテンターク!志等奴くん!僕の名前はーー」

 「ーー征上 歪だろ?それくらいは、俺でも分かる」

 「…」

 渾身の自己紹介に横槍を入れられ、少し不機嫌にそのままのポーズで固まる歪くんを正面に、志等奴さんは頭の右側にできた寝癖を気にしながら、立ち上がる。

 「ところで!君の“異能”ってなーにぃー?」

 歪くんは元の体制に戻り、続けて志等奴さんに質問する。
 しかし、志等奴さんは関わりたくなさそうに、

 「悪りぃな、俺、あんま目立つの嫌なんだわ。だから、お前の近くにいるとこう…目立っちゃうから、な、な?」
 
 歪くんはそれを聞くと、手を「グッジョブ」の形にして、

 「大丈夫!僕は、目立つのに慣れてるから!!
 だーかーら。教えてくれたっていいじゃん!減るもんじゃあないんだからさぁー」

 歪くんは、志等奴さんの体をペタペタと、変態じみた触りかたをして、顔をもう鼻が当たりそうなところまで近づける。

 「わー!キモイ!やめろ!ゼロ距離は、やめろー!!」

 振り払おうと、志等奴さんは歪くんの顔に右ストリートをかます。それをもろに食らった歪くんは、机や椅子を巻き込んで黒板まで吹き飛ばされる。

 「ひっ、歪くんー!?」

 「あ、悪りぃ!春休み暇だったから、筋トレみたいなのしててさ…ここまでとは、思はなくってよ…」

 黒板に少しめり込んだ歪くんはバタッと、教室の床に落ちる。が、歪くんはゆっくり奇怪な動きで立ち上がり、

 「大丈夫だよ、平輪さん…あ、あと志等奴くんも………」



 「怒ってないから…!!」

 「いや、怒ってるだろ!?」



 歪くんは虚ろで、殺気に満ちた目を、志等奴さんに向ける。

 パッと、散らかった教室が歪くんの、吹き飛ばされる前に戻る。
 断谷の時同様に、「歪む現実」で、教室が散らかる前の映像に貼り付けたのだ。

 歪くんも、吹き飛ばされる前の無傷な状態に戻っていた。

 「あれ?…歪くん…『歪み現実』は、自分が見た映像を貼り付けれるんだよね?」

 「…うん」

 歪くんは、目だけをわたしに向け、返事をする。
                                
 「じゃあ、なんで、自分を見てないのに無傷の状態に戻ってるの…?」

 歪くんはクルッと、わたしの方に体も向ける。
 志等奴さんは、一時的な中断にどこかホッとしている。

 「うーむ、そうだね…『歪む現実』は、そもそも『時間軸に干渉する“異能”』なんだよ。つまり、僕が『攻撃を受けた映像』を見ていて、次に『無傷の時に見た映像』を貼り付けると、あら不思議。なんと『攻撃を受けた映像』に矛盾が生まれて存在出来なくなって消えちゃうんだ。だから結果的に、『無傷の時に見た映像』が残って、僕が無傷な状態になれるんだぁ!」

 「なるほど」

 わたしは“異能”にはそんな使い方があるのだと、頷く。
  得意げに自分の“異能”を説明した歪くんは、またクルッと志等奴さんの方を向く。
 
 
 「…えーっと、まぁとにかく、“異能”は応用が利くってことか…なんとなく分かった」

 志等奴さんは、いまいちピンときてないようだったが、戦闘態勢をとった。
 それを見た歪くんはスッとポケットに両手を入れた。目が鋭くなっている…歪くんは“異能”を使う気だ…

 「いくよ…?歪む準備はできたかな?」

 「ちょっと…わかんねーな…!?」

 「ね、ね、ね、ちょっ、ちょっとやめようーー」



 ザクッ


 瞬きをするかのごとく、一瞬で彼の全身に無数の刃物やペン、コンパスが刺さる。

 「えっ、ちょっと歪くん!やりすぎだよ!」

 「ははは。不正はなかったよ?平輪さん。どーせすぐ僕の『歪む現実』で元に戻せるから。」

 悪びれもなく歪くんは、残酷なことをサラッと貼りついた表情話す。が、わたしに向けられたその表現は、何故か無邪気に笑っているようにも見えた。
 どうしてこんなことが言えるのだろうか…わたしには理解できない…

 「…そういうことじゃなくて…」

 「ん?でも大丈夫そうだよ?ほら」

 歪くんは目を細めて、無傷な状態の彼の方を向く。

 「お前いきなりで、マジでびっくりするだろ。だからよ、
?お前が何をしたのか分からなかった?じゃねーか」

 「え?歪くん、『歪む現実』もう使ったの?」

 わたしの質問に対して、歪くんはなるほど、と手のひらにポンっとグーを置いて、

 「やっぱり、面白い“異能”じゃないか!やっと見せてくれたんだね!うれしーなぁー嫌いじゃないぜ?」

 志等奴さんはそう言う歪くんに、右脚の鋭い蹴りを入れる。それを歪くんはターンするように避ける。

 「『面白い』か…まぁ、解いてみろよ…!俺の“異能”『理解できない』[ノット・アンダースタンド]を……!!」

 彼は来いよっと、人差し指で歪くんに挑発する。

 Distortionな歪くん 05 「理解できない」 完
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