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146:ハインツの前世~⑩~
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・・・・あれ?
イベルナは、予想外のことに驚いていた。
嫁ぎ先である、ボドラーク男爵のところは思ってた以上に心地よかったからだ。
ボドラーク男爵こと、ジャック・ボドラークは65歳と聞いていたが、実際はそれよりも老けているように見えた。初めて対面した時も、ベッドに横たわっていたからで、それはよくよく聞けば病気を患っていたからであった。
「初めてお目のかかるのにこの恰好で失礼するよ。私がジャック・ボドラークだ。若い君に嫁いでもらったのは、他でもない。私はね、実は余命がもうあまりないんだよ。」
「え?」
まさかの事にイベルナは驚いた。
「それでね、君の事を調べてみて・・・あそこにいるよりはマシだろうと声をかけさせてもらった。」
『あそこにいるよりマシ』という言葉を聞いて、この人は自分の境遇を知っていることにイベルナはさらに驚いた。
「端的に言うとね、私の身の回りの世話をしてほしい。だから、白い結婚だから安心してくれていいよ。」
まさか白い結婚と初めから明言されると思わなかった、イベルナは目を見開いて驚いた。白い結婚とは、夫婦でありながら肉体関係がないことを示すからだ。
「身の回りのお世話なら・・・」
それならば、普通に若いメイドでも雇えばいいのでは?とイベルナは思ったのだが、さすがにそれを言い切ることはできなかった。
「考えてることはわかるよ。だけど、それはあくまで主従の関係だからね。私は対等な立場で接して欲しいんだよ。」
「た、対等ですか、でも・・・」
イベルナは自分が庶子である自覚は嫌というほどわかっている。そんな自分が男爵相手に、対等な相手など務まるのかと考えていると、
「はは、そんなに固くならなくていい。年老いた私の話し相手になってくれればいいんだよ。」
「そ、そうですか、でも私にはそんな豊富な話題もないので・・・」
それは本心だった。イベルナは幼い時からずっと働いていたので、娯楽といったものも、ほとんど経験したことがない自分に話し相手ができるとは思えなかったからである。
「何気ないことでいいんだよ。だから気負わなくていい。それにどうせ最後なら若い女の子に診てもらいたいっていう、年寄りの最後の我儘だよ。」
そういうと、ジャックは優しい眼差しでニッコリと微笑んだ。
なんだか、はぐらかされた感は否めなかったが、そういうことなら、言われた通り自分のできうる範囲で頑張ろうとイベルナは思った。
それから、イベルナはジャックの世話を付きっきりで行っていた。だが合間には、貴族の淑女としての立ち振る舞いを学んでいた。初めに出会ったメイド長のマーサは淡々と事務的に対応はされていたものの、それは彼女の人となりのものであると付き合っていくうちにわかった。マーサは人に寄って対応変えるなどということもなく一環していたのだ。あの時、きつく感じられた言葉は、今となっては確かにその通りだったのだと、イベルナは思えるまでになっていた。
あまりにも歳の差があった結婚は、どうなるかと不安に思っていたものが、想像以上に以前の暮らしていた時よりも快適で、ジャックとの時間は充実していたものになっていた。そしてなぜ自分が娶られることになったのかしばらくしてから判明したのだ。
その日もいつもの様に他愛のない話をしていたのだが、ベッドの横たわっていたジャックは突然切り出した。
「・・・実はね、私は君のお母さんを知っていたんだ。」
「え、母をですか?」
まさか母親の話が出るとは思わずイベルナは驚いた。
「以前あの屋敷に訪問した時に、君のお母さんと出会った。まぁ、慣れそれは些細なことだったけどね・・・そして、私は君のお母さんを好きになったんだよ。だけどね、わかると思うけど、私も一応貴族だから平民と添い遂げることは当時厳しかったからね・・・そうこうしているうちにね、君のお父さんとね・・・」
