幼なじみは異世界の王子様でした。

茂栖 もす

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女同士の仁義なき争い

30. とある王子の回想【隆兄ちゃん目線】

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 唇を離しても、愛おしい彼女の感触が残っている。その余韻に浸っていたら、信じられない言葉が飛び込んできた。

「これは、夢?」

 その瞬間、思いっきり彼女の頬を抓った事は、致し方ないことだろう。ただ手加減をしなかったことは悔やまれる。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 かわいがり、いつくしむ。そして心から大切に思うことを人は愛と呼ぶ。

 なら、自分はもう11年、目の前の彼女を愛してきたことになる。そして、これからもずっとこの気持ちは変わらない。それほどまでに、彼女は自分にとって大切な存在なのだ。ただ、それについて語るのは時間がいくらあっても足りないので割愛させてもらう。

 さて愛した日々の年月は容易に数えることはできるが、その期間の中で恋をどれくらいしているのかと問われれば、それはちょっと曖昧になってしまう。
 
 そしてその相手は自分の気持ちを知っているのかとも問われれば、これまた返事を濁してしまう。なぜなら、彼女は4つ年下の恐ろしく鈍感な少女だからだ。

 恋愛よりチョコレート。恋人よりから揚げを取る少女に、愛のささやきなどしても暖簾に腕押し、馬の耳に念仏となる。

 必死に口説こうとする自分を想像すれば、えもいわれぬ惨めさが全身を包む。

 だから、ずっと待っていた。いつか彼女がそれ相応の女性となり、自分を異性として意識してくれるまで。けれど、結局待てなかった。どうやら、自分は思っていた以上に気が短いらしい。

 子供と呼ぶには、もう成長しすぎて、大人と呼ぶにはまだあどけない彼女の唇を強引に奪ってしまったのだから。




 

 俺の名前は、西崎隆一。現在、大学3年生。そろそろ就職活動に目を向けなければならない時期にさしかかり、今後の自分の人生設計について真剣に考えなければならない。

 といっても、自分には決められたレールが引いてある。それは抗うことができないもので、そう遠くない未来、この肩に権力と重責が圧し掛かる。


 それはもうひとつの名前があるからで、その名はリデュースヴェンサルフィン国 第一王子リュー。その名が指し示すとおり、自分は異世界と呼ばれるところの王子だからだ。


 さて、女性は総じて【王子様】という響きに弱い。
 巷では【王子系男子】や【○○王子】など、やみくもに王子という単語が溢れている。

 どうやら王子様と呼ばれる男性は端正な顔つきで爽やかな笑顔、品がありすらっとしていること、そして対象者である女性をお姫様扱いする男性のことを指す言葉だそうだ……現役王子としては、これはいかがなものかと思う。

 何故なら、王子というのは王国の後継者、王の子である称号でしかない。

 現役王子としては、理想を押し付けられ戦々恐々としている毎日だ。正直言って、これ以上王子に対して高スペックを求めないで欲しいのが本音だ。

 余談だが、振り向いてほしい彼女は、全く王子に興味がないらしい。
 数年前、何気なく彼女に【お前、王子系の男ってどう思う?】と聞いたところ【うさんくさい】という、身を切り裂くような言葉を吐かれてしまったからだ。

 そろそろ自分の出自を語ろうかと思っていた矢先の出来事だった。もちろん、カミングアウトを先送りにしたのは、言うまでもない。

 そんな自分の葛藤など知らず、幼馴染はのんびりとした学校生活を送っている。まぁ、テストで四苦八苦しているところを除けば概ね平和に過ごしていた。

 反対に自分は言えない秘密を抱えたまま。表面上は幼馴染と家族ぐるみで食卓を囲む日々が続いて、それに耐え切れず他の女性と……ということもあった。けれど、ここでは詳細は語らないでおこう。所詮、男というのは、しょうもない生き物なのだ。ただ結局、幼馴染への想いを再確認する結果となり、苦い思い出となってしまった。これも、人は黒歴史と呼ぶのだろうか。


 それから数年、どう切り出そうか悩みに悩み、結果、自分のうっかりで彼女に知られてしまった。あの時の自分はかつてないほど取り乱し、結局、強引かつゴリ押しで自分の出自を吐露したのだった。

 その結果───幼馴染は、ものの数秒で異世界に馴染んでしまった。今となっては、あれは怪我の功名だったと思うことにしている。

 けれど、長年の片思いは一向に発展する気配を見せない。しかも、目を放した隙に悪友と合コンに行く約束などする始末だった。幼馴染に愛しさ以外の苛立ちを覚えたのは事実だった。
 
 そしてその後しばらくして、彼女の無知と無邪気さと勘違いのおかげで、一線を越えるチャンスに恵まれた。渡りに船とばかりに彼女を押し倒してみたら、愛らしいその口から、とんでもない言葉が飛び出してきた。


【私以外の女の子だって、あっちにいけるじゃん!】

 ゆうに事欠いて、何てことを言うんだ。
 多少、異性との交流があったにせよ、一線を越えた事実はない。一線を越える相手は生涯ただ一人で充分だし、既にもう決めている。

 その本人に向かって、いい加減気づけという意味と、過去のことに触れるなという牽制も込めて感情的に叫んでしまった。


 その結果、怯えるか、泣くか、それとも受けて立つのか……結果は、想像の斜め上だった。まあ、彼女らしいといえば彼女らしい。ただ、次に同じ機会があったら、抑えているものは間違いなく爆発するだろう。


 さて、真っ赤になった愛しい彼女はこれから、知らず知らずの内に外堀を埋められていくことになる。

 ほぼ強引にお妃候補であるフロイラの任を押し付けても、西崎家の危機という半分ハッタリを信じて疑わない彼女に少し罪悪感を持つが、なにせ異世界人との結婚となるのだ。多少の強引さは詮方ない。

 そして二つ返事で引き受けた彼女に、西崎家の全員が【してやったり】と心の中でガッツポーズを作ったことは墓場まで持っていく所存だ。

 ただ、普通とはかけ離れた人生を歩んでもらうことになる。それについては、今でも葛藤している、けれど手放すつもりはない。彼女には悪いが、腹をくくってもらうしかない。


 と、いうことを考えながら、キス一つでキャパオーバーになる幼馴染を残して、自分はもう一つの【家】へと向かう。

 

 転移する瞬間、夜空に浮かんだ月を眺め、小さく息をつく。
 こんな強引な方法で彼女を手に入れようとしている自分だが、実は一つだけ待ち続けている、待ち望んでいることがある。それは、彼女の口から好きだという言葉を貰うこと。
 
 俺は無意識に手にした彼女のドレスに唇を這わず。このドレスは、間もなく行われる催事で彼女が袖を通すもの。このドレスを彼女が身に纏うとき、どうかその言葉を貰えるよう俺はあることを思いついたのだ。

 

 それは、このドレスが完成したら、彼女に伝えることにしよう。
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