さっさと婚約破棄しやがれ

あんど もあ

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さっさと婚約破棄しやがれ

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「ジュリアナ・マルテス公爵令嬢! お前とは婚約破棄する!」
 王立学園の卒業パーティーで、リューク王子の声が響き渡った。


 数日後、私ジュリアナと父マルテス公爵は、城の一室で国王陛下夫妻とリューク王子と対面していた。
 陛下と父が、黙々と書類を片づけていく。間もなく、幼いころからの私とリューク王子の婚約が解消されるようだ。

 ふと窓を見ると、外は奇麗な青空。こんな風に空を見上げるのなんて何年ぶりだろう。
 私はすっと窓に近づき、

 そのまま身を投げた。



 気が付くと、王立学園の馬車止めに立っていた。ガラガラと音を立てて、王家の紋章が付いた馬車が去っていく。
 そして、私の横にはリューク王子。後ろに護衛が控えている。

「これは……」
 思わず手を見る。傷一つ無い。着ているのは学園の制服だ。
「ジュリアナ、なのか? 死んだのでは…?」
 隣のリューク王子が目を見開いている。
「どうやら、三年前に戻ったようですね」
 周りの様子から、これから入学式のようだ。突っ立っていても迷惑なので会場を目指して歩き出す。
「な、何なんだ? 『戻った』って!」
 慌てて付いてくる王子。
「知りませんわ。死んだのは初めてですもの」
 王子を放ってずんずん進む。ちょっと待て!という声が聞こえるが、知るか。

 多分、私が死んだ事で王子の起こした醜聞を抑えきれないと思った王家が、王家の秘術「時戻り」を使ったのだろう。
 王家の血を引いた王子が術を使ったが、時が戻ったら術を覚えていない頃に戻ってしまったという事か。

 後ろから「キャアッ!」という可愛い声がした。
 振り返ると、平民ながら治癒魔法に目覚めて聖女判定された少女が王子にぶつかっていた。
 あーあ、またこの流れか。
「ご、ごめんなさい! 私ったら」
 ペコペコ頭を下げて、可愛らしく去っていく聖女。
「生まれ変わってもまたぶつかるのだな…」
と、うっとりしてる王子に
「そんなわけ無いでしょ。馬鹿じゃない」
と、遠慮ないツッコミを入れる。
「今回は私たち、会場に行く近道を歩いてるのよ。何で聖女様がここにいるのよ。わざとに決まってるじゃない。まったくチョロイんだから」
 王子がびっくりしてる。一度死んだ私に怖い物は無い。礼儀なんて知った事か。

 私たちの婚約破棄の原因になった聖女。
 二度目はもう聖女にも王子にも関わり合いたくない。
「今日、城に戻ったら陛下に婚約解消を申し出てくださいね」
 王子がさらにびっくりしてる。
「あなたの傍にいるのも、もうウンザリなんです。二度と声を掛けないで。さっさと他人に戻らせてください」
「ジュ、ジュリアナ…」
「まあ、解消できなきゃまた飛び降りればいいだけですけど」
 私の本気度を知って青くなってる王子を置いて会場に向かった。



 案の定、王子は婚約解消を進めることも無いまま、聖女と親密になって行った。
 私から陛下に何度婚約解消を申し入れても受け入れてもらえない。
 懲りない王子が私に話しかけても塩対応するので、学園の皆も私が嫌がっているのを勘づいてる。空気を読まない聖女だけが「ひどいです!」と騒いでいるけど。


 放課後、人気のない別学舎の空き教室に向かう。廊下に立っている護衛で、教室の中で誰が何をしているか皆にバレバレだ。
 護衛を目線で黙らせて、小さくドアを開けて中に滑り込む。

 中では予想通りの淫らな光景が広がっていた。思いっきり声を出す。
「リューク様! ひどいです!」
 むつみあっていた男女が飛び起きる。
 乱れた服装のまま
「ま、待てジュリアナ! これは誤解だ! 私の妃はお前しかいない!」
と、予想通りの反応をする王子。
 「これは遊び」「今だけ」「将来はお前と」など、前回言われた言い訳をドアの外で耳を澄ませているだろう護衛に十分に聞かせたところで、机の間に隠しておいた剣を取り出し、王子の胸に突き刺す。

 何が起こったか分からない、という顔のまま召される王子。固まっている聖女を無視して
「リューク様ー!! 誰か、誰か来てーーー!」
と、王子を抱きしめて叫ぶ。

 護衛が飛び込んでくる。
「聖女様が! 聖女様がリューク様を! ああっリューク様ぁぁ!」
 しどけない恰好のまま聖女が拘束された。



 もう動くことのないリューク様。あなたは、私が自殺するほどあなたの事を好きなのだと信じていたのでしょうね。
 ねえ、あなたは一度も聞かなかったけど、私が窓から飛び降りたのは、あなたの婚約破棄のせいで私は50歳も年上の男の後妻になる事に決まったからなのよ。きっと結婚しても数年後には夫が死んで、夫の息子に邪魔にされながら屋敷のすみで小さくなって死ぬまで生きなくてはならない人生が目に見えたわ。

 あなたは、高位貴族の娘が釣り合う結婚相手を見つけるのがどれだけ大変か知らない。幼いころに婚約するのは、早く相手をキープしておく意味もあるのよ。
 だから、聖女と遊んでも私と結婚するならと目をつむったわ。それを、一番最悪な状況であなたは裏切った。
  
 せめて、二度目は早めに婚約を解消してくれればいいのに、また聖女と関係を持ったのね。王家としては、聖女の純潔を奪ったあなたを聖女の夫にするしかないのよ。
 そして、円満な婚約解消だと思わせるために私は急いで結婚相手を決めなくてはならない。
 

 何度私を真実の愛のために婚約破棄される公爵令嬢にするの?

 

 だから、気付いたの。





 死ぬのは私じゃなくてもいい、って。

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