なぎさくん。

待永 晄愛

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なぎさくん、なにしたの?

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町内会に向かったお母さんから隠れるようにお父さんからアルバムを預かった私はバスと電車の乗り継ぎを5回して光ねぇが住んでいるという町へ来た。

私が見たことないお洒落な人が何度も通って目が喜んでいると、私に向かって手を振っている人が見えた。

苺「光ねぇー…、お腹空いたぁ…。」

光「んじゃ、カフェ行く?」

苺「カフェ行く!」

友達とは値段を見て恐れおののいて行けなかった爽やか外観のお洒落なカフェに入ってみた。

そこには私が住んでいる町では見たことない椅子、テーブル、カップ、お皿、もう全てがお洒落に感じて高揚で体が震える。

光「そんなにスパゲティ美味しい?」

苺「こういうところのはパスタって言うんだよ。」

せっかく都会に住んでるのになんで光ねぇは田舎臭いんだろうと思っていると、光ねぇは窓の外を見て手を振った。

苺「…誰?」

私はスーツに着られている感がすごい男の人がこちらに手を振っていることに気づく。

光「彼氏。」

苺「カレシ…!!」

憧れの言葉が光ねぇから出て私は思わず椅子からたち上がってしまうと、賑やかだった店内が一瞬で静かになった。

光「静かに…っ。こういうとこでは目立つの。」

苺「すみませー…ん。」

私はそっと椅子に座り、光ねぇの隣にやってきた彼氏のれんさんに挨拶する。

すると、蓮さんはぶかぶかしていたジャケットを椅子にかけながら自己紹介をしてくれた。

蓮「光さんとお付き合いさせて頂いている佐藤 蓮さとう れんと言います。年末には…」

光「ストップ。それは後で。」

蓮「なんで?」

光「これ以上の刺激は苺には毒だから。」

苺「なにそれー…。」

私が光ねぇにふてくされると隣にいた蓮さんもふてくされた顔を作るように唇を尖らせた。

蓮「えー…。じゃあ式の予約はまだ先なのー?」

苺「シキ?」

蓮「そうそう。」

シキ…?

ってなに?

私は蓮さんと光ねぇが隠している事が分からなくてぐるぐるとフォークを回しながら考えるけど、光ねぇは蓮さんの口をつまんで喋らせなくさせた。

光「内緒話をするなら私の家行こ。さっき通ったケーキ屋さんでデザート買ってから帰ろっか。」

苺「うん!」

今日はデブ活する気で光ねぇたちとデザートと夜ご飯の買いものを済ませて家に行くと、まさかのカードキー。

どんだけいいところに住んでるんだと思っていたけど、ベッドの部屋とご飯を食べる部屋があるだけのとても狭い家だった。

けど、家賃は15万。

そんなお金があったら私は旅行に行きたいよと言ったけど、セキュリティやらなんやらがいいそう。

実家は夜でも鍵を閉め忘れる事があるのに都会は大変だなと思っていると、蓮さんがデザートのフルーツタルトをお皿に盛り付けてくれた。

苺「ありがとうございます。」

蓮「いえいえ。苺ちゃんはお父さん似なのかな。」

苺「え?」

蓮「光とそんなに顔似てないよね。」

と、玄関と連携している台所で冷たい紅茶を作っている光ねぇに聞こえないよう小さい声で聞いてきた。

苺「そう…かな?歳のせい?」

蓮「何歳差なんだっけ?」

苺「12歳差。干支一緒なの。」

私は耳を作って自分の干支の真似をすると、蓮さんは可愛いと言ってくれてちょっと惚れかける。

蓮「そういえばアルバム持ってきてくれたんでしょ?」

苺「そう!お父さんが詰めてくれたからまだ見れてないんだー。」

蓮「家で見た事ないの?」

苺「自分のは見たことある。」

蓮「珍しいね。」

…珍しいの?

私の常識とは違う蓮さんに首を傾げていると、丸い氷が入ったグラスに透き通っている赤い紅茶を入れてきた光ねぇが机を挟んで私の前に座った。

光「何話してたの?」

蓮「アルバムの事。人にアルバム見せたくない派?」

光「そんな事ないけど?」

そう言って光ねぇは私にアルバムを出してと手を伸ばしてきたのでお父さんに詰めてもらったアルバムが入っているバッグを渡し、一つ一つ年齢を追うように見ていくと私が出てきた。

苺「…真っ赤。」

光「苺は生まれたてがイチゴみたいだったから“まい”になったんだよー。」

苺「幸福を舞い込んでくれる子になりますようにってお母さん言ってたけど。」

光「それは後付け。私がイチゴちゃんって最初に決めたの。」

…真っ赤なしぼしぼ顔でイチゴちゃん?

センスある?ない?

少し私の名前に疑問を持ちながら光ねぇの思い出を振り返っていると、不自然に1枚の写真が抜けているページが出てきた。

光「…あれ?ここだけ2枚?」

と、光ねぇは全ページ3枚ずつ隣に一言メッセージが書かれてあったアルバムのページを戻す。

蓮「こっちは1枚。」

蓮さんは先のページを覗き見して他のページもなくなっている事を教えてくれた。

光「え…、なんで…。なんでないの…?」

光ねぇは驚きのあまり瞬き一切せずに小学校低学年のアルバムを投げ捨てて高学年のアルバムを何度もめくるけれど、所々に写真がないページがあり私は息を飲んでしまう。

光「津田つだくんがいない…っ。ぜんぶ、なくなってる…。」

と、中学校3年間のアルバムも確認し終えた光ねぇは閉じたアルバムの上に泣き崩れてしまった。

蓮「だ、誰…?どうしたの…?」

私と蓮さんは初めて光ねぇが取り乱してるところを見てどうしようかと目で語り合っていると、カランとアルバムだけが入っていたはずのバッグから缶の音が聞こえた。

それを確かめるために私はバッグの中に手を伸ばし、音の正体を手に取ると忘れかけていた遊園地の記憶が蘇るお土産のクッキー缶が出てきた。

苺「これ…、なんか入ってる…?」

私は蓋を開ける前に軽く振ってみると、空の缶だと思っていた中からカサカサと何か紙が擦れる音が聞こえる。

すると、光ねぇは鼻をすすりながら私の手から缶を取り、そっと開けると1枚の写真が出てきた。




待永 晄愛/なぎさくん。
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