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第三話 ラベンダー
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「あっつーーい」
手をぱたぱたするも、驚くほど風はこない。
こんな時でも優雅にティータイム中の真さんは本当に謎の多い人だ。
彼は子供の頃からこんな感じだったのだろうか?
それとも…
コンコン。
お客さんだ。
扉を開けるとそこには大人しそうな女の人が立っていた。
日本人形みたいな長い黒髪と長い前髪。
おかげで顔が見にくいうえになかなか話しださないので、
どうされましたか、と顔を覗き込んだ。
「あ、あの。職場の上司を殺していただきたいんです。」
と、ぼそぼそと話す彼女。
聞くと彼女の名前は芦原 樹里で、職場の上司にイジメを受けているらしい。
それも頷ける。
彼女の様な根暗な人はイジメの対象になりやすいからだ。
きっと反論も訴えることもできず、ここまでやってきたのではないだろうか。
「そんな風に喋っていては聞き取りづらい。こっちも仕事がしにくいからもっと大きな声で喋ってくれないか。」
私は目を丸くした。
あんなに普段首を突っ込まない彼が今、意見を言っている。
仕事に支障をきたす場合には、言うこともあるのだろう。
彼についてまた一つ学ぶことがあった。
「あ、すみません。昔からこうで…ずっと周りにも言われるんですけど。原因も分からずで…その…なおらないんです。なおそうとしてもなおらなくて。」
「ならいい。甘美、全て聞いてまとめて教えろ。」
そう言って真さんはソファに横になり眠り始めてしまった。
また、よく分からなくなってしまったな。
仕事に熱心なのかそうでないのかよく分からない人だ、全く。
でもそれが彼らしいといえば彼らしく、どうこう言うこともないのだけれど。
「はい、では樹里さん。詳しくお聞きしても宜しいですか。」
と、笑顔をむける。
「はい、はじめは物を盗まれました。もしかしたら隠されたり捨てられたりしたのかもしれないのですが、見つけることはできませんでした。」
入社した当日からでした。
「そんなことが毎日欠かさず続いていました。それから一週間もすると、すれ違う時にキモいだとかコワイだとか呟いてくるようになりました。」
パワハラを受けるようになりました。
と吐き出す息がなくなったのと同時にそう呟き、話を続けた
「これをやってと自分の仕事を平気で押し付けてくる上司を私は殺して欲しいんです。彼女さえ居なくなれば私、大丈夫なので。」
と、ぼそぼそと話す彼女は入ってきたと時と変わらず下をむいていて、早くしてほしいというオーラが感じ取れた。
「わかった。」
と、声がしたほうを見ると、彼は座って紅茶をのんでいた。
「いつの間に…… て言うかちゃんと人の話しを聞いていたんですね。」
彼は彼女をみると
「話は終わりか。帰れ、一周間後にはおわっている。」
と言った。
「ま、待ってください。一週間後だなんて遅すぎます。明日にでも…」
「お前は命をなんだと思っているんだ。」
言っておくが…
そこまで言いかけて急に口を噤んだ。
「一週間後だ、そこは変えられない。こっちも仕事なんだ、その間くらい自分でなんとかしろ。あと言っていたな、原因も分からずなおせないと。甘美、彼女にラベンダーを一本。」
そう言われたのでラベンダーを一本取り、彼女に手渡した。
「これは…」
「きっと原因がわかることを願っています。」
彼女を送り出すとわたしは何故さっき言うのをやめたのか聞こうとしたが、言いかけてやめた。
彼には絶対に踏み込んではならない予防線のようなものが張られていて、万が一踏み込んだらきっと全てが終わってしまうからだ。
結局私は何も言わずに真さんにコーヒーを煎れようとキッチンに向かった。
~樹里~
私は物心ついた頃にはもうこんな感じだった。
下を向いてぼそぼそと話し、幾度となく人に嫌われてきた。
いつしか話す必要のないことは話さず、必要最低限のことしか話さなくなった。
何を考えているか分からないと人から疑われ、沈黙だとか幽霊だとかそんなあだ名がつけられた。
関わってはいけないと親に教わっていた子もいた。
