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スエル・ドバードの酒場
#5.モルエの子守唄
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仕事の為? ..そんな訳が無かった。
だって...私の母モルエ・ルージュは、あんなに泣いていたのだから...
それは、何も知らない私に助けを求める..
一歩手前だったように思う...
仕事の為に遠出をするだけなら、私を置いて行ったりしない。
そんなことはしない..
だって母モルエは...いつだって私の味方だったんだから...
それからしばらくして私は、ニズルに直接聞いたんだ..
「なあぁに簡単なことさ? 借金だよ?
その借金が返せねえから..おめえの母親は?
..おめえを売ったのさ?」
──────
────
──
「さあ、お嬢ちゃん? 遠出するお母さんに手を振ろうか?」
セシリアの肩に手を置く者からそう促されたセシリアは、泣き崩れて自身の口を布で押さえる母モルエをじっと見つめていた。
「...お母さん」
「..おっと..お嬢ちゃん..いけないよ? お母さんの邪魔をしちゃあ...」
セシリアが少し離れた位置からでも聞こえるモルエの声の方に駆け寄ろう片足を前に出した瞬間、側にいる者がその動くセシリアの肩をグッと掴んで抑えつけた。
「..さあ、お嬢ちゃん? 手を振ろう...」
泣いている母モルエに両脇に立つ男二人が何か言った後、母モルエがゆっくりとセシリアのいる方に背を向け、冷たい表情をしている男二人と立っていたその場所から少しずつ消えて行く。
「...」
遠くなっていくモルエが何度もセシリアのいる方へ振り返ろうとし男たちから何かを言われているのが分かった。
そんな母の後ろ姿をセシリアは、黙って見ていると急にモルエが落ち込んでいる時にいつも子守唄のように語って聞かせてくれたお話を思い出した。
さあ目を瞑りましょう..悲しいのでしょう?
暗闇が真っ白な世界になるまで..さあ目を瞑りましょう...
笑う人の皮で作った童話の世界なら..きっとその裏側があるのでしょう...下から伸びてくる幾つものざわつきから..
どの塊を..掬い上げようかな?
千切れた片手を..力いっぱい掴んで
千切れた片手を..離さずに引き上げよ
千切れた片手を..掲げてみせよ その時間で...
大事なことは...場所では無いのだから..
多少のずれなど何ともないの..
思いがそこに在るというなら..
さあ目を瞑りましょう...
──────
母のモルエの涙は、いつも懺悔のようだった。
家に笑顔で帰って来たと思ったら...
まるで悪いことをして来たかのように私を抱きしめ..
「ごめんね..ごめんなさい」
..と私の耳もとにささやき、どうして謝るのか私が聞いても母さんは、ただ..
「..ごめんね」
としか言わなかった...
──────
────
──
「さあ、お嬢ちゃん? そろそろ中へ入ろうか? ..新しい家にな?」
...年老いた男の声がして、引っ張られた方にお店が見えた。
そのお店は、もう古い建物で大きな3階建てだった。
今までにそんな建物は見たことがなかったし、入ったことも無かった。
だから不思議に感じる。
私の手を引く者は、腰が少し曲がって年老いた男。
名前は、
"ニール ツィア マルクベ"
と言った。
「...ニズルと呼んでくれ? ..ニズルじいさんとな? ハハハ...お嬢ちゃんの名前は..
セシリアじゃな? セシリアよ?
今日からここが..お前の家じゃぞ?
遠慮などせんでええ..仲良くしような?」
「...お母さんは?」
「うん?」
「...お母さんは..どこへ行ったの?」
「..ううん...遠くじゃよ? セシリアの母さんは仕事で遠くに行ったんじゃ...
しばらくしたら..また会えるさ...
それまでの辛抱じゃ...
さあ! なんか食うか?」
「...お母さんはどこへ行ったの?」
この三回目のセシリアの問にニズルは、表情を変え、彼女の襟を掴むと大声で汚い言葉を浴びせた。
「おい? いい加減しとけよ...
人が優しくしてやりゃ..つけ上がりやがって...
おめえは、ここで働くんだよ!
だから直様メシを食わしてやるから支度しろって言ってんだ!
...ええ分かったな?」
二ズルが言い終えると掴んでいた襟から手を離し持ち上げられる形だったセシリアの体が人形のように落ちて、彼女の座っていた椅子の角に体が当たり、その弾みで床に転がった。
それを冷たい目で見ている二ズルの前で数秒後、セシリアは何事も無かったよう立ち上がりお辞儀をしたのだ。
ニズルは驚き、少し間が出来るも口を開く。
「...そう? それでええんじゃよ..」
だって...私の母モルエ・ルージュは、あんなに泣いていたのだから...
