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壱
王都の外れの農業地帯(通称・村)のそのまた外れの、後ろは森に続く古く小さな家に、私は一人で住んでいる。
朝日がさす大きな窓の下で刺繍をしていると、遠くから馬の蹄の音が聞こえてきたので出迎えに向かう。
ドアを開けると間もなく馬に乗ったジェイクが庭に走り込んで来た。私より二歳年上の大柄な男が馬から降りる。黒髪が風で乱れている。
「よお、アイリス。ご希望の物を買ってきたぜ」
「ありがとう、ジェイク! 助かるわ」
馬に積んである小麦粉や卵や砂糖を受け取る。市場でする買い物も楽しいのだが、重い物は家に運ぶまでに腕がもげそうになるので、時々ジェイクに買い物をお願いしている。
「新しいクッキーが成功したら持って行くわね。マーサおばさんと試食してみて」
品物代に足代を足した金額をジェイクに渡す。
「新しいクッキーか。アイリスはすごいな」
「すごく無いわよ。本を見て作るんだもの」
ジェイクが荷物運びを手伝ってくれる。
「うちの母親なんて本なんて見ないで適当に作ってるよ」
「見ないで作れる方がすごいのよ」
テーブルの上に荷物を置くと、ジェイクは私のやりかけの刺繍に目を留めた。
「相変わらず細かい刺繍だな。よく出来るもんだ」
「ふふっ、そう見えるけど実際は同じモチーフを組み合わせてるだけなのよ」
私は没落貴族の娘アイリス、23歳。五年前からここに住み、刺繍で生活している。
刺繍と言っても、貴族用の繊細な物では無く、平民の服の布の補強のためのもの。子供服や作業着を丈夫に、華やかにしている。
デザインは他国の民族衣装を参考にした。複雑なモチーフを組み合わせるデザインで、組み合わせ次第で小さな子供服でも大人の作業用チュニックでも合わせる事ができる。モチーフには複数の色の糸を使うので、服の色やデザインに合わせて糸を選べば、出来上がる種類は無限大なのが受けている。
最近は、農業の片手間に刺繍をしたいという女性たちに教えてもいる。まだ商品にできるレベルでは無いが、家族は喜んで着ているそうだ。
そんな時、遠くからガラガラという音が聞こえた。
「馬車が近付いてくる音がするぞ?」
二人で外に出ると、朝日にキラキラ輝く馬車が家に向かって走って来るのが見える。
「……あの派手な馬車は…」
近くになると紋章が外されているのが見えるが、キラキラするあの螺鈿細工は王家の馬車だ。
うちの先には家は無い。目指すはここだろう。
案の定、うちの前に馬車が止まり、中から騎士服を着た男性が身軽に降りた。
こちらに近付いて来ると、それは私より一、二歳年下の、明るい栗色の髪に綺麗な青い瞳の、人懐こそうな笑顔の青年だと分かった。
彼は私の前に来ると一礼する。
「突然失礼します。アイリス嬢ですね?」
瞳が朝日に反射して金色に光った。
「どうぞアイリスとお呼びください。私は今は平民ですので」
「それではアイリスさん。私の事はカールとお呼びください」
「お心遣いありがとうございます。ですが、私には過ぎたお申し出ですので遠慮させていただきます」
苗字を言えよ! 貴族に名前呼びなんか出来るか!