ジャックはそれ以上言わなかったが、言わんとすることはイベルナは知っていた。無理やり母は父のお手付きになったことは知っているからだ。そしてその間に生まれた自分の事も。
「それからは諦めていたのだけどね。だけど、やっぱり忘れられなくて、しばらく経って気になって調べてみたんだよ。そしたらとんでもないことになっていたし、それで一刻も君をあそこから救出しなければと思い、こんな形をとることになったんだ。」
「まさかそんな事情があったなんて・・・」
イベルナは泣きそうになっていた。母親以外で自分のことを気にかけてくれる人がいるとは思っていなかったからである。
「すまないね。君のお母さんのことも、私がもっと勇気をもっていれば、亡くならずに済んだのかもしれない。それにもっと早くわかっていたら、こんな方法を取らなくてもよかったのだけど、私も時間があまりなかったからね。君に結婚歴を付けることになってしまった。本当なら養女にしてあげたかったんだけどね。」
ジャックはそうすまなさそうな顔で言った。
「そ、そんなこと仰らないでください!私ここで大切にされたことが、本当に本当に嬉しかったのです!」
イベルナは嬉しかった。母が病気で亡くなってから一応の世間体を気にして、父に引き取られたものの、その境遇は冷遇され続けていた。住む場所と何とか飢えを凌げる程度で、父からの愛情を感じたことは一度もなかったし、正妻であるインジュシカをはじめ血の半分繋がった兄姉からはずっと虐げられていた。だが、ジャックがイベルナを娶ったことで、それまでの辛かった生活とは一転した、生きてて楽しかったと思える時間を共有することができたからだ。
「私をあそこから救い出してくれて、ありがとうございます!」
「イベルナ、私こそだよ。私の我儘で最後の時間に付き合ってくれてありがとう。」
二人はお互い、目に涙を溜めて抱きしめ合った。ジャックとは異性というよりは、まるで父娘ように接していたので、イベルナにしてみれば、ジャックは父のような存在だったし、それはジャックも同じで、自分が好きだった女の面影を残したイベルナを娘にように思っていたのだ。
それからジャックはまもなく亡くなった。結婚期間はわずか3年のことだった。
イベルナは、予想外のことに驚いていた。
嫁ぎ先である、ボドラーク男爵のところは思ってた以上に心地よかったからだ。
ボドラーク男爵こと、ジャック・ボドラークは65歳と聞いていたが、実際はそれよりも老けているように見えた。初めて対面した時も、ベッドに横たわっていたからで、それはよくよく聞けば病気を患っていたからであった。
「初めてお目のかかるのにこの恰好で失礼するよ。私がジャック・ボドラークだ。若い君に嫁いでもらったのは、他でもない。私はね、実は余命がもうあまりないんだよ。」
「え?」
まさかの事にイベルナは驚いた。
「それでね、君の事を調べてみて・・・あそこにいるよりはマシだろうと声をかけさせてもらった。」
『あそこにいるよりマシ』という言葉を聞いて、この人は自分の境遇を知っていることにイベルナはさらに驚いた。
「端的に言うとね、私の身の回りの世話をしてほしい。だから、白い結婚だから安心してくれていいよ。」
まさか白い結婚と初めから明言されると思わなかった、イベルナは目を見開いて驚いた。白い結婚とは、夫婦でありながら肉体関係がないことを示すからだ。
「身の回りのお世話なら・・・」
それならば、普通に若いメイドでも雇えばいいのでは?とイベルナは思ったのだが、さすがにそれを言い切ることはできなかった。
「考えてることはわかるよ。だけど、それはあくまで主従の関係だからね。私は対等な立場で接して欲しいんだよ。」
「た、対等ですか、でも・・・」
イベルナは自分が庶子である自覚は嫌というほどわかっている。そんな自分が男爵相手に、対等な相手など務まるのかと考えていると、
「はは、そんなに固くならなくていい。年老いた私の話し相手になってくれればいいんだよ。」
「そ、そうですか、でも私にはそんな豊富な話題もないので・・・」
それは本心だった。イベルナは幼い時からずっと働いていたので、娯楽といったものも、ほとんど経験したことがない自分に話し相手ができるとは思えなかったからである。
