婚約破棄は正確に

あんど もあ

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婚約破棄は正確に

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「セラフィナ・マークス伯爵令嬢! 君とは今日で婚約破棄だ!」

 王立学園の卒業パーティーで、私の婚約者の声が響いた。
 声の元を見ると、婚約者の伯爵家の次男エリオ様と私の妹のマヤが寄り添うように立っている。

 マヤは、三か月違いの妹なので今日私と一緒に卒業だ。
 と言うと父にあらぬ疑惑を持たれてしまうので、マヤが八歳の時に両親を亡くしてうちの養子となった従妹であるという事は周知の事実だ。

 マヤの体がエリオ様にくっ付きすぎて、家を出るギリギリまで母とああでもないこうでもないと試行錯誤して豊かな金髪に結んでいたリボンが曲がってしまってますよ。

「そして私はこのマヤと婚約する。長年にわたり姉に虐げられてきた可哀想なマヤと」
「は……?」
 何を言ってるんだこの人は。
 虐げるどころか、私の母が私など目に入らない勢いでマヤを溺愛してるのを知らないの?

「ごめんなさいお姉様。私がエリオ様と結婚してマークス家を継ぎます」
 あ、結婚はご自由に。
 でも、確かに私はエリオ様と結婚してマークス家を継ぐ予定だったけど、あなたがエリオ様と結婚したら家を継げるってわけじゃないのに。

「マヤ。養子のあなたにマークス家を継ぐ事は出来ないのよ」
「ほら、そうやって私を騙そうとして!」
 エリオ様に縋り付く。リボンが曲がりますよー。
「セラフィナ。なぜそうマヤをないがしろにするんだ。当主の四親等までの血族であれば、養子でも嫡子となる事は出来る。君はそれを知っててマヤに教えなかったのだろう?」

 教えるも何も、貴族なら常識的な法律だ。

 家を継ぐ嫡子は、当主の四親等までの血族に限る。
 昔、家計が苦しい貴族たちがイトコのハトコの嫁ぎ先の子供とか、既にもう親戚なのか分からないけど裕福な家の者を持参金目当てで養子にして、誰なのか分からない当主が誕生するという事が続き、法律で明文化されたそうだ。

「マヤは君の従妹だ。君の父の三親等の血族だろう? 家を継げないだなんて、何故そんな間違った事を教えるんだ。……私はもう、底意地の悪い君と生涯を共にする気にはなれない」
「はあ、私も同感ですから別にいいですけど。マヤ、あなたは私の母の妹の子供なので、あなたはマークス家の血族じゃないのよ。姻族」
 母とマヤの綺麗な金髪を見ればどちらの血筋か一目瞭然なのでわざわざ言った事は無かったけど。ちなみに、亡くなった母の妹も美しい金髪だったそうだ。

 固まったエリオ様とは対照的に
「でも、お母様は私が家を継いだ方が嬉しいわ!」
と、マヤは自信満々だ。全然わかって無い。
 
 お母様、だからマヤを甘やかさないでとあれほど言ったのに……。 

 何とも言えない雰囲気となったパーティー会場に、パンパンと手を叩く音が大きく響いた。
 壮年の法律学の教師が「注目!」と言う。

「このように、ちゃんと調べずに婚約破棄などを行うと、お家乗っ取りとなる事がある! 法律を学ぶ事は自分を守る事だ。学園で学んだ事を忘れないように!」
 生徒たちは学習の大切さを実感したようでざわざわと話し出すが、エリオ様だけは「私は、お家乗っ取りだなんて……」と青い顔だ。

 父に報告をするため、友人たちに断ってパーティー会場を出ると、エリオ様が追ってきた。

「セラフィナ。私はお家乗っ取りなんて考えて無かった!」
「では、ただの浮気なんですね」
 足を止めずに返事をする。
「う、浮気では」
「ああ、結婚するのだから本気ですね。私はいいですけど、マヤの婚約者から慰謝料が請求されるかもしれません」
「マヤに婚約者がいるのか!」
「当然でしょう」

 むしろ、その婚約者と結婚したくなくてエリオ様を狙った気がするけど、余計な事は言わないでおきましょう。

「マヤの婚約者に会った事など無いぞ!」
「13歳年上ですから、学園にはいません」
「そんな年上と結婚させるのか!」
「同じ年代じゃあ、マヤの考えなしの行動を抑えられないでしょう?」
 マヤに振り回されて婚約破棄宣言した男に言うと沈黙した。

「エリオ様」
 足を止めてエリオ様に向き合うと、エリオ様の表情が明るくなる。

「私たちの婚約もマヤの養子縁組も解消されると思うのでもうお会いすることは無いと思いますが、どうぞお幸せに」
 表情を無くしたエリオ様に私は笑顔で別れを告げた。

 ああ、本当は平気で母の愛を独占する妹も自分の価値観を押し付ける婚約者も大嫌いだったんだと気付いた。
 解放されたと思うと、とても清々しい。
 父に、この機会に母と離縁してもらえないだろうかと言ってみよう。
 
 歩き出した足は軽く、今にも走り出しそうだった。
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