義務ですもの。

あんど もあ

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義務ですもの。

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「お前を愛する事は無い。私が愛するのはアンナだけだ。お前は、家のために子を産み育てるための妻だ」
「はい。分かっております」

 これが、私たちが結婚初夜に交わした言葉。


 私の旦那様となった人には、長年愛しているアンナ様がいる。だが旦那様は伯爵家嫡男、アンナ様は平民。結婚を許される訳がない。
 旦那様は、家の決めた結婚相手と結婚する事にした。伯爵家嫡男の義務だ。
 しかし、アンナ様と別れる事は無く、愛人とした。

 そして結婚相手に決まった私も、愛人のいる夫を受け入れた。親に従い、家の結びつきのために嫁ぐのは貴族令嬢の義務だ。


 そう、義務だから。



 私は旦那様を支え、家政を仕切り、社交をして人脈を作り、家を盛り立てた。例え夫婦の結婚記念日や私の誕生日を狙ってアンナ様が旦那様を呼び出しても、笑顔で送り出した。妻の義務だ。

 子供は、最初に男の子、二年後に女の子を授かった。旦那様は子供に興味を持たず、アンナ様を優先していたので、私が一人で育てた。家族で出かける予定の日にはたいていアンナ様が旦那様を呼び出してしまうので、泣く子供たちをなだめて父親の分も愛した。母親の義務だ。

 そんな私に旦那様のご両親は深く感謝して下さり、「あんな息子で申し訳ないが、あなたが嫁いでくれて本当に良かった」と言ってくれた。私の実家の事業を優遇してくださり、私は実家の人たちに感謝された。そんなお二人には感謝しかなく、親身になってお二人を最期まで看取った。嫁の義務だ。

 旦那様の母親を看取り、数年後父親を看取った野辺送りの後、実家の両親に帰って来ないかと言われた。伯爵夫妻のお願いを断りきれず愛人のいる男に嫁がせたが、もう離縁していいのではないかと。


 私は、両親の申し出を断った。




 外出の準備をして屋敷の玄関で迎えを待っていたら、偶然旦那様が通り掛かった。
「出掛けるのか」
「はい。ヘレンズ子爵様とバラ園の散策の約束をしてますの」
「ヘレンズ子爵? まさか二人きりでか?」
「はい」
「何を考えているんだ! 夫以外の男性と二人きりなど」
「アンナ様はいつもそうではありませんか?」
「それとこれは別だ! ヘレンズ子爵と言えば、女性に手が早い事で有名なんだぞ!」
「はい。殿方に口説かれるなんて初めてなので、とても楽しみですの」
 旦那様が唖然としている。反対に、控えていた執事と侍女が慌てている。

「お前は、そんなふしだらな女だったのか?」
「まあ、旦那様も同じ事をしているのに『ふしだら』だなんて。私も、一度くらい好きな人に抱かれてみたいのですわ」
「…私を好きでは無いのか?」
「旦那様とは義務ですわ」
 旦那様が絶句している。執事と侍女は「あーあ」という顔だ。何故かしら。

「私は、妻として母として嫁として充分義務を果たしたと思いますのよ。これからは恋愛を楽しみたいと思います」
「ま、待て。子供にはまだ母親が必要だ」
「二人とももう王立学園に通う年齢ですよ。それに、あなたを見て育ったので、『親は自分より愛人を優先するものだ』と思ってます」
「優先など…!」
「愛人の我儘のために子供との約束を反故ほごにして、子供が病気でも愛人とデートに出かけ、愛人の誕生日プレゼントを買うために宝石商を呼びつけるのに子供の誕生日は覚えていない。誰でも、自分たちは愛人以下なんだと分かりますわ」
 おかげで「父親のようになりたい」とは思わないで、誠実な子に育ってくれた。

 そうこうしているうちに、へレンズ子爵様の馬車がやってきて色とりどりなガーベラの花束を持ったヘレンズ子爵様が玄関に現れた。
「これを君に」
「ありがとうございます…! 花束なんて初めていただきましたわ」
 この幸福感が恋愛と言う物なのですね。旦那様がアンナ様を手放せないのが分かります。

 部屋に飾るよう侍女に花束を手渡し、旦那様に「行ってまいります」と言ってヘレンズ子爵様のエスコートを受ける。

 馬車に乗り込むと、ヘレンズ子爵様が我慢できないという感じで笑いだした。
「あなたの旦那様、一言も話さなかったね」
「いつもあんな感じですわ」
 空返事からへんじか無視か。挨拶すら返ってこない事がよくあります。

「いやいや、あれは嫉妬だよ」
「旦那様もバラ園に行きたかったのでしょうか…?」
 最近仕事が詰まっていて、アンナ様と遊びに行けてませんものね。

 ヘレンズ子爵様は大笑いしてます。
「彼は、やっと本当に大切な物が何か分かったんだよ」
 そうおっしゃいますが、私には自分が旦那様の「本当に大切な物」だとは思えませんけど…。

「愛人は、何もせず愛されるだけ。君は、妻として母として嫁として努力を続けて立派な淑女となった。どちらが魅力的か、やっと気付いたんだよ」
「そ…それは、ヘレンズ子爵様の“惚れた欲目”という物ではないでしょうか?」
 ヘレンズ子爵様は「本人に言うかな」と笑い続けてます。

 
 殿方と居て、こんなに楽しいなんて初めてです。

 恋愛っていいものですね。
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