もうすぐ春ですね

あんど もあ

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後編

 面倒くさそうに返事をした私に構う事なく、得意げな顔をしたデニス・ジーモンが叫ぶように言う。
「お前は身体を使って伯父様を籠絡したんだろう! お前の伯父様を見る目は親子じゃ無かった! お前と伯父様は男女の関係だった!」
 おや、ちょっとは鋭いようですね。
「そんな汚らわしいお前だが、結婚してやろう! 俺に尽くせば黙っていてやる!」
 前言撤回。

「はあ…。本当に馬鹿ですね。そもそも私とルーファス様の関係は誰にも隠していませんよ。皆が知っています」
「恥知らずな! 伯父様の評判を貶めるつもりか! 養女を愛人にするなんて汚らわしい関係を!」
「残念、逆ですよ。養女を愛人にしたのではなく、恋人を養女にしたんです」
「は?」
「もし私とルーファス様が結婚したら、ルーファス様の亡き後、私は『子供の成せなかった妻』としてあなたに追い出されるのが目に見えてますでしょう? ジーモン家の全財産を円滑に受け取るには養女になるのが一番だったんです」
「………なぜ、そんなことを…」
「ふふっ、ルーファス様の考えた復讐ですよ。まあ、私には『復讐』と言うより『イタズラ』レベルだと思うのですけど」
「復讐…?」
「まあ! あれだけ『さっさと死んで爵位と財産をよこせ』という態度をとっておいて、恨まれていないと思っていたのですか?」
「………」
「ルーファス様が余命幾許いくばくも無いと知ったら、あなたたちはこれから手に入るお金を当てにして贅沢するでしょう? 今まで我慢させられていたのだから当然だ、というように。そして、ルーファス様が亡くなって幸せの絶頂になった時、自分たちに全くお金が入らないと知るのです。残るのはたくさんの借金だけ。さて、あなたたちは借金取りから逃げのびられるでしょうか? それとも捕まって生き地獄になるでしょうか? これがルーファス様の考えた復讐。だから、私はルーファス様の『妻』ではなく『養女』になったのです」 
「………」
「でも、逃げのびられたら復讐にならないでしょう? ルーファス様はやっぱり甘い人だと思ったのですが…、なぜここにいるんです?」
 青い顔のデニスは一言も発せない。
「言う事が無いのでしたらお帰り下さい。じゃないと警備兵を呼ぶことになりますよ、平民風情」
 壊れたゼンマイ仕掛けのようにぎくしゃくとした動きでデニスが去っていく。カジノの借金はどれくらい膨れ上がったのだろう。


 私は再びルーファス様の肖像画を見上げる。
 13歳の私を引き取って、一人前に育ててくださった人。「孤児院では優秀」なんて、世間に出れば凡庸に毛が生えた程度だと打ちのめされても、ルーファス様が導いてくれたから腐らずに努力できた。
 いつしか身分違いの思いを抱いてしまったが、「こんな私に、ありがとう」と言ってくれた。「人生で最高の贈り物だ」と。


 デニスには言わなかったが、ルーファス様の計画には続きがある。

「コレット。君がジーモン男爵家を継いでくれたら、君は家を断絶させないために新しい恋をするだろう? その人とは子供を授かるかもしれない。きっと、家族に囲まれた幸せな人生を送れる」
 今はそんな幸せなど考えられない。

「私はそばにいられないけど、君の幸せを祈っているよ」
 あなたがいてくれれば、それだけで良かったのに。



 もうすぐ春です。まずはキール様にお会いしてテンツ織を入手しましょう。
 私は面会申し込みの手紙を書き始めた。

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