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女同士の仁義なき争い
32.ショッピングモールに強制招集②
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クレープ屋さんの列に並んだ途端、名を呼ばれて思わず振り返った先には一人の男性がいた。
アッシュグリーンの髪色に、ゆったりとしたサマーセーター。大学生かなぁ、歳は隆兄ちゃんとそんなの変わらなそう。でも、こんな人知らない。あとなんかチャラ男っぽい。
お宅どなたと首を傾げる私をよそに、そのチャラ男は少し乱れた前髪を直しながら、私に向かって口を開いた。
「探しましたよ、ミズキさん。こんなところにいたんですか」
「…………………は?」
「っていうか、勉強するっていってたから図書館と本屋さん軒並み探したんですよ。で、見つけたのがまさかのクレープ屋さん。あの……こう言っちゃなんですが勉強嫌いって本当だったんですね」
「…………………え?」
「勉強するって言ったんだから、せめて勉強できる場所にいてくださいよ。いやーでも、読みが当たりましたね。甘いにおいのするところに、必ずミズキさんいるって言ってましたから」
「……………………ん?」
つらつらと喋るこのチャラ男は一体誰なのだろう?と一瞬考えてすぐに結論が出た。この人、不審者だと。とりあえず、はぁどうもと愛想笑いを浮かべつつ、そっとポケットからスマホを取り出す。電話を掛ける先はもちろん110。繋がったらすぐに【お巡りさん、変な人がいまーす】と叫ぼうと思ったら───
「不審者を見かけたらすぐさま110番、それは良い心がけですね。でも、俺は不審者じゃないですよ」
あっという間にスマホを取り上げられ慌てて3歩後ずさる私に、そのチャラ男は2歩詰めてきた。目にも止まらぬ早さでスマホを取り上げられた私には、どこからどう見てもこのチャラ男は不審者にしか見えない。
けれど、チャラ男は訝しそうに睨む私を見た途端、信じられないと言わんばかりに、首をふるふると横に振った。
「………………え?もしかして、まだわからない?」
「はい」
素直に頷いた私にチャラ男は、はぁーっと物凄く長い息を吐いた。それから、いきなり自分の前髪をひとまとめにして、後ろに撫でつけた。
「これでもわかりませんかね、フロイラ様」
「レイムさん!?」
アッシュグリーンのオールバック。そして私をフロイラと呼ぶ人は一人しかいない。
記憶と目の前のチャラ男が一致した途端、思わず叫んだ私にレイムさんはやれやれと肩をすくめた。
「やっと気づかれましたか。あの、もしかしてフロイラ様は、目が悪いんですか?それとも頭が悪いんですかね?」
「………………多分、頭が悪いんだと思います」
「素直で何よりですが……自分で言ってて恥ずかしくないですか?」
「死にたいほど恥ずかしいですよ」
不貞腐れながら答えた私に、レイムさんは残念な子を見る目で私を見た。
でも、私だって言いたいことがある。ここは日本、私のホームだ。そこに異世界のレイムさんが突如現れるなんて誰が想像できたであろうか。
「っていうか、レイムさん、なんでこんな所にいるんですか?」
要約した私の問いかけにレイムさんは、ちょっとムッとしながら答えてくれた。
「見ての通り仕事ですよ。リュウー様からの命令でね、逃亡したフロイラ様を探して来いってね」
「そりゃあどうも、おつとめごくろうさまですー」
内心、誰のせいで逃亡するハメになったのかとチッと舌打ちしながら悪態をつく自分と、やっぱり隆兄ちゃんは過保護だなと呆れ半分嬉しさ半分の自分がいる。
そんなことを考えていた結果、レイムさんに適当に返答したのがバレたらしく、隆兄ちゃんの側近さんは、秒速で半目になった。
「………まぁ、見つかったから良しとしましょう。じゃ、帰りましょっか」
そういうが早いが、レイムさんは私の腕を掴んでクレープ屋さんの列から外そうとする。
「嫌だっ。帰らない!」