「アイリスさん、王城に呼び出しです」
と、羊皮紙をわたす。開けてみると、確かに私宛で、王城に参内するよう書かれている。しかも今日。
「急ですわね。私は王に謁見できるようなドレスを持っておりませんわ」
「もう王城に王はいませんよ。いるのはベータムの役人だけです」
そうだった。
昨年即位したアルファス王国の若き王は、今年隣国ベータム王国に戦争を仕掛け、あっさり敗北した。王族は皆処刑されたらしい。
ベータムの役人が私に何の用なのか。
何にせよ「行かない」と言う選択肢は無い。城まで片道2.3時間なので、一日潰れるなぁ。
私は、念のため一着だけ持っていた飾りの無いシンプルな紺色のドレスに着替えて、長い金色の髪をハーフアップにする。
心配するジェイクに安心するように言って、馬車に乗り込んだ。
朝日がさす大きな窓の下で刺繍をしていると、遠くから馬の蹄の音が聞こえてきたので出迎えに向かう。
ドアを開けると間もなく馬に乗ったジェイクが庭に走り込んで来た。私より二歳年上の大柄な男が馬から降りる。黒髪が風で乱れている。
「よお、アイリス。ご希望の物を買ってきたぜ」
「ありがとう、ジェイク! 助かるわ」
馬に積んである小麦粉や卵や砂糖を受け取る。市場でする買い物も楽しいのだが、重い物は家に運ぶまでに腕がもげそうになるので、時々ジェイクに買い物をお願いしている。
「新しいクッキーが成功したら持って行くわね。マーサおばさんと試食してみて」
品物代に足代を足した金額をジェイクに渡す。
「新しいクッキーか。アイリスはすごいな」
「すごく無いわよ。本を見て作るんだもの」
ジェイクが荷物運びを手伝ってくれる。
「うちの母親なんて本なんて見ないで適当に作ってるよ」
「見ないで作れる方がすごいのよ」
テーブルの上に荷物を置くと、ジェイクは私のやりかけの刺繍に目を留めた。
「相変わらず細かい刺繍だな。よく出来るもんだ」
「ふふっ、そう見えるけど実際は同じモチーフを組み合わせてるだけなのよ」
私は没落貴族の娘アイリス、23歳。五年前からここに住み、刺繍で生活している。
刺繍と言っても、貴族用の繊細な物では無く、平民の服の布の補強のためのもの。子供服や作業着を丈夫に、華やかにしている。
デザインは他国の民族衣装を参考にした。複雑なモチーフを組み合わせるデザインで、組み合わせ次第で小さな子供服でも大人の作業用チュニックでも合わせる事ができる。モチーフには複数の色の糸を使うので、服の色やデザインに合わせて糸を選べば、出来上がる種類は無限大なのが受けている。
最近は、農業の片手間に刺繍をしたいという女性たちに教えてもいる。まだ商品にできるレベルでは無いが、家族は喜んで着ているそうだ。
そんな時、遠くからガラガラという音が聞こえた。
「馬車が近付いてくる音がするぞ?」
二人で外に出ると、朝日にキラキラ輝く馬車が家に向かって走って来るのが見える。
「……あの派手な馬車は…」
近くになると紋章が外されているのが見えるが、キラキラするあの螺鈿細工は王家の馬車だ。
うちの先には家は無い。目指すはここだろう。
案の定、うちの前に馬車が止まり、中から騎士服を着た男性が身軽に降りた。
こちらに近付いて来ると、それは私より一、二歳年下の、明るい栗色の髪に綺麗な青い瞳の、人懐こそうな笑顔の青年だと分かった。
彼は私の前に来ると一礼する。
「突然失礼します。アイリス嬢ですね?」
瞳が朝日に反射して金色に光った。
「どうぞアイリスとお呼びください。私は今は平民ですので」
「それではアイリスさん。私の事はカールとお呼びください」
「お心遣いありがとうございます。ですが、私には過ぎたお申し出ですので遠慮させていただきます」
苗字を言えよ! 貴族に名前呼びなんか出来るか!
「アイリスさん、王城に呼び出しです」
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「急ですわね。私は王に謁見できるようなドレスを持っておりませんわ」
「もう王城に王はいませんよ。いるのはベータムの役人だけです」
そうだった。
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ベータムの役人が私に何の用なのか。
何にせよ「行かない」と言う選択肢は無い。城まで片道2.3時間なので、一日潰れるなぁ。
私は、念のため一着だけ持っていた飾りの無いシンプルな紺色のドレスに着替えて、長い金色の髪をハーフアップにする。
心配するジェイクに安心するように言って、馬車に乗り込んだ。
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