「大人になっても変わらない。疑われて嫌われて気味悪がられる。」
何も言っていないのに…
何も言っていないのに…
どうすればいいのか分からなくなって貰ったラベンダーを握りしめてうつむいた。
~甘美~
「ラベンダーって…。」
と、聞こうとすると彼は
「不信感…。」
と答えた。
不信感…
「そうだ。彼女から滲み出る不信感が人を不快にさせ、嫌われるんだ。お前も感じただろう。だがあいつはそれに気付いていない。」
真さんはコーヒーを啜って一息つくと続けて言う
「そんなことを繰り返しているうちに不信感はどんどん強くなっていったんだろう。自分のことは外から見ないと分からない。」
あんなに分かりやすい奴でもな。
と、淡々と口にすると新聞を広げた。
それから数日後のことだった。
彼女がまた訪ねてきたのは。
「教えてください。あれから考えたんですけどラベンダーを手渡された意味なんて分からなくて…。」
私は真さんをちらっと見る。
その視線に気づくと面倒臭そうにため息をついて
「花言葉は不信感だ。しっかり考えたお前ならそれくらい調べただろう。それでも分からなかったのか。お前は人に対して不信感を与えている。だから嫌われるんだ。滲み出ているそれが原因だ。」
自覚しろ。
彼女は驚いたような顔をしていた。
それが初めて見る彼女の顔だった。
可愛らしい顔立ちだった。
「人を…信用していない…。」
彼女は自分と生まれて初めて向き合ったのだろう。
何かとても大事なことを知ったような表情をしてすぐに泣き出した。
「何も言わないことが解決方法じゃなかった。逃げていただけ。私が本当に問題だったのは人を信用していなかったこと。」
「そうだ。それは外から見ないと分からない。だがそれと同じように自分でしか気づけないこともあるんだ。心を閉ざすな。もっと視野を広げて見つけていけ。」
彼女は座り込み、とうとう大きな声で泣き出してしまった。
上を向いて
子供のように。
「いい声しているじゃないか。」
と、ぽつりと呟いた彼の声を私は聞き逃さなかった。
「そうですね。」
と返すと彼はまたコーヒーを口に運ぶ。
優雅なひと時を過ごす彼の隣で私はふっと笑みをこぼした。
手をぱたぱたするも、驚くほど風はこない。
こんな時でも優雅にティータイム中の真さんは本当に謎の多い人だ。
彼は子供の頃からこんな感じだったのだろうか?
それとも…
コンコン。
お客さんだ。
扉を開けるとそこには大人しそうな女の人が立っていた。
日本人形みたいな長い黒髪と長い前髪。
おかげで顔が見にくいうえになかなか話しださないので、
どうされましたか、と顔を覗き込んだ。
「あ、あの。職場の上司を殺していただきたいんです。」
と、ぼそぼそと話す彼女。
聞くと彼女の名前は芦原 樹里で、職場の上司にイジメを受けているらしい。
それも頷ける。
彼女の様な根暗な人はイジメの対象になりやすいからだ。
きっと反論も訴えることもできず、ここまでやってきたのではないだろうか。
「そんな風に喋っていては聞き取りづらい。こっちも仕事がしにくいからもっと大きな声で喋ってくれないか。」
私は目を丸くした。
あんなに普段首を突っ込まない彼が今、意見を言っている。
仕事に支障をきたす場合には、言うこともあるのだろう。
彼についてまた一つ学ぶことがあった。
「あ、すみません。昔からこうで…ずっと周りにも言われるんですけど。原因も分からずで…その…なおらないんです。なおそうとしてもなおらなくて。」
「ならいい。甘美、全て聞いてまとめて教えろ。」
そう言って真さんはソファに横になり眠り始めてしまった。
また、よく分からなくなってしまったな。
仕事に熱心なのかそうでないのかよく分からない人だ、全く。
でもそれが彼らしいといえば彼らしく、どうこう言うこともないのだけれど。
「はい、では樹里さん。詳しくお聞きしても宜しいですか。」
と、笑顔をむける。
「はい、はじめは物を盗まれました。もしかしたら隠されたり捨てられたりしたのかもしれないのですが、見つけることはできませんでした。」
入社した当日からでした。
「そんなことが毎日欠かさず続いていました。それから一週間もすると、すれ違う時にキモいだとかコワイだとか呟いてくるようになりました。」