勢いよく首をぶんぶん横に振りながら両足に力を入れて、思いっきり踏ん張ってみる。
そんな駄々っ子のような私の態度に、レイムさんは若干怯えている。確かに16歳にもなって、この態度は呆れを通り越して恐怖の域に達しているだろう。でも今は、なりふりかまってなんかはいられない。
一歩も引かない私に、レイムさんは最初は怯えていたけれど、次第に不機嫌になっていき、眉間にくっきりと皺を刻みながら口を開いた。
「そんなにクレープが食べたいんですか?でも、所詮クレープなんて、小麦粉で伸ばした生地に、そこらにある有り合わせの材料を包んだだけの食べ物なのに、何をそんなに執着してるんですか?」
「いいの!食べたいのっ」
いや、本当はそこまでクレープが食べたいわけではない。
レイムさんが帰ろうと言ってる先は、間違いなく西崎家かお城の事。嫌だ、まだ気持ちの整理がついてないのに、隆兄ちゃんと顔を合わすなんて絶対にお断りだ。
ぷくぅっと頬を膨らませた私に、レイムさんは今度は3歳児を見る目になった。
「……えーっと、じゃ、これ食べたら帰りましょうね。っていうか、テイクアウトで良いですよね?」
「そういう問題じゃないっ」
思わず言い返してしまったら、レイムさんはニヤリと意地の悪い笑みを浮かべた。あ、この笑い、隆兄ちゃんが腹黒いことを考えているときに浮かべるやつと同じだ。それってつまり───。
「ははーん、リュー様とキスしたから、帰りづらいんですね」
「!!!!!!!!!!!!!!!!」
声にならない叫び声を上げて私は、真っ赤になった両頬を押さえる。それから何度か深呼吸をして、思いっきりレイムさんに向かって思いの丈をぶつけた。
「盗み聞き、ダメ、絶対!!」
どうやら見てみぬふりをするという日本人の気遣いはレイムさんにはないらしい。でも、すんなりこのショッピングモールに溶け込める隠密スキルがあるのだから、空気を読むというスキルを是非とも身に付けて欲しいものだ。
そんなこんなでジト目で睨んだ私に、レイムさんふっと鼻で笑って口を開いた。この笑い方も、隆兄ちゃんにそっくりだ。なんで、そんなところばかり隆兄ちゃんに似ているのだろう。腹が立つ。
「いやいや、盗み聞きなんて人聞きの悪いこと言わないで下さいよ。何言ってるんですか、ついさっき大声でキスしただの、何だのってミズキさんとそのお友達が大声でのたまっていたじゃないですか。周りの人に丸聞こえでしたよ────……ね?」
レイムさんは、ね?と後ろに並んでいる子連れのおじさんに同意を求める。いきなりふられたおじさんは、気まずそうにふいっと視線をずらした。……あ、聞いていらしたんですね。
更に真っ赤になった私は、とりあえず、知らないおじさんに黙礼する。おじさんも、そっと同じように返してくれた。あーいいね、それでこそ日本人。
「ま、そんなことどうでも良いからさっさと、帰りましょう。でもって、リュー様に直接気持ちを聞いてみるなり、自分から告白するなり、なんならもう、スパンとヤッちゃったりしてくださ────」
「うわぁぁぁ、レイムさん、何言ってるの!?」
慌ててレイムさんの口を両手で塞ぐが遅かった。後ろに並んでいるおじさんは、子供の耳を両手で塞いで、こちらをぎろりと睨んでいる。
おじさんにとったら、ただクレープを買いに来ただけだというのに、子供の教育上よろしくないことを聞かされていい迷惑だろう。本当に申し訳ない。
ペコペコと何度もおじさんに頭を下げた後、レイムさんの袖を掴んで耳をこちらに向けてもらう。
「ちょっと、いい加減にしてください。なんてことを言うんですかっ。超恥ずかしいっ。もう、ここ私の寄り道スポットだったのに、当分来れないじゃないですか」
小声だけど、ぷんすか怒りを訴える私に、レイムさんは悪びれる様子もなく、からりと笑ってこう言った。
「そりゃよかった。リュー様、高校に入った途端、ミズキさんが寄り道ばかりするってぼやいていたから、丁度良かったですね」
「良くないよっ」
