人殺し相談所

コロコロ

文字の大きさ
3 / 4

第三話 ラベンダー

しおりを挟む
「あっつーーい」


手をぱたぱたするも、驚くほど風はこない。
こんな時でも優雅にティータイム中の真さんは本当に謎の多い人だ。
彼は子供の頃からこんな感じだったのだろうか?

それとも…

コンコン。

お客さんだ。
扉を開けるとそこには大人しそうな女の人が立っていた。

日本人形みたいな長い黒髪と長い前髪。
おかげで顔が見にくいうえになかなか話しださないので、
どうされましたか、と顔を覗き込んだ。


「あ、あの。職場の上司を殺していただきたいんです。」


と、ぼそぼそと話す彼女。
聞くと彼女の名前は芦原 樹里あしはら じゅりで、職場の上司にイジメを受けているらしい。

それも頷ける。

彼女の様な根暗な人はイジメの対象になりやすいからだ。
きっと反論も訴えることもできず、ここまでやってきたのではないだろうか。


「そんな風に喋っていては聞き取りづらい。こっちも仕事がしにくいからもっと大きな声で喋ってくれないか。」


私は目を丸くした。
あんなに普段首を突っ込まない彼が今、意見を言っている。
仕事に支障をきたす場合には、言うこともあるのだろう。
彼についてまた一つ学ぶことがあった。


「あ、すみません。昔からこうで…ずっと周りにも言われるんですけど。原因も分からずで…その…なおらないんです。なおそうとしてもなおらなくて。」


「ならいい。甘美、全て聞いてまとめて教えろ。」


そう言って真さんはソファに横になり眠り始めてしまった。

また、よく分からなくなってしまったな。

仕事に熱心なのかそうでないのかよく分からない人だ、全く。
でもそれが彼らしいといえば彼らしく、どうこう言うこともないのだけれど。


「はい、では樹里さん。詳しくお聞きしても宜しいですか。」


と、笑顔をむける。


「はい、はじめは物を盗まれました。もしかしたら隠されたり捨てられたりしたのかもしれないのですが、見つけることはできませんでした。」


入社した当日からでした。


「そんなことが毎日欠かさず続いていました。それから一週間もすると、すれ違う時にキモいだとかコワイだとか呟いてくるようになりました。」


パワハラを受けるようになりました。
と吐き出す息がなくなったのと同時にそう呟き、話を続けた


「これをやってと自分の仕事を平気で押し付けてくる上司を私は殺して欲しいんです。彼女さえ居なくなれば私、大丈夫なので。」


と、ぼそぼそと話す彼女は入ってきたと時と変わらず下をむいていて、早くしてほしいというオーラが感じ取れた。


「わかった。」


と、声がしたほうを見ると、彼は座って紅茶をのんでいた。



「いつの間に…… て言うかちゃんと人の話しを聞いていたんですね。」


彼は彼女をみると


「話は終わりか。帰れ、一周間後にはおわっている。」


と言った。


「ま、待ってください。一週間後だなんて遅すぎます。明日にでも…」


「お前は命をなんだと思っているんだ。」


言っておくが…
そこまで言いかけて急に口を噤んだ。


「一週間後だ、そこは変えられない。こっちも仕事なんだ、その間くらい自分でなんとかしろ。あと言っていたな、原因も分からずなおせないと。甘美、彼女にラベンダーを一本。」


そう言われたのでラベンダーを一本取り、彼女に手渡した。


「これは…」


「きっと原因がわかることを願っています。」


彼女を送り出すとわたしは何故さっき言うのをやめたのか聞こうとしたが、言いかけてやめた。

彼には絶対に踏み込んではならない予防線のようなものが張られていて、万が一踏み込んだらきっと全てが終わってしまうからだ。

結局私は何も言わずに真さんにコーヒーを煎れようとキッチンに向かった。





~樹里~

私は物心ついた頃にはもうこんな感じだった。
下を向いてぼそぼそと話し、幾度となく人に嫌われてきた。
いつしか話す必要のないことは話さず、必要最低限のことしか話さなくなった。

何を考えているか分からないと人から疑われ、沈黙だとか幽霊だとかそんなあだ名がつけられた。
関わってはいけないと親に教わっていた子もいた。


「大人になっても変わらない。疑われて嫌われて気味悪がられる。」


何も言っていないのに…

何も言っていないのに…

どうすればいいのか分からなくなって貰ったラベンダーを握りしめてうつむいた。




~甘美~

「ラベンダーって…。」


と、聞こうとすると彼は


「不信感…。」


と答えた。

不信感…


「そうだ。彼女から滲み出る不信感が人を不快にさせ、嫌われるんだ。お前も感じただろう。だがあいつはそれに気付いていない。」


真さんはコーヒーを啜って一息つくと続けて言う


「そんなことを繰り返しているうちに不信感はどんどん強くなっていったんだろう。自分のことは外から見ないと分からない。」


あんなに分かりやすい奴でもな。
と、淡々と口にすると新聞を広げた。




それから数日後のことだった。
彼女がまた訪ねてきたのは。


「教えてください。あれから考えたんですけどラベンダーを手渡された意味なんて分からなくて…。」


私は真さんをちらっと見る。
その視線に気づくと面倒臭そうにため息をついて


「花言葉は不信感だ。しっかり考えたお前ならそれくらい調べただろう。それでも分からなかったのか。お前は人に対して不信感を与えている。だから嫌われるんだ。滲み出ているそれが原因だ。」


自覚しろ。

彼女は驚いたような顔をしていた。
それが初めて見る彼女の顔だった。
可愛らしい顔立ちだった。


「人を…信用していない…。」


彼女は自分と生まれて初めて向き合ったのだろう。
何かとても大事なことを知ったような表情をしてすぐに泣き出した。


「何も言わないことが解決方法じゃなかった。逃げていただけ。私が本当に問題だったのは人を信用していなかったこと。」


「そうだ。それは外から見ないと分からない。だがそれと同じように自分でしか気づけないこともあるんだ。心を閉ざすな。もっと視野を広げて見つけていけ。」


彼女は座り込み、とうとう大きな声で泣き出してしまった。

上を向いて

子供のように。


「いい声しているじゃないか。」


と、ぽつりと呟いた彼の声を私は聞き逃さなかった。


「そうですね。」


と返すと彼はまたコーヒーを口に運ぶ。
優雅なひと時を過ごす彼の隣で私はふっと笑みをこぼした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

熟女教師に何度も迫られて…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
二度と味わえない体験をした実話中心のショート・ショート集です

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

大丈夫のその先は…

水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。 新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。 バレないように、バレないように。 「大丈夫だよ」 すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...