「何気ないことでいいんだよ。だから気負わなくていい。それにどうせ最後なら若い女の子に診てもらいたいっていう、年寄りの最後の我儘だよ。」
そういうと、ジャックは優しい眼差しでニッコリと微笑んだ。
なんだか、はぐらかされた感は否めなかったが、そういうことなら、言われた通り自分のできうる範囲で頑張ろうとイベルナは思った。
それから、イベルナはジャックの世話を付きっきりで行っていた。だが合間には、貴族の淑女としての立ち振る舞いを学んでいた。初めに出会ったメイド長のマーサは淡々と事務的に対応はされていたものの、それは彼女の人となりのものであると付き合っていくうちにわかった。マーサは人に寄って対応変えるなどということもなく一環していたのだ。あの時、きつく感じられた言葉は、今となっては確かにその通りだったのだと、イベルナは思えるまでになっていた。
あまりにも歳の差があった結婚は、どうなるかと不安に思っていたものが、想像以上に以前の暮らしていた時よりも快適で、ジャックとの時間は充実していたものになっていた。そしてなぜ自分が娶られることになったのかしばらくしてから判明したのだ。
その日もいつもの様に他愛のない話をしていたのだが、ベッドの横たわっていたジャックは突然切り出した。
「・・・実はね、私は君のお母さんを知っていたんだ。」
「え、母をですか?」
まさか母親の話が出るとは思わずイベルナは驚いた。
「以前あの屋敷に訪問した時に、君のお母さんと出会った。まぁ、慣れそれは些細なことだったけどね・・・そして、私は君のお母さんを好きになったんだよ。だけどね、わかると思うけど、私も一応貴族だから平民と添い遂げることは当時厳しかったからね・・・そうこうしているうちにね、君のお父さんとね・・・」
ジャックはそれ以上言わなかったが、言わんとすることはイベルナは知っていた。無理やり母は父のお手付きになったことは知っているからだ。そしてその間に生まれた自分の事も。
「それからは諦めていたのだけどね。だけど、やっぱり忘れられなくて、しばらく経って気になって調べてみたんだよ。そしたらとんでもないことになっていたし、それで一刻も君をあそこから救出しなければと思い、こんな形をとることになったんだ。」
「まさかそんな事情があったなんて・・・」
イベルナは泣きそうになっていた。母親以外で自分のことを気にかけてくれる人がいるとは思っていなかったからである。
「すまないね。君のお母さんのことも、私がもっと勇気をもっていれば、亡くならずに済んだのかもしれない。それにもっと早くわかっていたら、こんな方法を取らなくてもよかったのだけど、私も時間があまりなかったからね。君に結婚歴を付けることになってしまった。本当なら養女にしてあげたかったんだけどね。」
ジャックはそうすまなさそうな顔で言った。
「そ、そんなこと仰らないでください!私ここで大切にされたことが、本当に本当に嬉しかったのです!」
イベルナは嬉しかった。母が病気で亡くなってから一応の世間体を気にして、父に引き取られたものの、その境遇は冷遇され続けていた。住む場所と何とか飢えを凌げる程度で、父からの愛情を感じたことは一度もなかったし、正妻であるインジュシカをはじめ血の半分繋がった兄姉からはずっと虐げられていた。だが、ジャックがイベルナを娶ったことで、それまでの辛かった生活とは一転した、生きてて楽しかったと思える時間を共有することができたからだ。
「私をあそこから救い出してくれて、ありがとうございます!」
「イベルナ、私こそだよ。私の我儘で最後の時間に付き合ってくれてありがとう。」
二人はお互い、目に涙を溜めて抱きしめ合った。ジャックとは異性というよりは、まるで父娘ように接していたので、イベルナにしてみれば、ジャックは父のような存在だったし、それはジャックも同じで、自分が好きだった女の面影を残したイベルナを娘にように思っていたのだ。
それからジャックはまもなく亡くなった。結婚期間はわずか3年のことだった。
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