隆兄ちゃんだって、高校生の時はしょっちゅう寄り道してたくせに、私には寄り道するな、なんてちょっとズルい。学校帰りに食べるソフトクリームの味はいつもの3割増しなのだ。これをやめろなんて、酷すぎる。
噛みつくように叫んだ私に、レイムさんは大袈裟に溜息を付いた。
「ま、与太話はこれくらいにして、あんまりリュー様に心配かけないであげてくださいね。さっきも、合コンがうんちゃらかんちゃらって言ってましたけど……」
「合コンなんて、行かないよっ。あ、でも、隆兄ちゃんには黙っててください」
なにせフロイラは純潔の象徴らしい。ちょっと前に合コン行くのも口にするのも禁止と言われている。もし隆兄ちゃんの耳に入ったら【舌の根も乾かぬうちにお前はっ】と怒られてしまうだろう。今ちょっと、こう微妙な時なのでこれ以上厄介な状況になんてしたくない。
レイムさんといえば、必死に懇願する私を見下ろしながらニヤニヤしている。ああもう、さっきから隆兄ちゃんの残像がちらついて仕方がない。
そしてまるで隆兄ちゃんの分身のようになったレイムさんは、これまた意地の悪いことをいってのけた。
「じゃ、黙っててあげるかわりに、今すぐ帰りましょ」
「えー!?」
そんな殺生なと私がぎょっとした目を向いた途端、すぱーん、と小気味いい音がフロア全体に響いた。
あっと思った瞬間、レイムさんは頭を抱えて、ぱっと消えてしまった。そして、レイムさんが消えた先には一人の女性が立っていた。
「まったく、レイったら、水樹ちゃんを困らせて何がおもしろいのよ」
自分が叩きましたと言わんばかりに、女性の手は中途半端に浮いたままだった。
……………私、この女性に見覚えがある。
ちなみにこの人に会うのは今日で2回目、あ、写メを入れたら3回目だった。
すらっとした長身で、きゅっと細いウエスト……なのに、ゆったりとしたワンピースなのにわかってしまう豊満な胸。そして可憐で上品な顔つきのこのお姉さんは、レイムさんの彼女さんだ。
え?なんで彼女さん私のこと知ってるの?とか、仕事中だと言っていたレイムさんが彼女同伴とか何してんの?とか色々疑問が浮かんできたけれど……
とりあえず、レイムさんがリア充していることにイラッとした。
うん、本当にちょっとだけだけど、ね。
アッシュグリーンの髪色に、ゆったりとしたサマーセーター。大学生かなぁ、歳は隆兄ちゃんとそんなの変わらなそう。でも、こんな人知らない。あとなんかチャラ男っぽい。
お宅どなたと首を傾げる私をよそに、そのチャラ男は少し乱れた前髪を直しながら、私に向かって口を開いた。
「探しましたよ、ミズキさん。こんなところにいたんですか」
「…………………は?」
「っていうか、勉強するっていってたから図書館と本屋さん軒並み探したんですよ。で、見つけたのがまさかのクレープ屋さん。あの……こう言っちゃなんですが勉強嫌いって本当だったんですね」
「…………………え?」
「勉強するって言ったんだから、せめて勉強できる場所にいてくださいよ。いやーでも、読みが当たりましたね。甘いにおいのするところに、必ずミズキさんいるって言ってましたから」
「……………………ん?」
つらつらと喋るこのチャラ男は一体誰なのだろう?と一瞬考えてすぐに結論が出た。この人、不審者だと。とりあえず、はぁどうもと愛想笑いを浮かべつつ、そっとポケットからスマホを取り出す。電話を掛ける先はもちろん110。繋がったらすぐに【お巡りさん、変な人がいまーす】と叫ぼうと思ったら───
「不審者を見かけたらすぐさま110番、それは良い心がけですね。でも、俺は不審者じゃないですよ」
あっという間にスマホを取り上げられ慌てて3歩後ずさる私に、そのチャラ男は2歩詰めてきた。目にも止まらぬ早さでスマホを取り上げられた私には、どこからどう見てもこのチャラ男は不審者にしか見えない。
けれど、チャラ男は訝しそうに睨む私を見た途端、信じられないと言わんばかりに、首をふるふると横に振った。
「………………え?もしかして、まだわからない?」
「はい」
