とりあえず、神に誓ってみて?

あんど もあ

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とりあえず、神に誓ってみて?

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「リリアナ・フェルモット公爵令嬢! お前とは婚約破棄する!」

 王立学園の卒業パーティーで、エスター王太子の声が響き渡った。



「お前はこのアニタ・バンクス男爵令嬢の教科書を破り、ドレスを切り裂き、噴水に突き飛ばし、階段から突き落とすという虐めをはたらいた! そのような女に国母となる資格は無い!」
 エスターの横にはアニタが縋り付くように立ち、その後ろの四人の男女が「私は見ました!」と口々にリリアナを弾劾している。

 だが、肝心のリリアナは、他人事のようだ。
「よって、婚約を破棄する!」
「はい。……終わりました? じゃここで」
 帰ろうとするのを慌てて引き留める。
「リリアナ! 罪を認めろ!」
「嫌ですわ? やってもいないのに」
「これだけ証人がいるんだぞ!」
「えっと……、たった四人ですわよね? 四人以外のここにいる人は全員“見ていない証人”になりますけど」
「そんな証人があるか!」

「はあ……面倒くさい。アニタ様。私に虐められたって、神に誓えます?」
 いきなり話をふられてひるんだアニタだが、
「ち、誓えます!」
と言い返す。リリアナはにっこり笑って
「じゃあ今、誓ってください」
と言った。

 お互いに向き合って左手の手のひらを重ね、残った右手を右肩の高さに上げる。
「私、アニタ・バンクスは、リリアナ・フェルモットに虐められていた事を神に誓います!」

 沈黙の後、アニタが勝ち誇った顔をした次の瞬間、アニタは咳き込んだ。慌てて口に当てた手の間から血が吹き出す。
 女生徒たちの悲鳴が響き、リリアナがアニタの口にハンカチを当てるが、みるみる赤くにじんでくる。
 脱力して真っ青なアニタを、駆けつけた男性教師二人が支えた。

「リリアナ! アニタに何をした!」
「何もしておりませんわ。ご自分で見てらしたでしよう」
「お前には魔力があるだろう!」
「私が使えるのは、弱い水魔法です。殿下のような攻撃魔法は使えません」
「じゃあ、何故こんな事が…」
「偽りを神に誓ったので、喉が焼けたのでは?」
 その言葉にアニタが気を失い、ぐったりしたアニタを抱えて教師たちは医務室へと走り去った。

「では、次に虐めを目撃したと言う方。ヨーク子爵令息ですわね」
「…………」
 彼は、真っ青な顔にあぶら汗を流しながらエスターの後ろに隠れている。意地でも一歩も動くまいとしているので
「それでは ジュラン男爵令息? イダール男爵令嬢? モーリッツ男爵令嬢?」
と、次々と呼ぶが誰も動かない。

「……ふう。これで私の疑いは晴れましたわね。では、失礼いたします」
 リリアナは一礼して背を向けるが、振り返って
「そうそう、婚約破棄、承りました。これからは神に見放された者同士でお幸せに」
と、言い残して去って行く。

 呆然と成り行きを見ていた者たちも、慌てて会場を去る。『神に見放された者』に巻き込まれたく無い。
 誰もいなくなった広いパーティー会場に、エスター達だけが残された。




 宰相をしているリリアナの父は、今日は珍しく早く帰宅して書斎にリリアナを呼んだ。


「卒業パーティで何があったかは報告が来たよ。何をしたか、を話しなさい」
「私はただ、水魔法でアニタ様の歯ぐきの傷から血を吹き出させただけですわ。幼いころ、物語の悲劇の姫ごっこをする時によくやっていましたの。吐血は少女の夢ですわ」
「……自分の血だけでやろうね。おかげで王太子が神の加護を失ったと大騒ぎだ」

「学園を卒業したのに、王妃に就職が無くなってしまいましたわ……」
「王太子との結婚を『王妃に就職』と言わないの。これだから、アニタたちが“可哀相な政略結婚”と思いこむんだよ」
「まあ! 私、可哀相と思われてましたの?」
「可哀相なのはお前ではなくエスター殿下ね」
「殿下が? ……何が可哀相なんですの? 私との結婚が嫌なら婚約解消して、アニタ様と婚約するだけですのに。アニタ様なら、成績も人格も問題ありませんわよ?」
「アニタは男爵家でな」
「殿下のひいおばあさまも男爵家のご出身ですわよね」
「それを知らなかったようでな……」
「……まさか。じゃあ、男爵令嬢と王子は結婚できないと思い込んで、あんな茶番をしたわけですか……?」
「エスター殿下は、王位継承権を剝奪となったよ。何せ、皆の前で神を裏切った」
「愚かですわねぇ」
「どこか小さな領地を与えて、アニタと他の家を追い出された者たちと住むことになるだろう」
「もう他人ですから、どうでもいいですわ」

 そんな事より大事な事がリリアナにはある。
「王妃になれない時は、次期宰相にしてくれる約束ですわよね!」
「『次期宰相』ではなく、『宰相補佐室の補佐官の補助』だ。宰相は世襲制ではない」
「いずれ宰相になりますわ」
「皆、実力で上がって来た者ばかりだ。お前より優秀だぞ」
「望むところです」
「既婚者でなければ、誰と恋してもいいぞ」
「はあ?」


 父は、この優秀だが情緒欠落娘に恋をしてもらいたい、と思っているのだが。

 思い通りに行くかは、また別の話。
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