パワハラを受けるようになりました。
と吐き出す息がなくなったのと同時にそう呟き、話を続けた
「これをやってと自分の仕事を平気で押し付けてくる上司を私は殺して欲しいんです。彼女さえ居なくなれば私、大丈夫なので。」
と、ぼそぼそと話す彼女は入ってきたと時と変わらず下をむいていて、早くしてほしいというオーラが感じ取れた。
「わかった。」
と、声がしたほうを見ると、彼は座って紅茶をのんでいた。
「いつの間に…… て言うかちゃんと人の話しを聞いていたんですね。」
彼は彼女をみると
「話は終わりか。帰れ、一周間後にはおわっている。」
と言った。
「ま、待ってください。一週間後だなんて遅すぎます。明日にでも…」
「お前は命をなんだと思っているんだ。」
言っておくが…
そこまで言いかけて急に口を噤んだ。
「一週間後だ、そこは変えられない。こっちも仕事なんだ、その間くらい自分でなんとかしろ。あと言っていたな、原因も分からずなおせないと。甘美、彼女にラベンダーを一本。」
そう言われたのでラベンダーを一本取り、彼女に手渡した。
「これは…」
「きっと原因がわかることを願っています。」
彼女を送り出すとわたしは何故さっき言うのをやめたのか聞こうとしたが、言いかけてやめた。
彼には絶対に踏み込んではならない予防線のようなものが張られていて、万が一踏み込んだらきっと全てが終わってしまうからだ。
結局私は何も言わずに真さんにコーヒーを煎れようとキッチンに向かった。
~樹里~
私は物心ついた頃にはもうこんな感じだった。
下を向いてぼそぼそと話し、幾度となく人に嫌われてきた。
いつしか話す必要のないことは話さず、必要最低限のことしか話さなくなった。
何を考えているか分からないと人から疑われ、沈黙だとか幽霊だとかそんなあだ名がつけられた。
関わってはいけないと親に教わっていた子もいた。
「大人になっても変わらない。疑われて嫌われて気味悪がられる。」
何も言っていないのに…
何も言っていないのに…
どうすればいいのか分からなくなって貰ったラベンダーを握りしめてうつむいた。
~甘美~
「ラベンダーって…。」
と、聞こうとすると彼は
「不信感…。」
と答えた。
不信感…
「そうだ。彼女から滲み出る不信感が人を不快にさせ、嫌われるんだ。お前も感じただろう。だがあいつはそれに気付いていない。」
真さんはコーヒーを啜って一息つくと続けて言う
「そんなことを繰り返しているうちに不信感はどんどん強くなっていったんだろう。自分のことは外から見ないと分からない。」
あんなに分かりやすい奴でもな。
と、淡々と口にすると新聞を広げた。
それから数日後のことだった。
彼女がまた訪ねてきたのは。
「教えてください。あれから考えたんですけどラベンダーを手渡された意味なんて分からなくて…。」
私は真さんをちらっと見る。
その視線に気づくと面倒臭そうにため息をついて
「花言葉は不信感だ。しっかり考えたお前ならそれくらい調べただろう。それでも分からなかったのか。お前は人に対して不信感を与えている。だから嫌われるんだ。滲み出ているそれが原因だ。」
自覚しろ。
彼女は驚いたような顔をしていた。
それが初めて見る彼女の顔だった。
可愛らしい顔立ちだった。
「人を…信用していない…。」
彼女は自分と生まれて初めて向き合ったのだろう。
何かとても大事なことを知ったような表情をしてすぐに泣き出した。
「何も言わないことが解決方法じゃなかった。逃げていただけ。私が本当に問題だったのは人を信用していなかったこと。」
「そうだ。それは外から見ないと分からない。だがそれと同じように自分でしか気づけないこともあるんだ。心を閉ざすな。もっと視野を広げて見つけていけ。」
彼女は座り込み、とうとう大きな声で泣き出してしまった。
上を向いて
子供のように。
「いい声しているじゃないか。」
と、ぽつりと呟いた彼の声を私は聞き逃さなかった。
「そうですね。」
と返すと彼はまたコーヒーを口に運ぶ。
優雅なひと時を過ごす彼の隣で私はふっと笑みをこぼした。
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