素直に頷いた私にチャラ男は、はぁーっと物凄く長い息を吐いた。それから、いきなり自分の前髪をひとまとめにして、後ろに撫でつけた。
「これでもわかりませんかね、フロイラ様」
「レイムさん!?」
アッシュグリーンのオールバック。そして私をフロイラと呼ぶ人は一人しかいない。
記憶と目の前のチャラ男が一致した途端、思わず叫んだ私にレイムさんはやれやれと肩をすくめた。
「やっと気づかれましたか。あの、もしかしてフロイラ様は、目が悪いんですか?それとも頭が悪いんですかね?」
「………………多分、頭が悪いんだと思います」
「素直で何よりですが……自分で言ってて恥ずかしくないですか?」
「死にたいほど恥ずかしいですよ」
不貞腐れながら答えた私に、レイムさんは残念な子を見る目で私を見た。
でも、私だって言いたいことがある。ここは日本、私のホームだ。そこに異世界のレイムさんが突如現れるなんて誰が想像できたであろうか。
「っていうか、レイムさん、なんでこんな所にいるんですか?」
要約した私の問いかけにレイムさんは、ちょっとムッとしながら答えてくれた。
「見ての通り仕事ですよ。リュウー様からの命令でね、逃亡したフロイラ様を探して来いってね」
「そりゃあどうも、おつとめごくろうさまですー」
内心、誰のせいで逃亡するハメになったのかとチッと舌打ちしながら悪態をつく自分と、やっぱり隆兄ちゃんは過保護だなと呆れ半分嬉しさ半分の自分がいる。
そんなことを考えていた結果、レイムさんに適当に返答したのがバレたらしく、隆兄ちゃんの側近さんは、秒速で半目になった。
「………まぁ、見つかったから良しとしましょう。じゃ、帰りましょっか」
そういうが早いが、レイムさんは私の腕を掴んでクレープ屋さんの列から外そうとする。
「嫌だっ。帰らない!」
勢いよく首をぶんぶん横に振りながら両足に力を入れて、思いっきり踏ん張ってみる。
そんな駄々っ子のような私の態度に、レイムさんは若干怯えている。確かに16歳にもなって、この態度は呆れを通り越して恐怖の域に達しているだろう。でも今は、なりふりかまってなんかはいられない。
一歩も引かない私に、レイムさんは最初は怯えていたけれど、次第に不機嫌になっていき、眉間にくっきりと皺を刻みながら口を開いた。
「そんなにクレープが食べたいんですか?でも、所詮クレープなんて、小麦粉で伸ばした生地に、そこらにある有り合わせの材料を包んだだけの食べ物なのに、何をそんなに執着してるんですか?」
「いいの!食べたいのっ」
いや、本当はそこまでクレープが食べたいわけではない。
レイムさんが帰ろうと言ってる先は、間違いなく西崎家かお城の事。嫌だ、まだ気持ちの整理がついてないのに、隆兄ちゃんと顔を合わすなんて絶対にお断りだ。
ぷくぅっと頬を膨らませた私に、レイムさんは今度は3歳児を見る目になった。
「……えーっと、じゃ、これ食べたら帰りましょうね。っていうか、テイクアウトで良いですよね?」
「そういう問題じゃないっ」
思わず言い返してしまったら、レイムさんはニヤリと意地の悪い笑みを浮かべた。あ、この笑い、隆兄ちゃんが腹黒いことを考えているときに浮かべるやつと同じだ。それってつまり───。
「ははーん、リュー様とキスしたから、帰りづらいんですね」
「!!!!!!!!!!!!!!!!」
声にならない叫び声を上げて私は、真っ赤になった両頬を押さえる。それから何度か深呼吸をして、思いっきりレイムさんに向かって思いの丈をぶつけた。
「盗み聞き、ダメ、絶対!!」
どうやら見てみぬふりをするという日本人の気遣いはレイムさんにはないらしい。でも、すんなりこのショッピングモールに溶け込める隠密スキルがあるのだから、空気を読むというスキルを是非とも身に付けて欲しいものだ。
そんなこんなでジト目で睨んだ私に、レイムさんふっと鼻で笑って口を開いた。この笑い方も、隆兄ちゃんにそっくりだ。なんで、そんなところばかり隆兄ちゃんに似ているのだろう。腹が立つ。
