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私と彼の初対面【お茶会編】①

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 ディメルグ家に向かう途中、馬車の中で侍女のティリカは私を勇気付けようとしているのか、延々と持論を展開している。最初はモテる女の極意、次にモテない女の特徴。

 そして何故か胸ついて熱弁を奮い出している。

「フリーディア様、大丈夫です。胸の大きさなど、たいした問題ではありません。要は、形と張りです。フリーディア様のお胸はその、貧……いえ、慎ましやかではありますが、形と張りは申し分ございません!」

 そう力説する、ティリカの胸元は歪みのないI(アイ)の字だ。そして私の胸元はY(ワイ)の字である。

 Ì(アイ)の字は、自然の谷間。
 Y(ワイ)の字は、人工の谷間。

 同性だからわかる。このI(アイ)とY(ワイ)とは、雲泥の差があり、その壁は決して越えることができないということを。今日のお茶会のため、私はこれ以上に無いほど、胸を寄せて上げている。ちなみに本日の私の胸のふくらみの比率は、詰め物と自前が1:1である。

「……あっありがとう、ティリカ」

 だからもう、この話題はやめましょうとやんわり口を開こうとするが、再びティリカの巨乳論が展開される。

「男性がまず最初に行くのは胸、これは仕方ないです。だって、自分に無いものを求めるのは、人間の性ですから。フリーディア様、諦めて下さい」
「…………」
「でも、すぐに他の良いところで、貧……いえ、慎ましい胸はどうでも良くなるんです」
「……ティリカいちいち言い直さなくて良いわよ。貧乳と言ってちょうだい」
「あっそうですか、じゃお言葉に甘えて。貧乳は別のところで補えるんです。悲観しないでください」
「……そうなのね」
「そうです!フリーディア様!だって、巨乳の奥様がいる殿方だって、浮気するんですよっ。胸の大きさだけで、男性を繋ぎ止められるものではないんですっ。貧乳なんて女性にとって、大した障害ではないんですっ。どうか貧乳を嘆かないでください」
「…………」

 巨乳で繋ぎ止められないなら、貧乳などもっと無理ではないか────などという反論をするつもりはない。私は、自分の慎ましい胸にその言葉を、そっと収めておいた。

 あとティリカ……さっきから、貧乳貧乳と連呼しながら、私の胸元をいちいち確認するのはやめてちょうだい。

「第一印象は数秒で決まると言います。フリーディア様、笑顔です、笑顔。胸元へ視線を行かせぬよう、柔らかい笑顔で相手の心を掴んで下さい!そうすれば、貧乳も誤魔化せます!!」

 熱弁するティリカは、勢い余って私の両手を掴んだ。その勢いに押され、私は曖昧に頷いた。

「フリーディア様、私、応援してますからねっ」

 潤んだティリカの瞳が胸に刺さり、私はそっと視線をずらした。ずらした先には、ティリカの胸元のI(アイ)の字。私は二重にダメージを喰らった。



「あ!そろそろ、到着みたいですわ」
「………………………………………」

 胸の傷によろめく私を無視して、ティリカは明るい声をだす。合戦前なのに既に満身創痍の私は、ティリカに返事をする余裕はどこにも無い。

 そんな私を無視して、馬車は無常にもディメルグ家に到着した。





◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





「ようこそ、ディメルグ家へ。お待ちしておりました」
「……………………………」

 慇懃に腰を折るディメルグ家の執事らしき人物に、私は無言のまま一歩も動けずにいる。

 ………別に、私は不機嫌で出迎えを無視している訳ではない。ただ単に言葉を失っていいるだけなのだ。一応、扇で半開きになった口元を隠す理性は残っているが、社交辞令を述べる余裕はどこにもない。

 門構え、屋敷の大きさ、施工技術、どれを取っても、公爵家は格が違う。どの口が合戦などとのたまったのだ。聞いて呆れる。



 しかし、主人の私が何も言えず固まっているときは、侍女のアシストがあるものだか、隣のティリカに至っては、呆然を通り越して、青ざめている。使えない。

「わざわざ足をお運びいただいてありがとうございます。坊ちゃ……失礼、ルディローク様もお待ちかねです。こちらにどうぞ」

 執事と思おぼしき壮年の男性は、そう言うと私たちを先導し、中庭へと進んだ。

「あっ、失礼しました。私はこのディメルグ家で執事を務めております、クラウドと申します。以後お見知りおきを」 
「……はい」

 フリーディア翻訳───余談交渉は、執事のクラウドが窓口となります。

「坊ちゃ……失礼、ルディローク様もお茶会が決まってから、随分、張り切っておられました」
「……はい」

フリーディア訳───ルディローク様も手ぐすね引いて待ってるからな。

「本日はどうぞごゆっくりお二人でお過ごし下さい」
「……はい」

 フリーディア訳───しっかり誠意をみせろよ。



 お茶の席に着くまでの軽いジャブが堪える。戦は諦めた、これはもう既に負け戦でしかない。和睦交渉ができれば御の字だ。私はすぐさま思考を切り替えると、裁判に出廷する気持ちで足を引きずるように、クラウドに着いていく。



「さっお待たせしました」

 俯き極力視線を合わせないようにしていたが、クラウドの言葉ではっと顔を上げた。

 中庭に設えたお茶会の席は、真っ白なテーブルクロスと、大きな日傘。テーブルには色とりどりの花が置かれ、既にティーセットの準備がされていた。



 そしてテーブルの直ぐ横に───彼、ルディロークがいた。
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