それは、何も知らない私に助けを求める..
一歩手前だったように思う...
仕事の為に遠出をするだけなら、私を置いて行ったりしない。
そんなことはしない..
だって母モルエは...いつだって私の味方だったんだから...
それからしばらくして私は、ニズルに直接聞いたんだ..
「なあぁに簡単なことさ? 借金だよ?
その借金が返せねえから..おめえの母親は?
..おめえを売ったのさ?」
──────
────
──
「さあ、お嬢ちゃん? 遠出するお母さんに手を振ろうか?」
セシリアの肩に手を置く者からそう促されたセシリアは、泣き崩れて自身の口を布で押さえる母モルエをじっと見つめていた。
「...お母さん」
「..おっと..お嬢ちゃん..いけないよ? お母さんの邪魔をしちゃあ...」
セシリアが少し離れた位置からでも聞こえるモルエの声の方に駆け寄ろう片足を前に出した瞬間、側にいる者がその動くセシリアの肩をグッと掴んで抑えつけた。
「..さあ、お嬢ちゃん? 手を振ろう...」
泣いている母モルエに両脇に立つ男二人が何か言った後、母モルエがゆっくりとセシリアのいる方に背を向け、冷たい表情をしている男二人と立っていたその場所から少しずつ消えて行く。
「...」
遠くなっていくモルエが何度もセシリアのいる方へ振り返ろうとし男たちから何かを言われているのが分かった。
そんな母の後ろ姿をセシリアは、黙って見ていると急にモルエが落ち込んでいる時にいつも子守唄のように語って聞かせてくれたお話を思い出した。
さあ目を瞑りましょう..悲しいのでしょう?
暗闇が真っ白な世界になるまで..さあ目を瞑りましょう...
笑う人の皮で作った童話の世界なら..きっとその裏側があるのでしょう...下から伸びてくる幾つものざわつきから..
どの塊を..掬い上げようかな?
千切れた片手を..力いっぱい掴んで
千切れた片手を..離さずに引き上げよ
千切れた片手を..掲げてみせよ その時間で...
大事なことは...場所では無いのだから..
多少のずれなど何ともないの..
思いがそこに在るというなら..
さあ目を瞑りましょう...
──────
母のモルエの涙は、いつも懺悔のようだった。
家に笑顔で帰って来たと思ったら...
まるで悪いことをして来たかのように私を抱きしめ..
「ごめんね..ごめんなさい」
..と私の耳もとにささやき、どうして謝るのか私が聞いても母さんは、ただ..
「..ごめんね」
としか言わなかった...
──────
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「さあ、お嬢ちゃん? そろそろ中へ入ろうか? ..新しい家にな?」
...年老いた男の声がして、引っ張られた方にお店が見えた。
そのお店は、もう古い建物で大きな3階建てだった。
今までにそんな建物は見たことがなかったし、入ったことも無かった。
だから不思議に感じる。
私の手を引く者は、腰が少し曲がって年老いた男。
名前は、
"ニール ツィア マルクベ"
と言った。
「...ニズルと呼んでくれ? ..ニズルじいさんとな? ハハハ...お嬢ちゃんの名前は..
セシリアじゃな? セシリアよ?
今日からここが..お前の家じゃぞ?
遠慮などせんでええ..仲良くしような?」
「...お母さんは?」
「うん?」
「...お母さんは..どこへ行ったの?」
「..ううん...遠くじゃよ? セシリアの母さんは仕事で遠くに行ったんじゃ...
しばらくしたら..また会えるさ...
それまでの辛抱じゃ...
さあ! なんか食うか?」
「...お母さんはどこへ行ったの?」
この三回目のセシリアの問にニズルは、表情を変え、彼女の襟を掴むと大声で汚い言葉を浴びせた。
「おい? いい加減しとけよ...
人が優しくしてやりゃ..つけ上がりやがって...
おめえは、ここで働くんだよ!
だから直様メシを食わしてやるから支度しろって言ってんだ!
...ええ分かったな?」
二ズルが言い終えると掴んでいた襟から手を離し持ち上げられる形だったセシリアの体が人形のように落ちて、彼女の座っていた椅子の角に体が当たり、その弾みで床に転がった。
それを冷たい目で見ている二ズルの前で数秒後、セシリアは何事も無かったよう立ち上がりお辞儀をしたのだ。
ニズルは驚き、少し間が出来るも口を開く。
「...そう? それでええんじゃよ..」
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