「いやいや、盗み聞きなんて人聞きの悪いこと言わないで下さいよ。何言ってるんですか、ついさっき大声でキスしただの、何だのってミズキさんとそのお友達が大声でのたまっていたじゃないですか。周りの人に丸聞こえでしたよ────……ね?」
レイムさんは、ね?と後ろに並んでいる子連れのおじさんに同意を求める。いきなりふられたおじさんは、気まずそうにふいっと視線をずらした。……あ、聞いていらしたんですね。
更に真っ赤になった私は、とりあえず、知らないおじさんに黙礼する。おじさんも、そっと同じように返してくれた。あーいいね、それでこそ日本人。
「ま、そんなことどうでも良いからさっさと、帰りましょう。でもって、リュー様に直接気持ちを聞いてみるなり、自分から告白するなり、なんならもう、スパンとヤッちゃったりしてくださ────」
「うわぁぁぁ、レイムさん、何言ってるの!?」
慌ててレイムさんの口を両手で塞ぐが遅かった。後ろに並んでいるおじさんは、子供の耳を両手で塞いで、こちらをぎろりと睨んでいる。
おじさんにとったら、ただクレープを買いに来ただけだというのに、子供の教育上よろしくないことを聞かされていい迷惑だろう。本当に申し訳ない。
ペコペコと何度もおじさんに頭を下げた後、レイムさんの袖を掴んで耳をこちらに向けてもらう。
「ちょっと、いい加減にしてください。なんてことを言うんですかっ。超恥ずかしいっ。もう、ここ私の寄り道スポットだったのに、当分来れないじゃないですか」
小声だけど、ぷんすか怒りを訴える私に、レイムさんは悪びれる様子もなく、からりと笑ってこう言った。
「そりゃよかった。リュー様、高校に入った途端、ミズキさんが寄り道ばかりするってぼやいていたから、丁度良かったですね」
「良くないよっ」
隆兄ちゃんだって、高校生の時はしょっちゅう寄り道してたくせに、私には寄り道するな、なんてちょっとズルい。学校帰りに食べるソフトクリームの味はいつもの3割増しなのだ。これをやめろなんて、酷すぎる。
噛みつくように叫んだ私に、レイムさんは大袈裟に溜息を付いた。
「ま、与太話はこれくらいにして、あんまりリュー様に心配かけないであげてくださいね。さっきも、合コンがうんちゃらかんちゃらって言ってましたけど……」
「合コンなんて、行かないよっ。あ、でも、隆兄ちゃんには黙っててください」
なにせフロイラは純潔の象徴らしい。ちょっと前に合コン行くのも口にするのも禁止と言われている。もし隆兄ちゃんの耳に入ったら【舌の根も乾かぬうちにお前はっ】と怒られてしまうだろう。今ちょっと、こう微妙な時なのでこれ以上厄介な状況になんてしたくない。
レイムさんといえば、必死に懇願する私を見下ろしながらニヤニヤしている。ああもう、さっきから隆兄ちゃんの残像がちらついて仕方がない。
そしてまるで隆兄ちゃんの分身のようになったレイムさんは、これまた意地の悪いことをいってのけた。
「じゃ、黙っててあげるかわりに、今すぐ帰りましょ」
「えー!?」
そんな殺生なと私がぎょっとした目を向いた途端、すぱーん、と小気味いい音がフロア全体に響いた。
あっと思った瞬間、レイムさんは頭を抱えて、ぱっと消えてしまった。そして、レイムさんが消えた先には一人の女性が立っていた。
「まったく、レイったら、水樹ちゃんを困らせて何がおもしろいのよ」
自分が叩きましたと言わんばかりに、女性の手は中途半端に浮いたままだった。
……………私、この女性に見覚えがある。
ちなみにこの人に会うのは今日で2回目、あ、写メを入れたら3回目だった。
すらっとした長身で、きゅっと細いウエスト……なのに、ゆったりとしたワンピースなのにわかってしまう豊満な胸。そして可憐で上品な顔つきのこのお姉さんは、レイムさんの彼女さんだ。
え?なんで彼女さん私のこと知ってるの?とか、仕事中だと言っていたレイムさんが彼女同伴とか何してんの?とか色々疑問が浮かんできたけれど……
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