弄月の代償

悠久

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診療所カトルセゾンの医者 ヨーゼフの追憶

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え、患者じゃない?じゃあなんで通しちゃったの。もう診察も終わる時間だししつこく頼まれたんだから受付じゃどうもできないって言ってもこっちは医者なんだからさ。まったく、近頃の若いもんは老人に敬意がないから世話ない。老体に鞭打ちよってからに。




あぁ、はいはい、お待たせしました。それで、ここはなんだけどね、患者じゃないなら何の用かな。

…はぁ、セレネ様について知りたいと。これはまた随分懐かしい名前ですな。生憎仕えていたのは父と母と姉でして…え?知ってるってそりゃまたなんでうちに。

あの宿屋の女将からうちに聞いたらどうかと言われたと。はて、まああちらさんも確かに名の知れた老舗ですから変な御仁を見抜く目くらいありましょう。貴方様を信用致しますよ。

それでなんでセレネ様を知りたいなんて藪から棒に。はぁ、もしかしたら母親かもしれないと思ったが女将の話を聞く限り年齢が合わないから隠し子か他に王族に赤ん坊はいなかったかって?

ははは、一体どんな妄言を…これは前王家の紋章が着いたペンダント…ちょっと拝借、ふぅむ。中の肖像画、描き方や色彩が面妖ではあるが黒髪に金の瞳は確かにセレネ様の特徴に一致する。

私が小さい頃にお会いした頃に比べて随分雰囲気が変わってしまわれておるがな。

…こんなにおやつれになって仕舞われておったとは…なんとお労しや。

それで…一体これをどこで。いや、なんであれセレネ様の子でないことは確かだ。可能性があるとしたら今の領主様と前の第一王女であらされたアリアドネ様の御子ではないかと。まあでもその御子は追放の折、隣国の街道で賊に襲われてしまわれて夭折されたとのことだったが…

どうしてセレネ様の子じゃないと思うかだって?御前さん、いくつだい?17か。まあたしかに年齢的にはぎりぎり産めなくはないがセレネ様は第一王子を産み落とすと同時に不妊になってしまわれた。

正確には不妊ということにしてらっしゃった。ははは、なんで分かるったって王宮に上がったまま出ることが許されなくなった父から納入するよう記されていたのは、何に使うか明かされてないとはいえ私だって医者の端くれ、避妊薬の材料ってことはすぐに分かりましたからね。

そりゃまたなんでったってセレネ様は前の夫であらせられる王太子ルドヴィクス様のことを愛していらっしゃったのでしょう。巷じゃ操もなにもない稀代の悪女だなんだ言われてますけどあの純真無垢なお方が幼き頃より共に育った王太子よりもぽっと出のましてや王になりたいが為だけに王族を皆殺しにした異国の王子になんて靡くはずもありません。

そうじゃなきゃ未だに初恋を拗らせたまま誰も娶らずにいる私が報われないじゃあないですか。
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